82.旧魔法帝国
「……と、私は考えている」
魔法が淘汰された、か。
ちなみにロデルさんは俺をこの部屋に送り届けて挨拶をすませたあとどっかいっちゃった。本館に帰ったのかな。クロックはロデルさんとはまた別の圧があってちょっと畏怖い。
「魔法が生まれる以前から神術は存在したが、それを扱う組織はオーレンズ教会ではなかったらしい。おそらくは王族だろう」
それは、当時の平民&貴族と王族の衣装やら家やら、そのほかの待遇があまりにもかけ離れており、平民は何らかの力で王族に圧政をされていたと思われるから、だそう。決定的なのは、王族の墓から、神術に用いるであろう道具の破片のようなものが発見されたからとか。
古墳とかピラミッドみたいに大きい墓に入れられてたらしいね。昔の偉い人ってだいたいデカい墓に入ってるよな。
当時、ほぼほぼ人類統一国家というかそのレベルの規模だったらしい。
「しかし奇妙なことに、ある日突然平民、そして貴族が『魔法』を扱えるようになり、悪政は打倒され、王族の代わりに神術の管理を行う組織としてオーレンズ教会が生まれたと考えられている。およそ2500年前の話だ」
へ〜、そんな起源だったんだ、オーレンズ教会。てか2500年前!? そんな昔からあるんだ……。
「……あくまで原型だ、原型。そのままそんな長い間残っているわけがなかろう」
俺の反応からなにかを察したのか補足を入れてきた。そっすよね。さすがにそんな長寿じゃなかったわ。
「なぜ魔法が扱えるようになったのかは不明だが、当時の貴族の日記がそれはそれは多く残っていてな、展示にも記載されていたと思うが、そのおかげでいつ魔法が生まれたのかはほぼ確実だ」
クロックは気を取り直して話の続きをする。
そうか、日記書いたのって貴族か。そりゃそうだよな、今も識字率はそんなに高くないし。
「しかし、肝心の魔法の法則……今でいう、魔法学やら詠唱学やらと呼ばれる分野の記録が一切残っていない。……これらの切れ端を除いてな」
クロックはしゃべりながら、部屋にある棚の扉を開けて、しばらくごそごそした後、二つの額縁に入ったなにかを俺に見せてきた。
それらは焼けた紙だ。ほとんどが焼けてしまったようで、額縁に入っているのは一つの角だけだ。多分左下、紙の端は黒く焦げている。やけに紙質がいいというかあたらしいので、たぶんレプリカの類だ。それにクロックの口ぶりからして絶対重要なものをこんなポーンと置けるわけがないだろうし。
「これは当時の魔法についての資料とされている。ここに書いてある文字が見えるか? これは『ヴェルシオン帝国』……アレサヴェッタ帝国の前身である国で使われていた文字だ。研究者の間では、旧魔法帝国文字なんて呼ばれている」
クロックがジェスチャーでこっちにこいしてきたので寄ってみる。焼け残っているところには、なんかよくわからない文字が書いてある。読めねぇ。
魔法帝国はこのヴェルシオン帝国とアレサヴェッタ帝国しか存在しなかった、していないから、旧とか現とか雑な呼び分け方で事足りるらしい。
「これが『熱』、これが『光』、これが『放出』という意味だ。それ以外は専門用語か、特殊な文法か、まだ解読されていない」
クロックが指をさしてその単語の意味を教えてくれた。もう片方も同様に、指を指して意味を言ってきた。どっちも似たような部分が焼け残っているのだが、なんというか、体系化されているんだろうな〜って思う。どっちもテンプレートっていうか、それに沿って記録しているらしい。
そもそもの文量が少ないから解読できそうなもんだけど、解読ってむしろ短いほうが難しくなるんだっけ? なんかあの、出現頻度みたいなさ……。
「気づいているかもしれないが、これらはあるルールにそって記録されたものだとわかる。つまり当時の魔法は現在のように体系化されていたわけだ」
やっぱそっすよね。なんか魔法書に通じるものを感じたもん。
「それならばもっと資料が残っていそうなものだが、これらが発見された29年前以来、一切発見されていない。そして今のところ唯一見つかっているこの切れ端から察するに……大規模な消却が行われたのだろう」
クロックは額縁を棚に戻し、また椅子に座りなおす。
「この時代以降の魔法に対する理解度の低さを見るに、魔法の識者も処刑されたか、魔法を大幅に規制されたか、それとも世界が魔法どころではなくなってしまったか……どれにせよ、魔法という文化は一度消えたんだ。だれが、なぜ消却を行ったかはいまだ判明していない」
「一応理由はわかってるんですね。なら、なんでそれを展示しないんですか? そうしたほうがすっきりするんじゃ……」
「政治的な問題だよ。アレサヴェッタ帝国の奴らはこの時代の話をやけに嫌うからな」
まったく、嘆かわしい! と、クロックは半分独り言のように吐き捨てる。
政治的な問題だったか〜、一番難しい問題じゃないか。やっぱ前身の国だし滅んだ云々の話は嫌なんだろうか。なぜ、誰がやったのかわからないのと関係がありそうな。
「さて、納得してもらえたかな?」
「はい、教えてくれてありがとうございました」
「構わん。また気になることがあれば気軽に訪ねてくるといい。もっとも、私はもっぱらアーリアのほうにいるから、手紙のほうがいいかもしれんが」
ロデルさんからすでに聞いております。
アーリアシティは神の目がいる街だな。グリア学園があるイソーシティからはちょっと遠いし気軽に行けるような場所じゃないね。
その後、魔法史館を出て、ロデルさんに挨拶して、ついでにその場にいたジンとネックスともちょっと雑談してから宿に帰った。ちょっと今日はもうほかの事する気おきねぇわ……濃度……話の濃度が濃い……!
壮大な話だった。地球でも、人類は何回かほろんだんじゃね? って言われてるらしいし、こういう話は世界共通なのかもな。




