新盆
「来週の土曜日、迎え火だからおばあちゃんの家行くよ。」
去年旅立った実家の父の新盆だった。
「迎え火?」
「おじいちゃん死んでしまったけど、帰ってくるの。
お盆だからね。その時に目印としてオガラっていうのを燃すのよ。それをおばあちゃんの家でするのよ。」
「オバケじゃん。」と息子が聞く。
「そうね。馬に乗って走って帰って来るのよ。きゅうりに割り箸刺して馬に見立てるのよ。」息子達は、想像ふくらましているのか、さっぱり分からないか、それぞれの顔をしている。
「帰りは、ナスだよ。」
「何それ?」
「牛でノロノロ帰るんだって。」
「ナスって牛らしいかな?」
「ナスよりパプリカじゃないかな。」
「昔の日本にパプリカ無かったからね。」
「おじいちゃんマイカーで帰って来るよね。」
「一年に一度かえってくるからね。」
息子達とのこんな会話は、楽しい。身近な慣習を伝えておきたいと思う。
夫の実家に行っても私の実家とは、違う習慣があるのか、理解しがたい事が多い。
「午後から行こうね。」
ふと、返事のない夫を見るとテレビに夢中になっている。
「あなたも行くでしょ。」
「オレ、パス。」
「行かないの?」
「行かれないの。飲み会だもの。」
「新盆なのに。」
「オレ関係ないだろ。オマエの実家だろ。オレ、お婿じゃないから。」
「自分の息子達、世話になったじゃない。」
「この間言っただろ。
『オマエの実家の面倒は、見ない』って。オレは、関係ないから。
3年前に転勤になったら渡部が、帰ってくるんだ。久しぶりに二人で飲むんだ。」
「じゃぁ、私もあなたの実家の法事は、出なくていいの?」
「オマエは、嫁だろ。出なくてどうするんだ。だからバカだと言うんだ。」
すみれは、理解しがたい夫の理屈に悩まされていた。そして恐る恐る聞いてみた。
「お義父さん、還暦なのね。知ってたの?」
「当たり前だろ。」
「親孝行ね。私の誕生日も子供達の誕生日も言えないくせに。結婚記念日は、いつでしょう?」
「うるせいな。」
「お義父さん、還暦でお祝い楽しみにしていたのね。パジャマなんて失礼だったね。どうして教えてくれなかったの?」
「うるせぇ。」
「何か約束してた?」
「オマエ、余計な事しなくたいいんだ。
オレがちゃんと考えているから。口出しするなよ。」
「あんなに高いパジャマなんて贈らなきゃ良かった。」
「いちいち、うるさいな。」
「でも家計費ギリギリなのよ。」
「オマエは、余計なんだよ。
だから、オマエは、黙っていれば、丸くおさまるの。
生活費足らなければ、ここで土下座しろ。土下座したら、あとが一万増やしてやるよ。
本当にオマエさえいなければオレは、幸せだよ。ホントにうるせぇ」
「私いない方が、いいのね。子供達は、どうするの?」
「お袋と育てるから、オマエはいらないよ。」
結局、皆でいつ旅行するのか、聞き出せないままだった。