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婚約者にカッコつけたいのにオカンがうるさい

作者: ましかく餅
掲載日:2026/10/08

ギャグです。雰囲気でお読みください。

俺の婚約者はかわいい。10才で初めて顔合わせした時にもうベタ惚れした。

綺麗な声も、美しい所作も、かわいい笑顔も、全部好き。

家同士の都合による政略結婚ではあるが、形だけの夫婦ではなく、ちゃんとラブラブイチャイチャな夫婦になりたい。


だから彼女に好かれるために、かっこいい男になりたいと思い、日々努力している。

そう、たとえば従姉妹がハマっている小説のヒーローとか良さそう。

滅多に笑わず、あまり喋らず、人に話しかけられてもそっけない返事、それがクールでかっこよく女性にモテるらしい。


なので婚約者のフェリシアから手紙が来ても、はしゃいで即座に返事を書いてはいけないのだ。

がっついてるみたいでかっこ悪い。3日くらいたってから、俺はお前のことなんてなんとも思ってないよ風に……


「ディビッド!あんたフェリシアちゃんに手紙の返事は書いたの!?」

「うっせー!いま書こうと思ってたんだよ!!」

「うちの領で収穫したりんごをお裾分けするついでに持って行かせるから5秒で書きなさい!!今!!!!」

「俺の手紙がついでかよ!!!!」


急いでペンと便箋の準備をする。フェリシアにかっこよく見られたいが、母が今と言ったら今なのだ。

書き終わるまで何度も「書いた!?」って聞きにくる。うるさい。


母もフェリシアをとても気に入っている。俺なんかにはもったいないから愛想を尽かされないようにと言って、いちいち口出しをしてくる。

うざったいけど、後でやろうと思ったまま失念してしまい、母の口出しで思い出して助けられたことが過去に何度もある。

でもやっぱりうざったいし恥ずかしいので、つい喧嘩腰で返事をしてしまう。


◇


フェリシアとの次のお茶会の日取りが決まった。

手紙は頻繁にやり取りをしているものの、お互いまだ子どもなので会うのも二人きりとはいかず、保護者同伴となると予定の調整や準備の都合でまぁまぁ間が空いてしまう。

久しぶりにあのかわいい笑顔が見れると思うと浮き足立つ。だがそんな男はかっこ悪い。

簡単には笑わず、言葉も少なめに。クールにいくんだクールに。


あと親がなんか張り切って新しい服を用意したけど、そんなのなんか、気合い入れすぎてるみたいでかっこ悪くないか?

いつもの普段着で行こうかな……


「ディビッド!あんた、お茶会でフェリシアちゃんに会ったら顔ばっか見てないで衣装もかわいいって褒めるのよ!!」


クールな男に見える普段着を考えながら夕食の席についたら、突然母に言われた。


「照れて何も言えないとかダサいからね!女の子はおしゃれに気づいて褒めてくれる男が好きなのよ。無反応は女の子からしたら頑張りを無意味にされると同義なんだから。母さんはそれで父さんと婚約破棄しようかと悩んだわよ」

「えっそうだったの!?ごめん!!!」


なんか隣で父がショック受けてる。

フェリシアがかわいくてかわいくて顔ばっか見てたけど、ちゃんと装いも見て感想を言わなきゃ婚約破棄レベルで嫌われるのか。気をつけよう。


「それと身支度はしっかりね!自分はお洒落したのに相手が手抜きの格好だと、『あ、この人は私に会うの楽しみでもないし、おしゃれを頑張る価値もないと思ってるんだ……』ってがっかりされるから。母さんはそれで父さんと婚約破棄しようかと悩んだわよ」

「本当にごめん!結婚してくれてありがとう!」


父は何回婚約破棄されそうになったんだ?

でも確かに自分は気合い入れたのに、相手が適当だとがっかりするのはそうだな…新しい服を着て髪型もちゃんと決めていこう。


◇


「ディビッド!あんた、半年後にフェリシアちゃんの誕生日だけど、プレゼントは決まったの?」


気が早すぎない?半年後だよ?


「え……アクセサリーとか?」

「フェリシアちゃんの好きな宝石は?色は?石のサイズは?指輪?ブレスレット?ネックレス?ペンダント?」

「えっと……」


そういや好きな色も宝石もちゃんと聞いたことが無い。ドレスの色やアクセサリーのモチーフも毎回違うし……

それにネックレスとペンダントってなにか違うのか?両方首飾りだよな?


「アクセサリーはプレゼントとして定番だけれど、フェリシアちゃんはアクセサリーが好きだったかしら?女の子だってアクセサリーより小説が好きな人や、物より観劇や演奏会とかの体験が好きな人もいるわ」

「でも記念日のプレゼントなら、普段より高価なアクセサリーを贈るもんなんじゃないの?」

「フェリシアちゃんへのプレゼントなのだから、“あなたが良いと思うもの”ではなくて“フェリシアちゃんの好きなもの”を贈るのよ」


ぐうの音も出ない。


「誕生日までの手紙のやり取りやお茶会で好みを把握しなさい。そのためには半年前から準備して早くはないわ」


よく考えればお茶会ではいつもかわいいなぁと顔ばっか見て、見惚れてるのを誤魔化そうとつい色々喋ってしまい、その手元で何を好んで食べてたかもよく覚えてない…

手紙のやり取りでは、友人に薦められた本が面白くて一気に読んでしまったとか、親戚のお茶会で外国の珍しい果物を食べて美味しかったとか、好ましく思ったものの話はいくつかあったが、誕生日プレゼントに欲しいレベルの“好き”ではなさそうだった。


さすがにストレートに何が好きか聞くのは、プレゼントに何が欲しいか探ってるとバレてかっこ悪い。

別の話題からさり気なく好みを聞き出さなければならない。それには時間がかかる。

会話術の指南書を読み返しておこう。


「プレゼントだけでなく花束も一緒に贈るのよ」 


花ならわかる!花言葉の勉強もした!


