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世界が少しだけ色褪せて見えた

作者: 秘匿栗



 女にフラれた。


 思えば俺はわりとどうしようもない人間だったかもしれない。

 あまり多くないバイト代を毎月パチンコに突っ込んでいた。

 勝った時は彼女にちょっとしたプレゼントを買ってみたりした。

 負けた時は生活費が足りなくなって金を借りてみたりした。

 思い返してみると多分負けた時の方が多かっただろう。金は必ず翌月に返したはずだが。

 別に俺は彼女が特別好きだった訳ではない。

 ただ負けた時でも「君ってどうしようもない人だね」なんて言って呆れながらも傍に居てくれることが、心地よかった。それだけだ。


 彼女が居なくなっても俺はいつもと変わらずにバイトをした。

 給料日には振り込まれたばかりの金を降ろして馴染みのパチンコ屋に向かった。

 その日は大勝。

 早くの内に確変を引き、連チャンが止まらない。閉店間際になってようやく終わって十万の勝ち。札束で重くなった財布はポケットに入り切らずに左に持つ。

 帰り道を歩いていると焼き鳥屋があった。

 塩ダレの美味いとあいつの好きだった飲み屋だ。土産に買って行こうと一瞬思って万札を一枚抜く。

 俺の顔を見るなり微笑んで「いつものですか?」と店員が訊いてくる。俺は頷いた。そんなに時間は掛からずに焼き鳥を持ち帰った。

 安アパートの扉を開けて気づく。


 ……ああ、あいつってもう居ないんだよな。


 テーブルの上で一人、焼き鳥を広げた。冷蔵庫から缶ビールを出す。一人で食う。俺は焼き鳥は醤油ダレが好きだったことを今更思い出す。


 ……なんだ、あんまり美味くねーな。塩ダレ、ってゆーかこんな味だったか? いつも一緒に食ってたはずなのになぁ。


 なんとなく視線を動かしたら窓の外に月が見えた。満月だ。窓を開けて身を乗り出す。そうだ、家賃の割りには景色がいいと彼女が選んだんだったな、ここ。


 ……なんだ、全然よくねーな。景色。



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