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第二章商会乗っ取り編 第17話「我儘お嬢様」

あらすじ

清王朝初期、王朝拡大に大きな影響をもたらした摂政王ドルゴン。

徳川家康の孫にして、豊臣秀頼の正室・千姫。

権力の絶頂期に若くして急死したドルゴンと、

大坂夏の陣で落城寸前だった千姫は、

突如見知らぬ世界へと身一つで飛ばされる。

そこから成り上がる二人の物語。


流れ着いたローデン王国王都フィオレンツにて、

荷役として働き始めたドルゴンは才覚を発揮し、

遂にハルトマン商会の王都倉庫長として正社員に就任する。

その裏で、王宮の奥にあるという帰還の鍵を手に入れるために、

二人は商会乗っ取りに向けて動き出す。


主な登場人物

ドルゴン:清朝初期の権力者・摂政王

千姫:徳川家康の孫・豊臣秀頼の正室 猫かぶりのお姫様

フカ:逃亡奴隷、ドルゴンにフカと名付けられる

河野:ドルゴンの部下となった日本人女性 人の醜聞を覗くことが生きがい


カロリーネ:ハルトマン商会長夫人 ドルゴンと不貞の関係になる


主な用語

ハルトマン商会:ドルゴン、フカが働いている商会

正社員:幹部

準社員:従業員

「我儘お嬢様」


「ここが、あなたのお部屋です」


ハルトマン商会長の娘の“お話し相手”として採用されたサラ――

サラに扮した千姫を、カロリーネは屋敷へ迎え入れ、お話し相手用の部屋へと案内した。

質素ながらも、東向きの格子付き小窓があり、光の入る明るい部屋だった。


(……悪くない部屋じゃが、どこか牢獄のようでもあるの……)


そう思う千姫に、カロリーネが声をかける。


「荷物を置いたら、さっそく娘に会ってもらいます」


「はい、奥様」


廊下を歩きながら、カロリーネは話を続けた。


「そうそう、娘の名前は――」


「リリア様ですよね」


「そう、リリアよ。あら、あなたに前に伝えていたかしら?

 まあいいわ。歳は十三になるわ。あなたと同じになるわね」


「はい、そうですね。どのようなお方なのか、楽しみです」


(しまった、気早く答えてしまった……)


