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夢の中と外

作者: 月迎 百

1万字程度と字数を決めて短編書くのが楽しくなってきました。

今回は『昔よく見た夢』のことを書いてみようと思ったら、そこからこんな話になりました。

どうぞよろしくお願いします。

 マリカが夢の話をしている。


「でさ、いつもそこなのよ。その路地まで逃げて来られると、ほっとするの」

「なんで? 追われているんでしょ?」

「あー、でもさ、その路地の先はないのよ」

「ない?」

「うん、夢の中でその先はないの。

 そこを進んで行くと世界が白くなって、夢が終わるのよ」

「目が覚めるってこと?」

「ううん、夢が終わるの。

 だから、いつも追われて逃げてるけれど、その路地に来るとほっとするんだよね。

 ああ、逃げ切れたって、ここを走っていけば夢が終わるって」


 マリカが安心したように微笑む。

 私は左肘をテーブルの上につき左頬と顎を支えながら微笑む。


「へー、不思議だね。

 そこが夢と現実の境なのかね?」

「うん、そーなんだよね。

 ミサキは何かそういう不思議な夢はないの?」

「うーん……」


 私は考え込む。不思議……。


「あ!」

「何?」

「学校の夢は不思議かな?

 いつも階段と流し場っていうか、水場と、トイレの入り口が見えるあたりにいるの。階段を上がったり下がったりするんだけど、そこから他の教室の方とかはあんまり動けなくて。

 で、トイレに行きたくなって、あ、あそこにあるじゃん! ってトイレに行くとびっくりで……」

「びっくり?」

「うん、個室の壁がなくてさ、便器がずらっと部屋の中に点在しているというか」

「なにそれ! シュール!!」

「でしょ。

 戸惑うんだけどさ、よけいにトイレに行きたくなるのよ。目の前にトイレがあるからね。

 したくなるじゃん」

「えー、でも、なんか無理。他の人がいなくても、ちょっとヤダ」

「そーなのよ! でもさ、本当にしたいのよ。

 それで我慢できなくなって、端っこの方の便器を選んでさ……」

「しちゃうの?! 夢なのに!!」


 私は苦笑いして頷く。


「でもさ、出ないのよ。したいのに出ないの」

「なにそれ、苦しそう!」

「んー、なんでかなと思うのよ。恥ずかしいからとも思うし、でも結局、尿意は感じているのにあきらめるの。するのをね」

「へー、夢の中なのに分析してるんだ。なんかリアル」

「そう? で、起きてからトイレに行きたかったんだなって、トイレに行くんだけど、また出ないの」

「えっ? なんで?!」

「なんだろう……って思って、目が覚める。二度寝してまだベッドの中だった」

「えっ? 夢の二段オチ!」

「そうそう、だから頭は夢だってわかってるから、必死にここでしちゃだめだって!! ことかなって?」

「へー、すごいね。

 今の部屋のトイレなら……しちゃいそう、だよね」

「うん、でも、騙されないっていうか、それが大人なのかな?

 絶対子どもならお漏らししてそう……」

「やー、ミサキったら!

 夢の話だったのに、大人だからって、なによもう!

 あー、でもなんか面白かった。

 いろんな夢があるんだね、ふふふ。

 あ、私もう行くわ! じゃあ!」


 マリカが立ち上がり談話室を出て行く。

 私は小さく手を振って見送った。


「面白い話、してたじゃん」


 気がつくとタイチに話しかけられていた。

 私達の左後方のテーブルにいたみたい。

 

 マリカも私も気がつかなかったよ。


「あ、トイレの話、聞いてたの?」

「聞いてたっていうか、聞こえてた」

「いやだなあ、そんな大きな声で話してた? 私達?」

「マリカの声は大きいからな。ミサキの声はそーでもないよ。

 でも、面白かったから、耳、こうやってた」


 タイチが耳の後ろに手のひらを入れ込むように当てて笑う。


「それは、聞いてたっていうんじゃ……。

 あー、でも変な話で失礼しました!」


 私は笑って立ち上がり、職場へ戻ろうと立ち上がった。

 タイチも同じタイミングで立ち上がりついてくる。


「何? まだ、何か用?」


 私が怪訝そうに立ち止まって聞くと、タイチがすっと私の右耳に顔を寄せて言った。


「好きな子がトイレに行く話、想像して興奮した」

「なっ!!」


 私はびっくりして身体を引いて目を丸くした。

 好きな子……?!


