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ep.5 訓練の日々:ルーカス対エミリア

アルフレッドとソフィアが走り終えたころ、エリーナ先生から集合の合図がかかります。


少しずつ強くなっていく生徒たちの中で、先頭に立つ者と、それを追う者──

今回は、騎士としての技を磨いてきた二人、ルーカスとエミリアの一戦です。


己の武器を使いこなし、相手の間合いを読む。

剣と槍が交差するのは、ただの勝敗のためではなく、それぞれの“今”を確かめ合う時間でもあります。


技がぶつかり合う一瞬の静けさ、その中にある火花を、どうぞお楽しみください。

朝の訓練が終わった頃、エリーナの声が訓練場に響いた。


「全員、集合」


陽は高くなりつつあり、石畳にはくっきりと影が落ちている。広場の中心に設けられた訓練場に、生徒たちはゆるやかに集まり始めた。


アルフレッドとソフィアは肩で息をしながらも、よろよろと影に腰を下ろす。アストリッドは汗こそ流していたが、まだ元気がありそうで、軽口を叩いた。


「先生、最初の組み合わせってエミリア? これ、体力ある人順ってわけじゃないよね?」


アストリッドが額の汗を手の甲でぬぐいながら、苦笑いを浮かべる。


「まあ、でも最初がエミリアでよかったかも。逆だったら、さすがのルーカスでも危なかったんじゃない? 疲れてからエミリアの相手とか、正直きついでしょ」


「……俺らがルーカスを疲れさせられればの話だけどね」


エリクのぼそりとしたひと言に、アストリッドは眉を上げて、わざとらしくため息をついた。


「言ってくれるじゃん、エリク。……でもまあ、否定はできないかもね」


そのやりとりに、静かだった訓練場に微かな笑いがにじむ。


「とはいえ──」


会話に割り込むように、訓練場の端からエリーナの声が届いた。

腕を組んだまま、わずかに口元をゆるめている。


「疲れてからでないと、ルーカスの訓練にはならんかもしれんがな」


軽口にも聞こえるその一言に、生徒たちの笑いが少しだけ強まる。


ルーカスが小さく首を横に振りながら、苦笑いを見せた。

「無茶言うなよ」とでも言いたげな、否定するような仕草だ。


「ルーカスの訓練になるかどうかは、お前たち次第だな」


ぽつりと落とされたエリーナの言葉に、空気がわずかに引き締まった。


「というわけで、一戦目。ルーカスとエミリア。準備を」


ルーカスは無言で立ち上がり、手にした槍を軽く構え直す。エミリアもそれに続き、長剣を肩に担ぎながら前へ進んだ。


どちらも木製の訓練用武器とはいえ、重みや手応えは本物と同じだ。打ちどころを誤れば、大怪我も十分あり得る。


そして何より、この二人は──すでに“試合”の意味を理解している。



静まり返った訓練場で、二人が向かい合う。


エミリアは剣を斜めに構え、低く腰を落とした。全身に無駄な力はない。ただ、いつでも動けるように研ぎ澄まされている。

対するルーカスは、足幅を広めに取って地を捉える。腰を落とし、槍の穂先をわずかに揺らして──その全身から、静かな気迫がにじんでいた。

どちらも即座に動き出せる、攻防の境界線上──そんな距離。


エリーナが腕を振る。


空気がかすかに鳴り、次の瞬間、エミリアが踏み込んだ。


軽い──それでいて鋭い斬り込み。

腰からわずかに力を伝えるだけで、剣が滑るように走る。肩にも腕にも力みがない。それが逆に、研ぎ澄まされた動きの証だった。


だがルーカスは一歩引き、間合いを外す。

刃は空を裂いたが、体勢を崩すことなく、すぐに整える。


エミリアは詰めない。次を見ている──そう思った瞬間、槍が前へ飛んだ。


鋭い突き。

だが彼女は、刃を斜めに返して流すように受ける。力で止めるのではなく、軌道を逸らす。

剣と槍が木の音を立て、乾いた打音がひとつ、響いた。


──静かだが、互いの意志が交錯する。


踏み込み、斬りかかり、退き、かわし、構え直す。

その一連の動作に滞りがない。

一撃が終わる前に、すでに次の動きが始まっている。


斬り抜けた剣がそのまま返され、斬り下ろしから斬り上げへ、そして突きへと変化する。

手の内は崩れず、動きに合わせてわずかに緩め、刃の向きを自在に操っていた。

まるで一連の動作が、身体ではなく“剣そのもの”に導かれているようだった。


(……動きが変わってる)


