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第一章ボロ屋編 第3話「王都に至る」

あらすじ

清王朝初期、王朝拡大に大きな影響をもたらした摂政王ドルゴン。

徳川家康の孫にして、豊臣秀頼の正室・千姫。

権力の絶頂期に若くして急死したドルゴンと、

大坂夏の陣で落城寸前だった千姫は、

突如見知らぬ世界へと身一つで飛ばされる。

そこから成り上がる二人の物語。


主な登場人物

ドルゴン:清朝初期の権力者・摂政王

千姫:徳川家康の孫・豊臣秀頼の正室

フカ:逃亡奴隷、ドルゴンにフカと名付けられる。

「森を抜ける」


「未来の……世? 明国が……亡ぶ? 北の民のきよしの国とな?」


「そうだ。

 そして、明国が亡ぶきっかけは関白秀吉による壬辰倭乱であると、儂は考えておる。

 日本国は敗れたが、明国の力は大いに削がれ、その果実を我ら八旗が手にした、というわけだ。」


「むぅ……難しいことはよう分からぬが……

 太閤様をあまり軽々しく呼ぶでないわ。妾にとっては舅にあたるお方ぞ。」


夜が明け、ドルゴンと千姫、フカの三人は、森の中を進んでいた。

春先の寒さにそぐわぬ服装の千姫に、ドルゴンは毛皮の肩掛けを譲った。

肩掛けは千姫の体をちょうどよく覆っていた。


ドルゴンは歩きながら、自分の理解している歴史の筋を千姫に伝えてみたが、

その内容は千姫にはうまく伝わっていないらしく、千姫は半ば呆れたような顔をしていた。


「それより、ドルゴンよ。そちはいくつじゃ?」


「齢か。今は三十九。もうすぐ年が明ければ四十になる。」


「三十九と申すか?!

 それにしては、そなたの姿は壮年の大将にはほど遠い。

 まるで若武者のようであるぞ。」


言われて、はっとした。

改めて自分の腕や足を眺めると、確かに十年以上は若返っているように見える。


(……これも、この森に飛ばされた折に起きたことか?

 ということは、千姫も――)


「千姫。貴殿、この森に来た時、体に何か変わりはなかったか?」


「変わったこと?……おぉ、そうなのじゃ。

 この森に来たら、体が縮んでのう。

 まるで未通女、いや乙女の姿となってしもうたのじゃ。」


理屈は分からぬ。

だが何か“あり得ぬこと”が起きているのは確かだ、とドルゴンは思う。


「フカ、お主は見たところ二十歳はたちほどの若衆かの?」


「いや、歳なんて分かんねぇよ……。」


しばらく歩くうち、森の終わりが見えてきた。

木々の隙間から開けた場所がのぞき、その先には街道らしき道と、人々の往来がちらほら見える。


「さて、千姫。ここからは、その身なりでは目立ちすぎる。

 これを被ってもらおう。」


ドルゴンは、人攫いから奪った外衣を差し出した。


「く、臭い……。こんなものを被らねばならぬのか?」


「我慢せよ。

 この国の人々の姿は、我らが知る国々とはまるで異なる。

 目立つ装いで人前を歩くのは、危うい。」


「うう……仕方がないか。」


千姫は渋々、外衣を身にまとった。

ドルゴンも、人攫いから奪った服の中から、自らの体格に合いそうな服へと着替える。


「それよりもよ……」


フカが口を挟んできた。


「あんたの頭、俺は見たことがねぇ。

 すげぇ目立つと思うぜ。」


辮髪は、この国では珍しいらしい。


「そうかの? 月代のようなものじゃろう?

 荒き武者のようで、妾は嫌いではないがの。」


千姫は気にしていない様子である。

だが、フカの言う通り、人目を引くのは避けられまい。


「では、こうしよう。」


ドルゴンは布をひと切れ取り出し、頭からすっぽりと被った。



「王都に至る」


森を抜けたころには、すでに夕暮れが近かった。

その日は近くの“駅”で野宿することにした。


街道脇の駅は、夜になると粗い木柵の外に五つ、六つと焚き火が灯る。

宿に泊まれる身分ではない旅人たちが、その火を囲んで身を寄せ合っていた。


千姫は外衣を深く被り、焚き火の前にそっと腰を下ろした。

周囲には旅の行商、疲れた兵士、夜逃げ風の若者など、さまざまな影が揺れている。


ドルゴンは周囲の声に耳を澄ませ、頃合いを見て人の良さそうな男に話しかけた。


「この先に大きな街があるかって?

