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作戦タイム

 その日の放課後。

 次朗の希望通り、何かを賭けることにして、それを話し合った。三人誰もが、それを得て嬉しいものでなければならないから、少し時間がかかったが、それもなんとかまとまる。

 そこで、由香が呟いた。

「テストの順番って、結構大事だよね」

 その言葉を聞いて次朗は、今日発表され配られたばかりの、試験日程表を取り出した。幸平がそれを覗き込む。

「一日目が国語、英語、理科。二日目が社会、数学」

「今言った順番?」

 幸平が日程を読み上げたのを聞いて、由香が訊く。

「ん、どゆこと?」

「国語が一日目の一時間目で、数学は二日目の二時間目?」

「ああ、うん、そうだよ」

「ふぅん。私にとっては、ありがたい順番ではないな」

 その言葉を聴いて、男性陣2人は首をかしげる。

「だって私、数学が一番苦手だから」

「あー、何点落とすか分からないってことか」

 次朗が納得する。

「そう。数学はしっかり勉強しておかないとなー」

「どちらにしても、調整しにくい国語と英語が最初に終わっちゃうって言うのは、ありがたいことかもしれないな」

 幸平が言う。

「そうか? どっちにしろ、何点落としたか分からないんだから同じじゃない?」

 次朗が意見を述べる。

「あ、そっか」

「でも確かに、大体どれくらい落としたかが想像できるから、悪いことではないんじゃないかな?」

 由香がそうまとめた。





        *

 どうも、作者winxです。

 ここで3人の中で話題になったように、点数配分が分からないと予想される国語英語が、このブラックジャック・ゲームを攻略する上で3人の壁となっているようです。配点が分からないだけでなく、国語英語では採点に、○でも×でもない、△が存在しますから、それによって自分の点数の予想はさらに難しくなるでしょう。

 この国英をどう攻略し、さらに残りの三科目でどのように調整するか。それがこのブラックジャック・ゲームの勝負どころとなるでしょう。

 さて、その日の夜。3人はそれぞれに、自分なりの作戦を立てているようです。

 ではまた。

        *




 その夜。

 次朗は自分の部屋で、ベッドに横になりながら、ゲームの作戦を立てていた。 

 全体的に成績の芳しくない次朗ではあるが、それでも得意苦手は存在する。もっとも得意とするのは、社会。

(それが、一日目の最後、か)

 国語が最大の苦手。それは一番最初。

 理科と数学はある程度、点数を取ることはできる。どちらかというと、暗記系の科目の方が得意だ。数学でさえ、問題のパターンを覚えて、数値を強引にあてはめ、それらしい答えが出るまで粘る。それが次朗のやり方だった。しかし、このやり方故に、数学では点数にバラつきが出る。

 前回の定期テストでの次朗の点数は、500点満点中219点。自分の中でも、悪い方だった。

 

 とにかく、次朗は勉強という行為自体が嫌いである。自分には合わないもののように感じてならないのだ。幸平を見ていると、何が楽しくてあんなにまじめに授業を聴いていられるのか分からない。自分の場合は聴いているではなく、聞いている、になるのだろう。

 しかし、次朗は頭を使うのが嫌い、というわけではない。むしろ、何かについて、研究とまでいかなくても、ただひたすらに調べたり、考えたりするのは好きである。それがたまたま学校でやることとは一致しないというだけ。それなのに、学校では授業での勉強だけで優劣が決められる、はたして社会は、良い学歴を作れないであろう自分の力を正当に評価してくれるのだろうか。たまに、そう思って不安にならないわけではない。


(とにかく、国語英語の点数をどうにか正確な形で予想したいな。そうすれば、配点が分かる残りはなんとでもなる。数学が少し不安だけど)

 次朗はベッドから起き上がり、念のために残してある、これまでの定期テストの綴じられたファイルを何げなく手に取った。

(1日目、2日目でそれぞれ、21の倍数点をとろう。何点になるかは分からないけど)

 ファイルを開く。

(そのためには、最終教科の数学を今までのような解き方でやってちゃだめだな。一番勉強しないといけないのは数学)