 タイチはそんな私の反応を笑って、私の頭をポンと軽く叩くというか、手を乗せるというか、そんな感じで通り過ぎて、先に談話室を出て行ってしまった。


 私はその後姿を見ながら顔をしかめる。

 タイチはマリカの思い人だ。

 今の言葉は聞かなかったことに。

 それにしても女性のトイレの話で興奮するなんて……、タイチってヤベー奴なんじゃないの?!

 そう思いながら、ちょっとドキドキしてしまった。


 

 仕事が終わり、次の勤務担当のジョセフに引継ぎして交代。

 そのまま、医療班の出入り口をぼーっと出ようとすると、誰かが急に前に現れてぶつかりそうになる。


「あ、すみません」

 

 顔も見ずに謝って、横をすり抜けようとして腕をつかまれた。

 タイチだった。


「何? 謝ったけど?」

「謝ったって、ぶつかりそうになったことだけ? 

 俺に会ったのに?!」


 私は苦笑いする。

 マリカは……、今日のシフトはそろそろ交代かな?


「少し話さないか?」


 タイチに言われて……。


「うーん、もう少ししたらマリカも仕事終わるから一緒にいい?」


 タイチがえっ? という表情をしてから「あ、まあ、いいけど……」と言った。


 私はデバイスのプライベートモードでマリカに連絡を打ち込む。

『談話室、タイチと待ってる』


 その姿を見ていたタイチに言われる。


「そういえば、俺、ミサキの連絡先知らない。教えて?」

「いやだよ」

「なんで」

「なんでって……。

 別にタイチと個別に連絡取りあうことないよね」


 私の言葉にたじろぐタイチ。

 さらに何か言ってくるかと思ったけれど、黙ってしまい歩き出す。


「ちょっと! そっちは談話室じゃ……!」

 

 呼び止めようとするが、ちらっとこちらを見て、さらに行ってしまう。


「もう!!」と言いながら、私はタイチを追いかけた。


 ずんずん進んで、農業ベースの方へ来た。


 大きな窓は宇宙空間が広がっている。

 星がきれいだけど、24時間いつも見える景色だ。

 大きな宇宙プラントで回転しているからまあ、じっと見ていれば微妙に動いては行くんだけど。


 農業ベースの方もガラス越しに中の様子が見えて、青い人工的な光の中で育つ緑の葉っぱたちの間で忙しそうに動くコンベアー上のアームロボットの動きを見ている方が面白いかも。


 タイチはその宇宙空間と農業ベースの両方が見える辺りで立ち止まり、外を、つまり宇宙の方を見ている。


 私は近くまでは行ったが、周囲に人がいないので少し距離を取って、マリカのデバイスに『ごめん、農業ベースの方』と打ち込んだ。


「夢でさ……」

 タイチが唐突に話し出してびっくりする。

 私がタイチの方を見たのを確認して、微笑んだタイチが話を続ける。


「夢でさ。

 ミサキのことを抱こうとするんだよ。

 でも、そうすると感触がやけにふわふわしてて、なんか部分だけになって、物足りないというか……」


 ん?

 夢の感触の話?


「それは夢だからじゃない?

 それに私のトイレの話と同じでさ。しちゃいけないことだから、ブレーキがかかるんじゃ?」


 タイチが苦笑する。


「しちゃいけないこと? 

 ミサキは特定のパートナーいないだろ?」


 あ、この方向性の話はやばい気がする。


 私は来た方へ戻ろうとした。

 とたんに後ろからタイチに抱きつかれ、バランスを崩して窓にぶつかりそうになり、慌てて窓に手をついた。


 タイチの腕が私の胸と腰あたりをぎゅっと締め付けてきて、右耳の斜め上から「やはり夢とは違う……」とタイチの囁きが……。

 

 私は窓から手を離し、タイチの腕をつかんで自分の身体から引き離そうとするが、放してくれない。


「放して!」

「いやだ……」

「ちょっと、何バカなことしてんのよ」


 私は声を荒げた。


「放せ!」

「ミサキは何も感じないか? 俺はもっとミサキを知りたい……」

「放して!」


 私は必死にもがいた。

 タイチが腕を緩めてくれて、私はそのまま離れると、談話室の方へ足早に歩き出した。


 タイチはそのまま、そこに突っ立ったままだ。

 