「……」


気まずげな千姫の返答に、カロリーネはそれ以上言葉を返さなかった。


「フロレンツィア、いいところにいたわ。紹介します。

 リリアの新しいお話し相手として雇ったサラよ。

 サラ、この者はリリアの養育係であるフロレンツィア。

 リリアのことで困ったことがあれば、この者を頼りなさい」


「サラと申します。よろしくお願いいたします、フロレンツィアさん」


千姫は膝を折り、礼を示した。


「フロレンツィアです」


フロレンツィアは千姫を審査するような視線で頭の先から足元まで眺め、

そのまま視線をカロリーネへと向けた。


「では、後は任せたわ」


「畏まりました、奥様」


そう言うと、カロリーネは軽く会釈し、奥へと下がっていった。


フロレンツィアは頭を上げ、千姫を正面から見据える。

先ほどまでの形式的な挨拶とは違う、値踏みするような目だった。


「サラ、と言ったかしら」


名を呼び、わずかに間を置く。


「あなたは――

 “お話し相手”という役目を、どういうものだと考えているの?」


試す問いだった。

正解を求めているのではない。

答え方そのものを見ている。


千姫は即答しなかった。

一拍考える素振りを見せてから、静かに口を開く。


「教える人ではなく、一緒に考える人だと思っております。

 分からないことを、分からないままでいられる相手――

 ……そう在れればと考えております」


フロレンツィアの眉が、わずかに動いた。


「……口は達者なようね」


感情の乗らない声音だったが、完全な否定でもない。

合格とまではいかずとも、線は越えていない――

その判断が、わずかに緩んだ視線から伝わる。


フロレンツィアは言葉を続けた。


「いいこと。覚えておきなさい。

 お嬢様は繊細なお方です。

 粗野な態度を見せることは許しません」


一拍置き、念を押すように付け加える。


「――ここは、孤児院ではありませんよ」


千姫は膝を折り、姿勢を正した。


「心得ております」


声に余計な感情はない。

へりくだりすぎず、しかし軽くもない。

フロレンツィアはその様子を一瞥し、小さく鼻を鳴らした。


「ふん……」


背を向け、歩き出す。


「こちらです」


その声は業務的で、振り返ることもない。

廊下を進みながら、独り言のように小さく呟く。


「まったく……孤児の娘だなんて。

 奥様も、何をお考えなのかしら……

 お嬢様に妙な癖でもついたらどうしましょう……」


(覚悟はしていたが、歓迎はされておらぬようじゃのう……)


愚痴とも警戒ともつかぬ言葉を吐きつつ、

フロレンツィアは一枚の扉の前で足を止めた。


静かに扉を開く。


「――お嬢様。失礼します」



光の差す部屋の奥、長椅子の上に少女がいた。

見た目は可愛らしい。

淡い蜂蜜色の髪は細く柔らかく、

きちんと左右に分けて結われ、リボンで飾られた髪が肩のあたりで軽く跳ねる。

大きな瞳は明るく、光を受けるたびに無邪気な色を映す。

そしてレースの施された服を身にまとっている。

もし街で見かければ、誰もが「愛らしいお嬢さんだ」と目を細めるに違いない。


「フロレンツィア、だぁれ、その子?」


リリアは気だるげな声で尋ねた。


「はい、この娘はサラと申します。お嬢様の新しいお話し相手でございます」


「ふーん……」


短い相槌のあと、沈黙が落ちる。

値踏みするように、頭の先から足元までゆっくりと視線を滑らせた。


「サラと申します。不束者ですが、よろしくお願いいたします、リリア様」


「……」


リリアは答えない。

関心がないかのように髪をいじる。


「お嬢様……」


フロレンツィアが困ったように促す。


「……リリアよ。

 ええっと、ヘラだったかしら?」


「サラでございます、リリア様」


「まあ、似たようなものね」


唇の端だけがわずかに上がる。


リリアは名を間違える。わざとなのか、本当に興味がないのか――

千姫には読み切れなかった。


「では、お勉強をいたしましょう。

 本日はこの後、舞踊の先生が参ります。

 それまでは私がお相手をいたします」


フロレンツィアがそう告げ、

紹介を終えて勉強の時間となった。

午前中は勉強の時間らしい。


三人は窓際の円卓へ移る。

リリアが窓に背を向け、フロレンツィアがその右側、

サラがその左側――三人の上下関係を示すように自然と席が定まった。


「では、本日は……」


そう言って、フロレンツィアは教本をめくる。


「そうですね。日頃お世話になっている方へ向けて、

 手紙を書く練習をいたしましょう」


「面倒くさいわね。誰に向けて書けばいいのよ?」


「お嬢様。お嬢様の暮らしは旦那様、奥様、そして屋敷の多くの使用人たちによって

 支えられているのでございます。

 これから上に立つ者として、感謝の気持ちを伝えることは大切でございます」


「ふーん、上に立つ者、ね……」


小さく繰り返す。


そして千姫へ向き直る。


「ねぇ、あなたは誰に書くの?