「ん……」

 ファイルをめくる手が止まる。目の前にあるのは、前回の国語の回答用紙。

(先生も、適当に採点するわけじゃないだろうな。何か、基準があるはず。) 

(テストが違うから、完全に同じではないだろうけど、何か、法則みたいなものが、たぶんある)

 次朗はそこでいったんファイルを置き、頭の中でやるべきことを考える。

 その日の点数をしっかり調整できるように、社会と数学を勉強。特に数学。

 国語と英語が、問題を解き終えた時点である程度、点数が予想できるように、点数と答えの傾向を研究だな。

(これをしても、点数は上がらないけど、まぁいっか。そっちの方が断然面白そうだし)

「そうだ」

(配点とか回答の法則は、それぞれの先生で癖があるだろ)

(今回のテストを作る先生をどうにか調べて、その先生が作った、過去のテストを研究すればいい)

(明日は、とにかく国語と英語をどの先生が作るのかを、なんとか調べよう)

「よし」

 次朗は立ち上がり、机に向かう。

(なんか、勝機が見えてきたかもしれない。とにかく、数学の勉強さえしておけば)

 カバンを開け、数学の問題集を取りだした。

 

 

 同じ頃。

 幸平は試験勉強を片手に、ゲームの勝利方法を思案していた。

(500点満点だから、21の倍数での最高得点は……483か)

 483点。幸平がそれまでにとったことのある最高点と同値だった。

 幸平はノートの端に、21の倍数での点を高い順から書き並べていく。

 483、462、441、420。

 定期テストでは450点が大体の平均点である幸平にとっては、420まで点を落とすのは気が進まない。

(いや……それ以前に)

 462、441、420を丸く囲む。そこにトン…と鉛筆を置き、考える。

(点数が下がれば下がるほど、つまりは調整しなければならない点数幅が大きくなる)

 もちろん、これは500点をとるだけの実力がある前提での話だが。

 単純に考えて、点数が下がるごとに、調整しなければならない点数が。

 17、38、59、80。

 そうなると、調整へのリスクが高まる。


 そもそも。

 このゲームは、三人が「いつもよりもスコアを落としたくはない」と思うことを前提としてルールが決められている。

 簡単に言えば、配点の分かるところで21点だけとって、あとは白紙で提出なんて荒業をすれば、勝利は固い。ただ、それではリアルに自分の成績に響いてくる。それがないことは、三人のうちで暗黙の了解となっているといっていいだろう。


 少なくとも、幸平はそう考えている。

(点数合わせの面からいって、いちばん簡単なのはやっぱり、483点)

 しかし、この点をとるには幸平も相当の努力が必要だ。

(国語と英語は点数調整がしにくいし、自信のない回答をした場合に何点のロスをしたかが分からない。だから、この2教科は他よりも重点的に力を入れて、何がなんでも100点を取る必要があるな)

 定期テストは授業の学習内容から出題されるので、記述のある国英でも、100点をとるのは不可能ではない。

 幸平の得意教科は数学。理科、社会の2教科は、高得点はとれるが、100点はとれない。毎回どこかで暗記に漏れがあるのが、幸平が490点を越えられない原因である。

 483点を取った時のスコアを思い出す。

 国語100、社会92、数学100、理科98、英語93。

 狙えば、幸平にとって数学の満点は難しくない。この時は、国語と英語が特に調子が良く、社会と理科は、まぁいつも通り。そんな感じだった。

 平常では、国語と英語が主に足を引っ張る。この前の定期テストでは。

 国語85、社会90、数学100、理科93、英語89で457点だった。

(この前のテストで国英が満点だったら、ちょうど483点だったわけか…)


 勉強が好き、というわけではない。幸平は自分でもそう思っている。1日の授業が終わった時は最高に嬉しいし、日曜日の夕方が嫌いなのも普通の中学生と同じである。授業を聴いているのは、それが習慣になっているからだ。自分はたまたま学校でやることが得意なだけで、何かに打ち込むなら次朗の方が、思考の柔軟性なら由香の方が、圧倒的に優れているだろうと思っている。

 そんな自分は、こうやって学校では「優秀」とされる位置にいるけれど、果たして社会で働くことになったとき、どれだけそこでやっていけるのだろうか。そんなことを時々思い、不安になることもなくはない。


