80.魔法の始祖
俺の中で改革が起きた気分だ……変な意地は張るもんじゃないね。
とはいっても、さっきも言った通り、今の俺は杖を買えるほどのお金は持っていない。杖はたけぇんだよ。さっきの店で一番安いのでも諭吉が一人死ぬ。それより安い杖はほとんど効果がないから安物買いの銭失い、になってしまうらしい。おっちゃんから聞いた話だ。
俺はもう少しモルガナイトタウンを回ってから宿に帰ろうかと考えている。時間的にすぐそばの商業副都市ヘリオドールは見て回れそうにもない。
露店には金物のみならず、がらくたのように見えるなんかとか、どっから取ってきたんだ、っていうよくわからん木材とか、加工されたもので言えば人形とかが売られている。
食べ物も売っていて、並んでいる客を見る感じ、ここで働いている鍛冶などを対象にしているそうで、何を売っているのかみてみるとすごく油ギッシュな肉とかだった。俺が食べたら腹下しそうだし、食べるのはやめておこう。
だいたいは買ったところで何の役にもたたない、あるいはたてられないものばかりだが、人形はお土産として悪くない。うちにはこういうのを飾っておくスペースは十分にあるし、クオリティもなかなか良い。値段は店によるから何とも言えない。
人形に焦点をあてて露店を眺めると、木を素材にしたものや、陶器、中にはガラス製のものも見受けられた。うーん、ガラスは高い、却下。陶器は重い、却下。あとこいつらは割れるからな。これからうちに弟が一人増えることを考えれば割れるものは控えたい。
適当な店のものを一つ手に取ってみてみる。それは髪の長い女性のようで、フードのついたコートを羽織り、杖を手元に持っており、その顔は彫られていない。なんというか、まあ悪くはないがこれを彫るんなら他に猫とか作れば売れそうと思ってしまう。何をモデルにしてるんだろう……。
店主に尋ねてみると、これは魔法の始祖をモデルにしているとの返答が返ってきた。俺が観光客だと理解したのか、その詳しい背景も教えてくれた。
なんでも、魔法の始祖は詳しくわかっていないが、その加護は受けたい、崇めたいってことで、とりあえず魔法の始祖として作られた「象徴」がこの像らしい。女性でコートを羽織っていて、杖を持っているのっぺらぼう。これが特徴で、作り手によっては髪の長さが違ったり服に意匠がこらされているらしい。ポーズは自由。そのビジュアルだけが共有されている状態とのこと。
つまりこの女性は「魔法の始祖という概念」をキャラクター化したものであって、魔法の始祖そのものではないと。難しい立ち位置なんだなぁ。
そんな生まれなので正式なものではないかなりローカルなものだ。そのため、魔法館などちゃんとした組織では見かけないそうだ。
俺はなんか面白そうだから買うことにした。ここでしか売ってないみたいだし。
さて、そんなこんなで、もう外が暗くなり始めたので俺は帰ることにした。
明日は魔法館に行く。魔法史の話、聞けるといいなぁ。




