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第3話 生まれて初めてプリンを食べる覇王フリード様

 私は簡単にフライパンで作れるプリンを、フリード様がじーっと見つめる前で作ってみせた。


 プリンの材料で用意したのは、ニワトリと同等らしきロックバードの新鮮な卵【鑑定済み】と牛っぽいたぶんジャージー牛と近い野牛獣やぎゅうじゅうの濃厚で極上な乳【鑑定済み】ときびっぽい植物からできたお砂糖【鑑定済み】と木苺。


 お砂糖、貴重でなく(?)って良かった。

 食材庫にけっこう大量に置いてあるし。

 甘党っていうフリード様のためには、ないと困るもんね〜。

 元いた世界と同じぐらいの価値なのかしら?

 異世界は食材の調達が大変かもって思ったけど、料理をするのにとりあえずは足りていて、量も大丈夫そうでホッとする。

 甘味を作るのは果実などからでもいけるけど、サッと甘みを足せるし、料理に使えば照りも出る。


「卵を混ぜておきます。牛乳を火にかけ砂糖を入れ溶かします。ある程度冷ましたら卵液とさっき混ぜた材料を混ぜて適度に撹拌かくはんします。あとは裏ごしして耐熱出来る器に入れ、フライパンに水を張って器を入れ蓋をして蒸します」

「蒸す……? 甘味で蒸したものは初めてだ。焼いたビスケットや果物を干したものは食したことがあるが」

「蒸してぷるぷるになったら、冷やすんです」

「ぷるぷる? 冷やすのか」

「あとは私の世界の家庭では一般的にはカラメルソースというのをかけたり、それを器の底に仕込んだりするのですが。……フリード様は甘苦あまにがなカラメルソースより煮詰めた木苺のソースが良いと思うんですよね〜。食べつけてないし。プリンを食べるという初めてを感動と驚きとで埋めたいので」

「……楽しみだな」


 竈門かまどはあるし、なんなら焚き火してプリン液を温めることだって出来る。

 異世界でもこうして夢中で料理が出来るのは嬉しい。


 目の前のやるべき作業を手順通りに。


 私にとって、お菓子作りやお料理をすることは『究極の楽しみ』だ。熱く集中すれば無心になれる。

 

 そうして私はプリンを作り終え、冷やしの段階に入って、フリード様に魔法の冷気を出し続けてもらう。


 初対面の男の人の目の前で料理を作るって最初は緊張したけど、おばあちゃんの洋食亭に来てくれるお客様だと同じだと思ってしまえば無駄な緊張感はなくなった。

 だけど、美味しいプリンを作るのに必要な目配りとタイミングを計る緊張はある。失敗したくない。

 一番美味しい状態で食べてもらいたいよね。


 プリンをフリード様に作っているうちに、太陽が昇ってきてた。

 神々しいぐらい光り輝く、朱い朝日が目に眩しい。


 異世界だって、夜を朝に塗り替える太陽には明るくって。ああ、朝が来たんだなってホッとする。……暖かい。


「綺麗……」

「……太陽は、変わらぬのか?」

「そうですね。私の世界と同じです。朝の太陽は希望を感じさせてくれる」

「ふふっ、お前は詩人だな。さすがロマンチックなファーストキスを夢見るだけある」

「からかってんですかっ! もうっ。辛くて苦いプリンにしちゃいますよ?」

「それは勘弁だな。ふははははっ」


 フリード様が笑いながら氷魔法を使うと、ちっちゃな雪だるまたちが飛び出してきて驚いた。

 手足顔つきで、ニコッと笑って消えていく。


「雪だるまカワイイ……」

「お前もそのうち初級魔法ならきっと使えるようになるぞ。そうしたら自分で雪だるま出し放題だな」

「フリード様の出す雪だるまの方が可愛いかもですよ?」

「んなわけあるか。誰が出しても変わりない」


 私が笑ってじっと見つめてみると、フリード様は恥ずかしげに顔を背けた。

 きゅんっ。

 フリード様の仕草には意図せず無駄にきゅんっが出てしまいます。


 このお方、こんなに可愛らしいところもあるのに、怖いとかいわれてるんだよね。

 まあ、そっか。

 一国を束ねる王様は、怖いぐらいに威厳がないと務まらないのかもしれない。


     ◇◆◇


 良く冷えて出来上がったプリンに木苺のソースをかけて。

 フリード様がワクワクした様子で待つ小さなテーブルに置く。


 戻ったテントの中に、太陽の光が差してさっきよりぜんぜん明るい。


「食べていいのか?」

「はい。召し上がれ」

「いただきます」


 ドッキドキだ。


「うーんっ! 美味いっ!! これはなんて美味い代物なんだ!」

「美味しいですか? 良かったあ〜」


 フリード様はぱくりとプリンをひと匙食べて、目をまん丸にしてた。

 私の作ったプリンを食べた反応、フリード様のにっこにこの笑顔が、嬉しい。


 料理を振る舞うとき、ドキドキするの。

 美味しいかな? 喜んでくれるかな?


 なんて言ってくれるのか。

 楽しみで、ちょこっと不安で。


 にっこにこの笑顔でフリード様はぺろりっとプリンを二つ食べてしまった。


「ああ、美味いっ。うーん、初めて食べた味だが、俺はこいつを気に入ったぞ。『ぷりん』は口の中で溶けてすぐ無くなってしまうな。ああ、俺は死に際には『ぷりん』が食いたい。これを食って死のう」

「大げさですねえ」

「弥生も食え。腹減ってるのだろう?」

「私は一つで充分です。もう一個食べてください」

「良いのかっ!?」


 ふふっ、子供みたいだ。

 私は炎帝フリードの顔に見惚れていた。

 美しい顔つき。皇帝なのに偉ぶっても澄ましてもいない。あどけない少年っぽさが混在してる。


「皇帝様が遠慮なんかしないでください」

「ありがとうっ。いただきます」

 

 そういや、異世界の人も『いただきます』って言うんだ。


 私もプリンを食べる。


「うっ、美味しい!」


 やった、美味しいっ!

 プリン、大成功〜。

 上出来だ。

 それに、久しぶりの食べもの。……胃腸に、五臓六腑に染み渡る。

 一日の栄養的には回復ポーションを飲んでるから問題ないかもだけど、やっぱり食事とかスイーツを楽しみたい。


「弥生」

「はい?」

「……俺の女になれ」

「はあっ!?」


 フリード様、さっき恋人にするのって年端もいかないような子供は絶対にないとか言ってなかったっけ?

 私を恋人になんか出来ないって、興味が湧かないって。


 それが、なに言っちゃってんの〜!?

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