 幸平はシャーペンを置き、空いたコップに水を注ぐために立ち上がった。ダイニングで勉強する幸平は、少し歩けばすぐに水道水にありつける。

 蛇口をひねって水を注ぎ、また戻る。

 この間に幸平の頭の中で作戦が決まった。

(国語と英語では、100点。絶対にこれは取る)

 コップを机に置く。

(理科と社会が数学より先にあるから、回答に自信を持てないところを白紙提出。減点を覚えておく)

 椅子を引いて、元通りに座った。

(理社で落とした点数を考えて、数学で合計が483点になるように調整する)

(数学で何点かわざと落とすことになってちょっと悔しいけど、まぁ483とれるなら、文句はないな)

「よし、そうしよう」

 幸平は理科の教科書をしまい、カバンから英語のノートを引っ張りだした。



 さらに同刻。

 由香は机に向いながら、ペンを走らせることもなく、なんとなくの考え事をしていた。

(21の倍数か)

 由香の平均点は、学年全体の平均点とほとんど変わらない。340前後。

(315とか、336かな。357……頑張れば取れないこともないか)

 由香のこれまでの最高点は400点ジャスト。

(まぁ、あのテストは、奇跡が起こったようなものだしなぁ……)

 可能性としては、378、399もあり得ないわけではない。

 2人にも話していたように、由香の苦手科目は数学。

 得意科目という得意科目は、はっきりとは存在しないが、国語と英語はある程度、得意といえば得意だろう。少なくとも、国語と英語にどう対処するかというこのゲームにおいて、自分は不利ではない位置にいると思う。

(有利でもないけどな……)

 

 自分が得意だと思っているこの2教科でさえ、その点数は基本的に、幸平の方が高いと言っていい。

 もう一人、次朗よりは自分も全体的に高い点をとるが。ただ、次朗には勉強以外の点で、自慢できる立派な長所があると思う。小学五年生の時の彼の自由研究には驚かされたものだ。植物の観察、星の観察など、生徒それぞれが自然物の観察にその宿題を終始していた中、次朗は『M城O太郎の作品の傾向と、彼が影響を受けた考えられる作品について』という、きわめて奇抜な、しかし内容の濃い研究を先生に提出し、担任を驚かせていた。

 応用力がある。自分は時々、そういったタイプ誉め言葉をかけられることがある。ただ、それは小手先の技だと、自分ではそのようにしか思えない。幸平や次朗のような飛び抜けた何かが、自分にはない。そう思っている。中途半端だと思う、そんな自分の未来について時々、不安にならないと言えば嘘になる。 


(でも、そうだな。国語と英語を上手く使えば、なんとかなるかもしれない)

 由香は突然、ふっとそう思いついた。

 幸平の言葉を思い出す。

 「テスト返却後、先生が生徒の質問とか、抗議を受け付けるだろ?」

 「あそこでどうにか、調節する。国語とか英語はその辺、頑張れば数点はコントロールできる」

(確かに、それは幸平の言うとおりだ)

 だが、それでコントロールできるのは、良くても8点程度だろう。一科目で、5点以上の増加などと、採点ミスでもない限り、聞いたことがない。

(理科、社会、数学で、なんとか21の倍数プラスマイナス8点を目指す……?)

 合計で16点まで、ラグが許される。かなり大きな幅だ。

 目の前に広がっているノートに、つらつらと数字を並べながら、由香は考えを深めていく。

(最後の教科が数学っていうのが痛いなぁ……)

 苦手科目であるだけに、例え配点が分かっているとは言っても、他に調整のしようがない。

「あ……」

 頭を回転させる。

(でも、そうか、数学が最後とはいえ、国英が返却されるのは当然その後なんだから……)

 その2教科が得意である自分なら、なんとか、なるかもしれないな。

(うん。頑張れば勝てる)

 由香はそう思い、「……とりあえず数学か…」と呟き、目の前に広がるノートと教科書に気を戻した。





 こうして。

 3人が3人なりに勝機を見出し、この日の夜は更けていくことになった。





 

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