 だったら、この街道をまっすぐ進めば三日ほどで王都に着くよ。」


男はそう言った。

そして、この王国がローデン王国、王都がフィオレンツということも教えてくれた。


「野宿では、千姫を挟んで寝ることにしよう。

 ……フカよ、念のため言っておくが――妙な気は起こすな。

 その時は、首が胴から離れていると思え。」


「わ、わかってるって……!」


ドルゴンから強い警告が出ていることをフカは感じ取り、怯えたようにうなずいた。

三人は毛皮と毛布をかけ、身を寄せて眠りについた。

毛皮はドルゴンが元々身に着けていたもの、毛布は人攫いから奪ったものだった。


翌朝、三人は王都を目指して街道を歩いていった。


「最近は暖かくて気持ちいいねぇ」

「今年も豊作になってくれるといいんだがな」

「種籾は商会から多めに借りたほうがいいか?」

「いや、借りすぎりゃ買い叩かれるだけだぞ」

「そこの兄さん、これ買っていきなよ!」


春の陽気は心地よく、往来する人々の声にも活気がある。


(……馬の歩みが軽い。冬毛も抜けきっておる。

 この季の農事が順調である証よ。)


すれ違う馬の調子も良さそうだと、ドルゴンには見えた。

千姫は黒髪が目立たぬよう外衣を頭まで深くかぶり、静かに歩いている。


「う、うん? あの者……毛の生えた耳としっぽがある!?

 あのような者、見たことがないのう!」


荷物を担いで歩く男の頭と腰からは、まさしく獣の耳と尾が揺れていた。


ドルゴンも眉をひそめる。


「森でも見たが……フカ、あれはいったい何者だ?」


「あぁ、あいつらは“獣人(Bestienmensch)”だよ。森に住む奴らだ。

 たまに森を出て下僕をしてる奴らもいるな」


“獣人”。

ドルゴンと千姫はその言葉を初めて聞いた。


二人は珍しい耳と尾を、動物とも人ともつかぬものを見るように眺めていた。


「獣の人……つまり、獣なのか人なのか?

 獣とは別の種というのか?」


「そんなの俺が知るかよ!

 獣人は獣人なんだよ!」


フカが投げやりに言う。

ドルゴンは納得せず眉を寄せたが、結局疑問を飲み込むしかなかった。


途中、人攫いから得た金および道具を、駅や街道沿いの農家から食料に変えつつ進む。

水も点在する駅で汲むことができた。


そして三日目――石造りの大きな街の城壁が見えてきた。

丘の上には目立つ建物も見える。

どうやらここが、このローデン王国の王都フィオレンツということらしい。


「大きな壁じゃのう、そして丘の上のあの大きな建物……あれはこの国の主の御所かの?」


「そのようだ……あの街、あの大きさなら、五、六万は人がおろう……」


「でけぇ……俺、あんな街は見たことねぇ」


三人はしばし足を止め、王都の威容を遠目に眺めていた。


城(街)の入り口では、槍を持った衛兵が待ち構えていた。


「そこの三人、どこから来た?」


ドルゴンは旅人らしい口調で答えた。

旅の途中で耳にして、やり取りをするなかで、彼は既に庶民の言葉を身に着けていた。


「へい、あっちの街道からでさぁ。

 王都で仕事を探そうと思ってまして。

 こいつは妹で、そっちは家人でございやす。」


「……武器は?」


「へえ、これだけで。」


ドルゴンは短刀を示した。


衛兵はうなずき、手を出した。


「いいだろう。――入城税、銅貨五枚だ。」


ドルゴンは懐を探って銅貨を支払う。

手持ちの金はほとんど残っていなかった。


「よし、通っていいぞ。変な真似をするなよ。」


三人は軽く礼をして、城門をくぐっていった。


城門をくぐった頃にはもう夕暮れだった。

門近くの広場には、同じように職を求めて流れてきた者たちが焚き火を囲み始めていた。


その夜、三人もまた、広場の片隅に身を寄せて眠った。

ここまでの旅路の疲れと、王都に入れた安心感から、

三人はあまり多くを語る間もなく、深い眠りに落ちていった。


ドルゴンという人物が好きで書いた妄想小説です。

楽しんで頂けたら幸いです。


次回、2025/12/6 8時投稿予定

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