プロローグ~how to play~
初の長編小説です。とはいえ、そこまで長くなるような気はしませんし、一話一話も短めになると思います。
中学校の中間テスト、3人がゲームを始めるようです。
ブラック・ジャック
簡単に言えば、複数人(普通は2人)が交互にトランプカードを引いていき、数字の合計が21に近づくよう調整するゲーム。どちらのプレーヤーもカードを引くのをいつでもストップすることができる。合計が21を超えた場合は、無条件で敗北となる。様々なディティールルールが存在するが、ここでは割愛。不要。
F県立C中学校の2年3組の教室で。いつものように。
3人は中間テストのちょうど二週間前の放課後を迎えたところだった。
次朗、幸平、由香。
中間テストの二週間前。学校によっての差はあろうが、各部活動が停止する時期である。テスト勉強のための時間を取る、という名目のもとで。
「部活に行くルーチンワークがなくなると、なんか変な感じだな。小学の時、早退して早く家に帰った時の気分。いつもの時間をいつものと違う場所で過ごすっていうこと、かな」
「気持ちは、分かるねー」
幸平の長セリフに由香が相槌つ。
この3人がいま、次朗の机の周りに集まっているのはいつものこと、ではない。3人がいつも一緒にいるということもない。次朗と幸平は仲が良く、一緒に行動することが多いが、由香は他の女子達と一緒にいる。3人とも、普通の中学生だ。普通にテストがデキたり、普通にテストがデキなかったり、普通に平均点をとったりする。
「テストか、つまんないな。やっぱり」
テストがデキない方の男子。次朗がぼやく。
「そう? おれはそんなに、嫌いじゃないけど」
「そりゃ、点数とれるやつはそうだろうな。俺みたいにとれないやつは、全然楽しく、ない」
「楽しめないと勉強もしないし、負の悪循環だね」
「負の悪循環じゃ、良循環だよ」
幸平が、次朗のとなりの、今は空いた席に座りながら訂正する。
「楽しめればいいのかなぁ……」
由香は前の席の机に寄りかかりながら言う。
「それが出来ないから、困ってるんだよ。な」
「だよねー」
「必要なものは、娯楽。ゲーム。楽しさの要素か。そうだな、ゲームにすればいいんだろ? テストを」
幸平は次朗に問い、立ち上がって、自分の席からカバンを持ってくる。
「まぁ、そうだけど、な。どうするんだよ」
幸平はカバンの中から、一組のトランプを取りだした。2人は昼休みなど、他の友人を巻き込んでこれで遊んでいる。
「由香も、する?」
「うん」
最近のブームは、ブラックジャック。幸い、由香も大まかなルールは知っていた。
「昼と違って、何も賭けるもの、ないけど。コンビニで何か買ってくる?」
昼休みにやるときは、小分けされたタイプのお菓子を全員に配分して、それを賭ける。
「別に、無くてもいいんじゃない?」
「んー、でも。ブラックジャックって、ポーカーと同じで一戦一戦があっさり終わっちゃうから、何か賭けないと面白さ半減だぜ?」
次朗の言葉を聞いて、幸平が少し考えてから言う。
「モノである必要はないだろ。全員が10、数字を持って、一戦一戦自分の賭け数を言っていけばいい」
「それも、そうだな。勝ちに実益がないのは、ちょっと燃えないけど」
そうして、3人はそのままブラックジャックに興じた。
三戦ほど終わったところで、カードをシャッフルする手を止め、幸平が口を開いた。
「なぁ、次朗」
「ん?」
次朗が幸平の方を見やる。
「考えてたんだけど、テストのスコアでブラックジャック、できないかな……」
幸平のこの一言で、3人のゲームが始まった。
「はぁ?」
「あー」
「つまり、どういうことだ? 21点を何科目とれるか、って話か?」
「まさか、なんでおれがゲームのためにそこまで点落とさなきゃならないんだよ」
「俺だって21点は超えるよ、さすがに……。で、じゃあどうするんだ?」
「5教科合計点が21の倍数に近いことを競う」
「「…………」」
次朗と由香が沈黙した。
しばらくして、次朗が答える。
「それ……、ほとんど運じゃね?」
「いや、どうでもない。テストの問題用紙、配点が書いてあるだろ? それで合わせるんだ」
「ああ……なるほどぉ」
「まった、幸平」
由香が口をはさむ。
「先生にもよるけど、国語とか英語は、配点、書いてないことが多くない?」
由香のその問いに、幸平は頷いた。
「確かに。だからその辺は、勘で調整するしかない」
「んー。難しくないかな……」
「いや、おれが思いつくだけでもいくつか、抜け穴がある」
「抜け穴」
「簡単なのは、テスト返却後、先生が生徒の質問とか、抗議を受け付けるだろ?」
「ああ、うん」
「あそこでどうにか、調節する。国語とか英語はその辺、頑張れば数点はコントロールできる」
「ふむ」
「とにかく合計点が21の倍数になればいい。各教科を21の倍数にしてもいいし、100点が4つ、20点が1つとかでもいい。どうよ?」
「面白そうかも、な。やってみるか」
次朗が頷く。
「由香は? なんか、変なとばっちりだけど」
「ん、やるよ。なんか楽しそうだし」
「よし、じゃあそうしよう」
「いや、ちょっと待った」
決まりかけていた話を次朗が混ぜ返す。
「なんだよ」
「何か賭けようぜ」
こうして、3人の3週間(勉強期間2+テスト期間1)に及ぶ戦いが始まった。