「花は前にガーデンパーティーで黄色とか明るい色の花が好きと言っていた!から……時期的に……ガーベラとか??」

「ガーベラなら花言葉も悪くないわね。贈る本数も気をつけるのよ」


本数にも意味があったのか……調べておこう。


◇


親と共に何度かお茶会や観劇、時には旅行へ赴き、フェリシアとはかなり仲良くなれたと思う。

12歳になった俺は貴族学校へ入学する年齢となった。

まだ成人ではないが、ある程度の責任と自主性を認められ期待もされる年齢だ。


なので婚約者と二人でのデートが認められた。

侍女や護衛はついているが、親の同伴無しで会うのは初めてだ。緊張する。


今までは双方の親が側にいたので会話も多人数。

フェリシアが誰かと話してる最中に手元の失敗を誤魔化したり、マナーでも会話でも親がさり気なくフォローしてくれる事が何度もあった。


だが今回は二人きりだ。俺の一挙一投足がフェリシアに見られる。


エスコートの教本を読み返して何度も脳内シミュレーションをする。失敗したら幻滅される。

こいつ、親がいないとなんもできねぇな、とか思われたくない。

いやフェリシアは天使だからそんなことは思わないだろうけれど、きっと幻滅はする。


「ディビッド!あんた、明日のデートの準備はちゃんと出来てるの!?」

「ちゃんとしてるから邪魔すんなよ!服はそこに出してるやつ!行く店も調べてカフェは予約もしたし、段取りも余裕持たせて決めた!!」


初デート用に新しく仕立てた服を見て、母がよしよしと言うように頷く。


「いい?完璧にエスコートしなきゃなんて考えちゃ駄目よ」

「は?いや、エスコート出来ないとか駄目だろ」

「あんたはそんなに器用じゃないんだから、“完璧なエスコート”に気を取られてフェリシアちゃんの様子を見逃すわ」


うん?


「最初に『今日は緊張してる』って正直に言えば大抵の失敗は笑って許してくれるから言っちゃいなさい。女の子はね、不器用でも自分のために頑張ってエスコートしようとしてくれてる姿にキュンとするのよ。自分がいかにスマートに振る舞えるかよりも、歩くペースを合わせるとか、靴擦れしてないかとか、疲れてないかとか、楽しめてるかとか、フェリシアちゃんの様子を第一に見るのよ。相手への気遣いこそがエスコートよ」


母親の「キュン」発言にゾッとして一瞬、気が飛んでしまったが、“気遣いこそがエスコート”はなんか名言な気がするから心にメモしておこう。


「でも段取りが悪いのもダサいから、そこはちゃんとしなさい」

「ちゃんと考えてるっつーの!!!」


◇


「ディビッド!あんた、フェリシアちゃんに手紙の返事は送ったの!?」

「もう送ったし、便箋も季節感のある綺麗な柄のやつにしたし、ちょっと香水も付けたし、愛してるって書きました!!!!!」


◇


従姉妹から「“無口で笑わないのがかっこいい”のはお話の中だけであって、現実にいたらそれは“クール”じゃなくて“コミュニケーションの出来ない無愛想なクソ男”よ。モテるわけないわ」と言われて衝撃を受けるのは、それから2年後のこと。



◇◇◇



「――という感じだったから、今でも母には頭が上がらないし、君が『素敵な婚約者』と思ってくれていた9割は母のおかげなんだ……」


私の恥ずかしい過去話を聞いて、かわいいかわいい婚約者が花の様に笑う。


婚約から8年が経った。

愛しの婚約者とは順調に親睦を深め、学校も卒業したので、そろそろ結婚の話を具体的に進めようという段になった。

が、勘違いなお子様だった時期に私が婚約者の心を引き留められたのは、ほぼ母のおかげである。

さすがに今は母に何も言われずとも、ちゃんと多分おそらく出来ているが、フェリシアが私を好ましく思ってくれるようになった部分が自分の努力ではなく、母の助言のおかげだと知られては幻滅されるのでは?しかし黙っているのも騙しているような……

と、急に不安になった結果、黒歴史を白状してしまった。


「それでも、お義母様の助言を素直に聞いて実行し続けたのは、ディビッド様自身の努力であり美点だと思いますわ」


そうかなぁ?


「それに、お義母様の手柄を自分の手柄と勘違いされたくないとお思いになって、お話くださったのでしょう?私、ディビッド様のそういった誠実なところを好ましく思っていますの」


おかしいな。

残念な告白をしたはずなのに、めちゃくちゃ褒めてくれるし、今日も笑顔がとてもかわいい。


「……幻滅してない?」

「まさか!子供の頃は自分をより良く見せようと背伸びをしたり、周囲に助けられるのはよくあることです。私もそうでした」

「えっ君が?いっつも完璧かわいくて、会うたびに惚れ直す要素しかなかった君が???」


会うたびに好きすぎてどうしたら好きになってもらえるか、会うたびに素敵な淑女すぎて俺も釣り合う紳士でなければ見捨てられると頭を悩ませていたのに、君も背伸びや失敗を!?


「ふふっ、お恥ずかしいのでその話はまた今度……」

婚約者のことが好きすぎて緊張したり恋愛教本で勘違いしだ結果、塩対応になってしまいすれ違う系の話は、うるさいオカンがいたら解決しそうだなぁと思って書いてみました。

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