ルーカスは内心で警戒を深める。


制式剣術の型でないのは知っていた。これまで何度も稽古してきた。

だが、いま目の前の動きは、かつてのエミリアとは違う。


(あの無軌道な剣に……筋が通っている)


滞りなく、迷いもなく、流れるように動き続けている。

それでいて、どの攻撃も芯がある。手癖や勢いではない──明確に狙いがある。


(……型じゃない。だが、確かに“完成”に近づいている)


もう一度、間合いを詰める。

低く、速く、鋭い突き。


エミリアは斜めに身を引きつつ剣をかざし、再び軌道を逸らす。

打ち合いの音は一瞬、また静寂へと戻る。


構えは変わっていく。だが、全体に乱れはない。

剣が振り抜かれたかと思えば、すでに返されている。

止まらず、淀まず、流れが続く。


(読めない……いや、読んでいた“つもり”だった)


油断ではなかった。だが──見誤っていた。

今の彼女の剣は、型の有無では測れない。


一歩、踏み出す。槍を構え、強引に間を詰めて突きにいく。

エミリアが反応し、剣を合わせる──


刃と柄がぶつかり合い、乾いた衝突音が響く。

瞬間、ルーカスは柄を巻き返すように回し、石突で脇腹を狙う。


エミリアが半身を引く──が、遅い。


石突が命中する。

バランスを崩し、後ろへよろめいた。


とっさに剣を構えるが、ルーカスの追撃が先に届く。

槍の穂先が、彼女の胸元に静かに突きつけられた。


「そこまで」


エリーナの声が響く。

二人は動きを止め、静かに距離を取った。


エミリアは悔しげに笑い、肩で息をつく。


「……やっぱり強いね、ルーカスは」


ルーカスは槍を下げ、静かにうなずく。


「…お前もな」


二人の間に、それ以上の言葉はなかった。だが、互いにその技と意志を認め合っていた。



エリーナが腕を組み直す。


「悪くなかった。エミリア、間合いの取り方は良くなってる。ただ……基本は忘れるな。お前に“型”を求めるのは無駄だと分かってるが、それでもだ」


「う……はい。」


バツが悪そうに頷くエミリアを見ながら、エリーナはわずかに目を細める。


──やはり、制式の剣術ではない。

剣の形はしているが、教本にあるどの型にも当てはまらない。

だが、それでいて技として崩れているわけでもない。


むしろ、細部まで自分で練り上げたような、一種の完成があった。

型を持たないのではなく、彼女自身が“型”になっている。


「ルーカス。お前はよく捌いたな」


「ありがとうございます」


短いやり取りのあと、ルーカスはわずかに頷き、視線を上げた。


「さてさて、ここからが本番かもね」


アストリッドがぼそりと呟き、隣のエリクが小さく笑った。


陽の傾きが少しだけ変わるなか、生徒たちは次の立ち位置へと静かに歩を進めていく。

剣と槍の音が止んでも、訓練の時間はまだ終わらない。

ルーカスとエミリアの戦い、読んでくださってありがとうございます。


互いの得意分野をぶつけ合うような、技術の応酬。

読み合い、間合い、そしてそれぞれが積み重ねてきた“自分の武器”。

書いていても緊張感のある、静かだけれど熱い戦いでした。


……ちなみに私自身は、武術や戦いの知識はまったくありません。

このへんの読み合いや駆け引きは、ほぼAIにお任せで書いております。

自分では絶対に思いつかないような構えや動きが自然に出てきて、

「すごいなあ」と思いながら、私も隣で読んでいるような気分でいます。


次回は、ルーカス vs アストリッド。

スピードと勢い、そして意外な駆け引きが主役になります。

どうぞ、次もお楽しみに!

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