 談話室に到着する前にマリカと行き会い、後ろの方を指差して「あっちにタイチがいるよ。私は帰る。じゃね」と言って、自分の部屋に向かう。


 自然にいつものように言えてたとは思うけど……。


 自分の部屋に入ると大きく息をついた。




 私はこの宇宙プラントの中で医療スタッフをしている。

 マリカは通信技師、タイチは確か環境エンジニアだったかな。


 マリカは私の幼馴染で、地元のジュニアスクールが一緒だった。


 そこから、私はメディカルスクールへ、マリカはエンジニアスクールへ進学した。

 この仕事が決まった時に、マリカと一緒だということがわかり、ふたりで連絡を取り合い大喜びした。


 タイチはマリカとエンジニアスクールで一緒だったそう。

 だからタイチはマリカを通しての友人というか、友人というより知り合いという感じで、マリカがいなければ、私たちはほとんど関係のない人同士だ。




 右耳がぞわぞわする。そういえば夢のトイレの話の時もこちらの耳に囁かれたっけ。


 私は服を脱いでシャワーを浴びると、部屋にあった保存食で食事を済ませベッドに潜り込んだ。


 タイチとマリカは何を話しているだろう。

 気にはなるが、私には関係のないことだ。


 変な夢を見た。

 タイチが出てきた。もうバカ!


 目覚めるとデバイスにマリカからメッセージが届いていて、今日の午前中の4時間勤務後に2日間の休みに入るから都合のいい時に会いたいと。


 私は自分のシフトを確認した。

 私は今日はこれから6時間勤務で、午後の遅い時間から休みに入りそのまま明日も1日休みだ。

 今日の夕方からなら、明日は休みだからいつでも大丈夫と返事した。


 朝食も保存食で簡単に済ませてしまう。

 補充しとかなきゃな。

 マリカから返事が来ていて、今日の夜に夕食を一緒に食べることになった。

『OK』と短く返事して、私は仕事に行った。


 今日の担当は定期健康診断対応だったが、カエラにお願いされて担当をチェンジした。


 外来担当だ。

 今日の健康診断にカエラのパートナーが来るんだそう。


 パートナーか……、そろそろ考えた方がいいのか?


 タイチの顔が浮かんで、ぶんぶん頭を振った。

 ダメだ、もう気にしないようにしないと。


 外来は体調を崩したプラント職員が1人、調理の方で怪我をした人が1人。

 ここにはほぼ大人しかいないし。今は研修や実習の学生もいないし、とっても平和で暇だった。


 急遽一緒に組むことになったアルバート医師と雑談しながら、情報の整理や紙ベースで残すものはプリントしてファイルしたりした。


「ミサキ、今日良かったら夕食を一緒にどう?」

「すみません、もう友人と約束していて」

「それは女性?」

「女性ですけど。ジュニアスクールで一緒だった幼馴染なんです」

「へー、それはいいね。楽しんで。また今度誘うよ」


 その時、外来の受付に……、タイチが来た。


「どうされましたか?」


 私は営業スマイルで声を掛け、メディカルタブレットに問診票を表示させて、タイチのネームプレートの画像を取り込む。

 彼のカルテが画面の半分に表示された。


 なんとなく体調がと言うので、問診票にそって質問していく。

 検温して脈と血圧測定。

 特に……、うん、脈が速いか?

 私はタイチの手首を手に取り脈をとる。

 少し早いけど、顔色も悪くないし……。


「何か息苦しいとかあります?」

 言いながら血中の酸素濃度も計測する。問題ない。


 うん?

 問診票を見てちょっと首を傾げる。

 どんな症状だこれ?


 これはもう医師と話をしてもらった方がいいかも。

 このタブレットは診察室のパソコンと同期しているから、記入しているところから見ているはず。


 診察室にタイチと入るなりアルバート医師に「ミサキ、これ医局へ提出してきて」とファイルを差し出される。


「今?」


 思わず言ってしまった。


「そう、今」

 

 先生に面白そうな表情で言われて、仕方なく受け取り、医局までファイルを届けた。

 戻ると診察は終わったようで先生とタイチが話をしていた。


 私はわざと壁をノックしてから入室した。


「タイチ、どうだった? 原因と治療はわかったの?」

「あ……」


 タイチがアルバート先生をちらりと見た。

 先生が話し出す。


「ああ、少し疲労が溜まってたみたいだ。

 ゆっくり休むと言っても、気分転換になるようなことをした方がいいな。

 君達、友達なんだってな。少し、つきあってやったらどうだ?」

「え、あ、まあ、でも一緒に出掛けるぐらい親しい間柄では……」

「今日の夕食は友達と行くんだろ?」

「あ、まあその彼女とタイチは友達ですが、私は……。

 マリカにタイチも一緒でいいか聞いてみる?」


「ミサキが良ければ……」

 