 そもそも、あなたはどこのお家の子なの?」


視線をまっすぐ向ける。


「私には家はございません。ですので、これまで育て見守っていただいた

 司祭様やシスターの方々に向けて手紙を書こうと思っております」


「お家がないの?」


わずかに首を傾げる。


「はい、ございません」


「そう……

 じゃあ、帰る場所もないのね」


淡々と告げる。


「もしここを追い出されたら、どこへ行くの?」


「……」


部屋の空気がわずかに冷えてくる。


「アハハ、可哀そうな子なのね」


リリアは無邪気な笑みでサラを挑発する。


サラは表情を変えず、ひと呼吸置いてから答えた。


「可哀そうでしょうか。

 私は、これまで十分に恵まれてきたと思っております」


そう答え、静かに微笑みを浮かべた。


リリアは目を細める。


「ふーん、そう。強がりは嫌いじゃないわよ」


紙へ視線を落とす。


「でもね、ここでは私が決めるの。

 あなたがここにいられるかどうかも、ね」


リリアはさらりと言い、筆を取って紙に向かった。


千姫もその様子を見て、自分の紙へと視線を落とした。



暫くして舞踊の先生が来訪し、三人は大広間へと移った。

将来聖職の道を志している“サラ”に舞踊は不要とも言えたが、

歴代のお話相手は皆リリアと共に舞踊を習っていたとのことで、

千姫も練習に参加することとなった。

リリアもこれまでの態度とは打って変わり、笑顔でサラの参加を勧めた。


「あなた、ダンスの経験はあるの?」


軽い調子だが、視線は外さない。


「いいえ。そのような機会はございませんでした」


「そう……

 安心したわ。私より上手だったら困るもの」


そう言って、薄く微笑む。


やがて、舞踊の先生が姿を現した。


「こんにちは。では始めましょうか」


「こんにちは、アデライーデ先生。よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いします。お嬢様。

 おや、あなたは初めて見る顔ですね」


「はじめまして。この度、お嬢様のお話相手となりましたサラと申します。

 よろしくお願いいたします、アデライーデ先生」


千姫は膝を折る。その所作に揺らぎはない。


「……はい、よろしくお願いしますね、サラさん。

 では、お嬢様、サラさん、参りますよ。

 私の動きについてきてください」


静かな声だったが、広間に澄んで通る。


まずは姿勢の確認から始まった。

背筋を伸ばし、肩を落とし、顎をわずかに引く。


「お嬢様、背を。……そうではありません。腰が落ちております」


リリアは唇を結び、言われた通りに胸を張る。だが、わずかに軸が揺れる。


サラは一歩後ろに控えつつ、同じ姿勢を取った。

すり足に近い静かな重心移動。揺れはほとんどない。


アデライーデの視線が一瞬だけ止まる。


「……その調子でよろしいですよ、サラさん」


それだけだった。

露骨な賞賛はない。だが声の温度がわずかに柔らぐ。


リリアの指先が、ぴくりと動く。


次は基本歩法。

前へ三歩、止めて半回転。横へ滑るように移動。


「もっとしっかり。足裏で床を捉えて」


リリアは踏み出すが、踏み込みが浅く、重心が上ずる。


千姫はゆるやかに、しかし確実に床を踏む。

武家の礼法で叩き込まれた軸が静かに働いていた。


(ふむ……舞踊の大元となる型はどの国も同じようじゃの)


そう思う千姫の隣で、リリアの眉がかすかに動く。

歩幅がわずかに調整され、進路がずれる。


「きゃっ」


次の瞬間、リリアは小さく声を上げた。

よろけたふりをしてサラの足を踏みつける。

細い靴の踵が、容赦なく足の甲に食い込んだ。


(ぎゃっ!)


千姫の内心が悲鳴を上げる。

だが表情は変わらない。ほんの一瞬、呼吸が止まっただけだ。


「ごめんなさい、サラ。大丈夫?」


リリアは形ばかりの声をかける。


「はい、お気になさらず。大丈夫でございます」


(こやつ……わざとやりおったな)


