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星屑の結晶  作者: 林檎飴
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星屑の結晶

大勢が見守る中で、球体の天井にこのあたりの風景が映し出された。どうやら、科学館から見た星空を見ることになるらしい。

風景が変わっても、氷上の握力は同じ力を保持していた。翔は呆れながらも頭上を凝視する。

昼間の風景は、普通の何倍ものスピードで夜に近づいていった。あっという間に夕方だ。そこからはゆっくりと夜が更け、あちらこちらに星が瞬き始める。会場内から、星だと言う小さい子供の声が聞こえた。


「それでは今の季節に見える星座の紹介をします。皆さんご存知の方がほとんどだと思いますが、はくちょう座、こと座とわし座です」


アナウンスの声にあわせて、今言った星座がクローズアップされた。隣には星座の名前も映し出される。


「はくちょう座のデネブ、こと座のベガ、わし座のアルタイルを結ぶと、あの有名な夏の大三角になります。織姫星と彦星の話は耳にしたことがあるでしょうか。この三つの星は1等星といって、とっても明るい星なのです」


これは翔でも知っている。夏の夜に空を見上げると、必ずといっていいほど目につく星だ。他の星と張り合うようにぎらぎら輝いて、何を生き急いでいるんだろうと毎回思ってしまう。


それからも星座の紹介は続いた。ヘルクレス座やてんびん座、さそり座にへび座。名前は聞いたことがあるように思えるが、場所も形も知らなかった。今までただ星が散らばっているようにしか見ていなかった星々にも、ちゃんとした名前と居場所がある。それがとても不思議だ。


「さあここまで星の紹介をしてきましたが、実はこれではまだ不完全です。普通なら見えるはずの星たちが、街や工場の明かりでかき消されてしまうんです。では、もしこのあたり一帯の明かりをすべて消したらどうなるか。ご覧ください」


そう言った途端、数え切れないほどの星たちが一斉に目の前に迫ってきた。天井を押し潰さんばかりの星々に、観客席がどよめいた。子供たちの高い歓声も聞こえる。


「すげー」


右隣の流が、そう言って翔に笑いかけた。翔もこくこくと頷く。


「明かりをなくすとこんなに星が見えるんですよ。すごいですね。それでは先ほど紹介したベガ、デネブ、アルタイルを見つけてみてください」


星屑が視界いっぱいを埋め尽くしても、あの三つの星は見つけやすい。翔はしっかりとその星を見据えた。


「見つけられましたか?ベガとアルタイルの間に雲のような塊があるのがわかりますね。これが天の川です。実際に雲ではなく、たくさんの星の集まりでできているんです。牛乳を零したように見えることから、ミルキーウェイとも呼ばれます。これは、実は私たちがいる銀河系の中心をみているのです。とても迫力があって美しいですね」


星屑の結晶のようだ。翔は天の川を見てそう思った。

ベガやアルタイルみたいに明るく輝けない星が、寄り添い合って、ひとつの塊として存在を証明している。自分が弱いから。

自分を例えるなら、きっと集団には属さず、辺境で弱い光を湛えている孤独な星だ。今までそれでいいと思ってきたし、これからもそうあり続けようとした。集団に入ったって、どうせ自分は輝けないから。

でも弱い光でも、集まれば巨大な輝きになる。どうせ弱いからといってひとりでいるより、自分の弱さを知って寄り添うやつのほうが、よっぽど強い。逃げていないぶん、孤独に逃げているやつより、自分より、ずっと強い。


星屑の結晶はとても美しい。私もあんな風に輝けたりするのだろうか。


はっと気づくと、プラネタリウムは終わりに近づいてきていた。今の今まで自分が考えたことや思ったことに、身震いする。なに哲学的なこと考えてるんだろう、似合わない。ひとり恥ずかしくなって、頭をぶんぶん振る。そんなことをしても、さっき考えたことは消えなかった。


諦めて、もう一度自分の感じたことを反芻した。多分間違ってはいないだろうその考えに、思いを馳せる。

私はこれからもクラスや部署やいろいろな集団に飲み込まれていくだろう。今までその中で仲間をつくったり、一緒に何かをしたりということをしなかったけど、やってみると案外面白いものかもしれない。ひとりで気張って隅っこでじっとしているより、何かすごいことが起こるかもしれない。


そう思ったら、一気に肩の力がすとんと抜けた。

私はこんなことに固執していたのか。

今まで何もしなかった自分が歯痒く、笑える。

そして、こんなことをプラネタリウムに来て初めて気づいたことにも、笑える。

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