 タイチの返事に私は笑う。


「そうなると私の方がお邪魔なんだけどね。

 タイチとマリカが友達なんだから、私は友達の友達でしょ。

 じゃあ、マリカからタイチに連絡入れるように伝えておくよ」

「本当に、俺には連絡先を教えてくれないの?」


 何と返していいか言葉に詰まる。

 アルバート先生もいるし……。


「……タイチはマリカを通しての友達だから。

 マリカに悪いよ」


「本当は連絡先を教えたいのに、マリカという友人に遠慮してる?」

 

 アルバート先生が言うので首を傾げる。

 別に遠慮はしていない。

 でも、今の状況なら、タイチと連絡先を交換しない方が面倒はない。


「私には連絡先を教えてくれるか?」

 アルバート先生の言葉にタイチがぎょっとしたようにそちらを見る。


「……遠慮します。

 まだ、そこまでの仲ではない」

「いや、これは手厳しいな」


 先生が笑い、タイチが少しほっとしたように見えた。

 なんだ?


 時計を見るとマリカはもう休みに入っていそうな時間。


「先生、マリカの仕事が終わっている時間なので、連絡だけ入れさせてもらっていいですか?」

「いいよ」


 私はマリカにメッセージを送る。


『タイチも夕食一緒にどうか?

 私は抜けてもいいよ。タイチに連絡してみて』


「なんて送ったの?」

 

 先生が聞いてくる。

 なんだ?

 私は少しイライラしてメッセージを読み上げた。


「タイチも夕食一緒にどうか?

 私は抜けてもいいよ。タイチに連絡してみて。

 こう送りました!

 タイチ、後はマリカと連絡取って」


「ああ、夕食の約束がなくなるなら、今日の夕食また誘うよ。

 ミサキは明日は休みだろ。どう?」


 先生の言葉に苦笑する。


「まだ決定してない予定ですから、すみません。

 ちょうどお昼ですね。

 昼食取ってきますけど、先生は……、ランチBですか?」


 シフトや食事の注文のページを開き、一応本人にも確認する。


「ああ、Bだ。

 そうだ、タイチもここで食べないか?

 ミサキと取りに行ってくればいい」



 アルバート先生の不思議な提案のせいで、私はタイチと食堂までランチを取りに行くことになった。


「タイチは先生と知り合いなの?」

「ああ、従兄弟になる」

「えっ? そうなの?

 じゃあ、先生に会いに来たんだ!

 ごめん、そっか、そうだよね。私は当番急に代わったんだし。

 私に会いに来たのかと……。

 なんだ、そっか!」


 なんだなんだ、ちょっとほっとしたというか、寂しいというか、ん? 寂しい?

 あれ?