静かな返答。痛みは引かない。


再び歩法へ。


アデライーデ先生の声が淡々と続く。


「軸を、中心を意識して。ぶれてはなりません」


リリアは一歩前へ出る。

今度は明確に肩を寄せてくる。


突き飛ばすほどではない。

だが、押す。


――動くかどうか。


動かない。


千姫の身体は石のように静かにそこにあった。

反動はそのままリリアへ返る。


「……っ」


小さな息。だが悲鳴は上げない。


数歩よろめき、体勢を崩す。


千姫は素早く一歩踏み出し、手を差し出した。


「大丈夫ですか、お嬢様」


差し出された手。


リリアはその手を一瞬見つめる。


救われる側の位置にいる自分を自覚する。


一拍止まり、そして自ら立ち上がる。


「触らないでよ」


静かに言い放つ。


「私は転んでいないわ」


息は乱れている。

だが視線は鋭い。


広間の空気が張りつめる。


アデライーデは一歩前へ出た。


「……お疲れのようですね」


ひと呼吸置いてから、


「では、本日の練習はここまでといたしましょう」


静かに告げる。


差し込む光の中、

リリアは呼吸を整えながらサラを見る。


その目は怒っていない。

何かを測るように、考えているようだった。


千姫は何事もなかったかのように姿勢を正し、深く一礼した。



舞踊の練習を終えると昼となり、三人はリリアの部屋へ戻って食事を取ることとなった。

部屋に戻ると、円卓の上にはすでに三人分の昼食が整えられている。

白布の上に置かれた皿と杯。湯気の立つ皿から、かすかに香草の香りが立ちのぼる。


千姫は一歩進み出た。


「フロレンツィアさん、私が取り分けますね」


自然な調子で卓へ手を伸ばそうとした、その時。


「ちょっと、待ちなさいよ」


鋭いというより、低く静かな声だった。


リリアは腰に手を当て、顎をわずかに上げて千姫へ視線を向ける。


「誰が、あなたに触っていいと言ったの?」


視線は揺れない。


「一緒に座っていいなんて、私、言ったかしら。

 フロレンツィアがやって。

 あなたはそこに立ってなさい」


穏やかな口調だが、命令だった。


「ここは“家の者”の席なのよ。

 勝手にまざらないでよね」


ダンスレッスンの余韻ではない。

序列の確認だった。


フロレンツィアは一瞬困ったように視線を落とすが、逆らう素振りは見せない。


「……畏まりました」


皿へ手を伸ばしかける。


その前に、千姫は静かに口を開いた。


「はい」


一拍置いて続ける。


「ですが、本日習った礼の型を、お食事の場で

 お嬢様と復習させていただければと存じます」


声は穏やかで低い。


フロレンツィアは千姫を見、それからリリアへ目を向けた。


「お嬢様、それが良いと存じますわ」


控えめながら、はっきりとした賛同だった。


リリアは指先で卓を軽く叩き、少し考えてから口を開く。


「……いいわ」


ゆっくりと告げる。


「でもね、忘れないで。

 あなたがここに座っていられるのは、私が許しているからよ」


そう言って微笑んだ。


三人は円卓を囲む。


リリアが中央。

右にフロレンツィア。

左に千姫。


食事は静かに進む。


器を持ち上げる角度、パンをちぎる手つき、杯の扱い。

千姫はわずかに遅れて動き、決して先を越さない。


「肘を下げて」


フロレンツィアの声に、リリアはゆっくりと直す。


千姫は何も言わず、同じ所作をなぞる。


食卓に余計な言葉は落ちない。

銀器の触れ合う音だけが、わずかに響く。


やがて皿が下げられる頃、リリアは小さく息をついた。


「……疲れたわ」


長椅子へ移り、裾を整えて横になる。

横向きになり、手の甲を額に当てる。


「少しだけ、休むわ……」


瞼がゆっくりと閉じていく。


フロレンツィアはその様子を確認し、声を落とした。


「これから夕食までは特に予定はありません。

 お嬢様がお昼寝から目を覚まされたら、それまでお相手をしていなさい」


「はい、心得ております」


千姫は深く一礼する。