「アルバートとは親しいの?」


 タイチから聞かれた。


「うーん、あんまり組んだことないから……。

 今日は当番を代わったから、本当に久しぶりというか、先生も言ってたけど、連絡先とか知らないし。

 仕事上の付き合いしかないよ」

「もし、マリカが今日の夕食、ミサキは遠慮してと言ったら、アルバートと夕食に行くのか?」

「うーん、わからないな。

 気持ち的にはマリカとタイチと夕食に行く気でいるけど」

「なら、なんで『抜けてもいいよ』って」


 それは私からは言えない。


「うーん、何となく。

 私は……、そうだね……、私もそろそろパートナーを見つけた方がいいのかなとも思うし。

 ふたりの邪魔はしたくないからさ」


 食堂に到着し、受け取りタブレットに診察室と打ち込んでアルバート先生とカエラが申し込んでいたBランチをふたつ受け取る。

 私もBにしてたから、カエラもB食べられてるな、良かった。

 タイチはCランチを受け取ってた。

 またふたりで外来まで戻る。


 うーん、なんだか何もしゃべらないの苦しいな。


「タイチはCランチなんだね。

 私もBかCで迷ったよ」


 明るく話しかけてみるが、頷かれただけだった。

 撃沈。

 もう黙ってよ……。


 診察室の横部屋、事務室と休憩室を兼ねてる所のテーブルに先生が出てきてて、そこのテーブルで3人でランチを食べる。


 私は「従兄弟だとお聞きしました!」と先生を巻き込んで、先生から子どもの頃の話を聞いたりした。


 その時、受付の方に人が来た電子音が鳴って、私は受付に出た。


「マリカ! どうしたの?」

「あ、直接話した方が早いかと。

 食堂に行ったら、当番代わって、こっちだって……」

「マリカは食べたの?」

「うん、食べてきた。まだ途中? 待ってようか?」

「あ、タイチもいるよ、一緒に話しちゃえば」

 

 私は事務室を手で示す。


「タイチが? なんで?」

「今日の先生と従兄弟なんだってさ」


 驚きつつ私の後ろから事務室に入ってくるマリカ。


「マリカ?!」


 タイチが驚いて立ち上がりかけて、先生もキョロキョロしている。


「直接話した方が早いかって、来てくれたんだって。

 タイチもいて良かったね」


 私の言葉にマリカとタイチがなぜかムッとしたのがわかった。


 なんで?

 私の戸惑いにアルバート先生が笑う。


「はははっ、……いや、本当に、なんだか拗れてるって本当なんだな」

「笑い事じゃないよ」


 タイチがさらにムッとして言い返してる。


 拗れてる?

 ああ、私がいるからか?


 私は慌てて、残りのランチをかき込むともぐもぐしながら容器を片付け、飲み物を飲んでから言った。


「ごめん、気が利かなくて。

 待合室の方に出てるから、ゆっくり話してて」

「「なんで?」」

 

 マリカとタイチ、両方に言われる。

 なんでって……?


「だって、タイチとマリカで今日の夕食をどうするか話してから、私に連絡の流れでしょ。

 私がいない方が話しやすいでしょ。

 マリカ、私、夕食大丈夫だから、もしマリカに振られても、アルバート先生が一緒に行ってくれるって。気にしないで、どうするか決めてね!」


 言いながら待合室に出る。

 うーん、誰も来てないし、掃除でもしちゃう?

 あ、掃除道具は事務室か……。


「あー、なんか間が悪いな。なんか空回り?」


 小さく独り言を呟き、ため息をついた。


「ミサキ?」


 アルバート先生が出てきた。

 あ、そうか、先生も部外者か?!


「あ、先生をそのままにしちゃいました。ごめんなさい。

 私達、今は部外者ですもんね……。

 でも、早く決めてくれないかな。

 気を遣うの、ちょっと疲れてきました……」

「気なんか遣わなきゃいいのに」

「ダメなんですよね。

 したくても、頭のどこかでダメだと思ってるとできなくなる。

 ふふ、漏らしちゃった方が気持ち良くてスカッとするかもしれませんね。

 後片づけは大変だけど」

「何の話?」

「ふふふ、夢でトイレに行く話です」

「なんだそれ?」

「中のふたりは?

 ちゃんと話してます?」

「ああ、話してるよ」

「それなら良かった」

「ミサキは……、なんでそんなに自己肯定感が低い?」

「自己肯定感?」

「タイチが一生懸命好意を伝えているのに、受け取らないって、そういうことだろ」

「……うーん、自己肯定感っていうか……。

 気持ちの矢印は1本じゃないし。

 自分の思いがあるように、他人の思いもある。

 他人の思いを知ってしまったら……、自分の矢印は引っ込めるしかないし、そうなると他人の矢印からも逃げたくなる」

「すべての外にいたいということか……」

「そうですね、そうも言えるかも。

 私、友達思いな風を装ってて、実は冷たいんだと思います。関わりたくないし、邪魔したくない」


「バカだな、お前は」


 アルバート先生が私を軽く抱きしめて、頭をポンポンしてくる。

 私はどうしていいかわからず、されるがままになっていた。


 あれ、これはどういう状況?

 もうそういうことを考えるのも面倒くさい。


「おとなしいな。

 タイチには暴れるんだろ?」


「……先生のことを好きな人がいれば、暴れますけど、知らないし」

「知らないならいいんだ」

「うん、そうですね……。

 やっぱり暴れておきます! 放して下さい!」


 後ろからグイっと腕をつかまれて引っ張られ、先生は放してくれた。


「何やってんだよ!!」


 私の腕をつかんで先生に怒っているのはタイチで。


「なんで?

 あ、放してって言ってたからか!

 ありがとう、タイチ」

「ミサキ、大丈夫か?

 なんか危なっかしいな……」

「大丈夫、大丈夫。私のことはお気になさらず。

 で、今日の夕食はどうなった?

 私はどうすればいい?」

「夕食は食べに行く、予定通り」

「……そうなんだ」


「ミサキ、もう気にしないで。

 私、ちゃんとタイチに振られたよ」


 事務室の方から出て来たマリカが言った。


 私は全身から血の気が引くような気がした。


「ごめん、私がいたからか、私が……」


 見えているものがどんどん白くなり、音が遠くなる……。



 目が覚めるとどこかのベッドに寝ていて。

 あ、診察室の奥の治療用のベッドか?!


 タイチがこちらを覗き込んでいてびっくりする。


「わっ?」


 タイチがほっとした表情で言った。


「良かった、目が覚めて。

 あのまま、どこかに消えてしまうんじゃないかと……」


「ん?

 マリカは?

 タイチに振られたって、何?」


 タイチが私の手を握ってくる。


「マリカは俺に『好きだった』って言ってくれて、それで、俺は『友達としか思ってない』と返事した。

 俺とマリカの間のことはそれだけ。

 誰も関係ない。

 だから、安心して」

「でも……、マリカは大切な友達なの……。マリカのそばにいなくちゃ」

「今はひとりにしてあげよう」

「……私は無力だ……。

 ん、でも夕食は3人で食べるんだよね?」


 タイチが困った顔をする。


「あ……、その、マリカはアルバートと夕食に行く約束をしてた」


「えっ? じゃあ4人で?」


「あ、だから、予定通り夕食に行くのは俺とお前のふたり!」

「……なんで? おかしくない?」


 タイチがイライラし出す。


「だから、ちゃんと俺にも言わせてよ!

 俺はミサキが好きなの!

 マリカのことはずっと友達だと思ってた。

 マリカからミサキを友達だと紹介された時から、ずっとミサキが好きで!

 なのに、ミサキは全然、話を聞いてくれないし、俺と、マリカを通してしか連絡してくれないし……」


「私はマリカがタイチを好きだと聞いたから、友達の友達から、友達の恋人になる人だと……。

 だから、必要以上に親しくならない方がいいと思って……。

 なのに変なこと言ってくるし……」


「変なこと?

 そんなこと言ったかな?

 一生懸命、ミサキのことが好きだ、気になるってこと言ってたつもりなんだけど……」


「えー、好きな子のトイレ姿を想像して興奮したって、すごく危ない言葉だよね。

 変態か?!

 あと、急に人気のない所で後ろから襲われて抱きつかれたし……」

「あれは!

 もう普通に好きだ、かわいいって言っても全部スルーされるからっ!

 これだけやったら、俺の気持ちが伝わるかとっ!

 それで、アル兄さんに相談に乗ってもらおうと来たら、そこにいるし、俺に会っても平然としているし!」

「あ、だから、脈拍が速かった!」

「もう少し黙れ!」


 タイチの顔が寄ってきて、キスされた。

 

「あれ、キスできた……」


 私が考え込むのを見てタイチが不思議そうな顔をする。


「あ、二度寝の夢の中じゃないんだ、これ?」

「……夢の中では俺とキスしようとしてた?」


 えっ?


 私は真っ赤になった。

最後まで読んで頂きどうもありがとうございます。


☆いつもの路地まで逃げると夢の終わりでほっとする話。

鬼滅の刃の映画を観た時に「あ、夢の境界!」と親近感を覚えました。


☆夢の中の学校のトイレの話。

学校の夢はもっと探検したくて夢の中で頑張ってたら、教室や体育館や校庭にも行けました。でも、その後、見れなくなりました。なんだか寂しい。

 

なんか変な夢だったなあとすごく記憶に残っていたのでそれを主人公に話させてみたら面白いかもと、とりあえず書いてみたら、どんどん話が進んで、場所は宇宙プラントで恋愛を拗らせてる女性と男性の話になってました。たぶん20代前半くらいの年齢でしょう。


書き上げた後、トイレの夢について調べてみたら、学校のトイレはストレスが溜まってるとか、トイレの壁がないというのは性的な衝動が高まってるとあり、いや、その通りの話になっちまったなーと笑ってしまいました。

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