フロレンツィアは一瞬だけ千姫を見つめ、それから静かに部屋を出た。


扉が閉まる。


部屋には、寝息になりきらない浅い呼吸と、午後の静かな光だけが残った。



午後の光がやわらかく傾きはじめたころ、長椅子の上で身じろぎしたリリアが、ゆっくりと目を開けた。


「……ねえ、サラ」


柔らかな声だった。


「ちゃんといるのね」


視線だけで、サラが逃げなかったことを確かめる。


「あなたに、いいものを見せてあげるわ」


それは施しを与える者の響きだった。


千姫は椅子から立ち上がり、静かに一礼する。


「はい、お嬢様」


リリアはクローゼットへ向かい、扉を開いた。

中から色とりどりの衣装を次々と引き出す。絹のドレス、繊細な刺繍の施された上着、小箱に収められた首飾りや耳飾り。


「ほら、見て。これ春の祝宴のときのよ。こっちはね、去年のお誕生日にもらったの」


箱を開けるたび、金や宝石がきらりと光る。


リリアはちらりと千姫を見る。


「すごいでしょ?」


ひと呼吸置いて続ける。


「あなた、こんなの持ったことないでしょ?」


さらに間を置いて重ねる。


「私が欲しいって言えばね、すぐ用意してくれるの」


当然といった顔。


「うちはそういう家なの」


顎を上げ、ゆるやかに笑う。


千姫は微笑みを崩さない。


「さすがでございます、お嬢様」


「まあ、当たり前でしょう?」


視線は逸らさない。


「どのお品も、お嬢様にとてもお似合いです」


言葉は柔らかく、よどみがない。


リリアは衣装を抱え直し、わずかに目を細める。

つまらない、と言いたげな表情だった。


そのとき。


ふと取り出された一枚の衣が、千姫の視界に入る。


淡い光沢を帯びた絹。

繊細な地紋。

袖口の縫い目に、見覚えのある癖。


一瞬、声が止まる。

その変化をリリアは見逃さなかった。


「……お嬢様、それを、どこで」


問いは自然を装っていたが、わずかに低い。


リリアはゆっくりとその衣を広げる。


「これ?」


視線を外さない。


「しばらく前にね、御用聞きの服屋が持ってきたのよ」


くるりと袖を揺らす。


「“元はどこぞのりょうけのいっぴんでしょう”ですって」


わざとらしく考える素振りを見せる。


「売られたってことは、大切じゃなかったのかしらね?」


薄い笑みが浮かぶ。


「私なら、手放さないわね」


千姫は思わず一歩近づき、そっと手を伸ばしかける。


その動きを、リリアは待っていた。


「何、勝手に触ろうとしてるのよ」


ぴしゃりと遮る。


「欲しいの?」


にこりと笑う。


「でも、あげない」


軽い調子で言う。


「だって、今は私のだもの」


千姫はすぐに手を引き、深く頭を下げた。


「申し訳ございません。あまりに素敵でしたので、つい」


リリアは満足げに、その頭を見下ろす。


そのとき、千姫の胸の奥に黒いものがゆっくりと湧き上がった。


その羽織は、この国へ流れ着いたとき、千姫が身につけていたものだった。

特別に思い入れが深いわけではない。

数ある羽織の中の一枚にすぎなかった。

だから生き延びるため、王都に辿り着いたあの日、売り払うと決められた一枚。


それでも。


こうして再び目の前に現れたとき、

絹の光沢が、かつての自分を鮮やかに呼び起こす。


これは――


自分のものだ。


目の前で袖を揺らし、得意げに笑う小娘のものではない。


リリアは鏡の前に立ち、羽織を肩にかける。


くるりと回る。


「ほら、似合うでしょう?

 まるで遠い国のお姫様みたいね」


千姫は微笑む。


「ええ、とても」


その声音は変わらない。


だが内側では、静かな決意が固まっていた。


(……この衣、返してもらうぞ)


誓いは声にならない。


ただ、瞳の奥でわずかに光っていた。

ドルゴンという人物が好きで書いた妄想小説です。

楽しんで頂けたら幸いです。


次回、2026/2/20 20時投稿予定

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