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 すみれが、目を覚ますと薄明かるかった。


 ただ喉が痛い。アルコールは、控えめにしていたので残っている訳じゃない。


「そうだ、歌いすぎたんだった。私、マイク離さなかったかも。」と独り言を言いたくても声が出ない。

とりあえず、はちみつをなめてみようと立ち上がってキッチンへ向った。



「私を捨てたダンナを見返してやりたいのよ。」


「私、幸せになるんだ。誰にも遠慮なく幸せになるの。」


「人生の最後に『あぁ~面白かった』て言って死にたい。」


 友人達が口々に言っていた言葉が耳奥でリピートされる。


「やっぱり、『妻をもっと大切にすれば良かった。』と後悔する程、私は、幸せになるの。」


「そうだよ。私達は、幸せになる権利がある。」歌っている本人も頷きながら、

「そうだ。幸せを遠慮なくつかめ!」


 そして、

「私、ダンナが亡くなって目が腫れるほど泣いていたの。いつまでも。そうしたら、

『私達も悲しよ。でも泣き続けて顔がシワシワになったらどうするの?』って娘が言うの。もうシワシワでもいいと思っていたけどね。

『何言っているの。もし、100歳のシワシワ顔で死んだら、あの世でお父さんに会ってがっかりするわ。』って言われたの。ダンナは、亡くなった時の60歳の顔でむかえるものね。だから、エステも行くようにしているのよ。」

そんな言葉も聞こえたっけ。


 傲慢な夫から逃げて来たすみれは、息子達を思って自分だけ幸せになっては、いけないと考えていた。


「お母さんが見窄らしいのは、息子達から見てショックよ。」

と言われた。


 すみれは、離婚して10年。還暦過ぎて皆と再会して良かった。友人達それぞれ嵐の中潜りぬけていた。色々な考え方を聞くことが出来た。

これから、自分の考えを整理していこう。


 声がでないので昨夜の友人達にLINEを送る。皆それぞれに喉を痛めていたり、腰が痛いなどコメントが返って来た。




 翌週、すみれは、久しぶりに兄夫婦を訪ねた。

 

 子供達の巣立った兄夫婦の家は、何となく寂しい感じがした。



「すみれは、いつも泣かされていたからな。俺が助ける役だったよな。」

兄は、手柄のようによく言う。

「夏也にいは、確かに良く助けてくれたし、私の事を理解していたね。お父さんに叱られると代弁してくれたものね。」

「すみれさん、優しすぎるからね。男性がいじめたくなる感じかしらね。」とお義姉さん。


 5歳年上の兄は、いつも庇ってくれた。だから母が平等に分けたおやつもお裾分けしちゃうすみれだった。兄だけでなく誰もが、すみれを守ってくれるものだと思っていた。


「男から見ると、反論しない女の子は、ついからかいたくなるんだろうな。

からかう男子は、だいたい気があるんだけどね。

 すみれ達は、同級生だから、マコト君にライバル意識があったみたいだな。

 若い頃は、すみれが、素直に従う態度だったけれど、何でも熟して、子育てに熱中している姿を見ていて、悔しかったんじゃないかな。

すみれを『生意気な女』って思うようになったかな。

何でもやらされてただろ。

『子育て手伝って』すら言えなかっただろ。」


 以前にも夏也に言われた事をすみれは、思い出していた。すみれからお願い事をしては、いけないと考えていた。お義母さんには、

「マコトに頼らないように」と言われていたので何でも自分で解決して過ごしていた。


「マコト君には、『家庭』と言う感覚がなかったように思うよ。」

「そうね。新年会などで集まってもすみれさんが子供達にご飯食べさせたり、世話していたけど、マコトさんは、ただご機嫌でお酒飲んでた事が印象に残っているわね。」と妻秋子が話した。


「子供が出来たら、皆『父親』になると思ってたわ。

もっと私が、子育てする様に仕向けられたらね。」


「すみれさん、それは、無理よ。

すみれさんに教育出来るマコトさんじゃないわ。」と秋子に言われ、すみれは、複雑な気分だった。


俯いていると夏也が缶ビールを持っきた。

「久しぶりね。」

秋子が、グラスとナッツを更に運んで来た。三人で飲むのは、何年ぶりだろうと乾杯をした。


「せめて息子達と会えたらいいな。」すみれがぽつんと言った。

「彼等が、子育てすると自分が受けた愛情を感じるだろな。僕らの親達に沢山抱かれたことや、旅行した事。そしてすみれのおふくろの味とか。

子供達は、思い出すだけかも知れないけれど、例え会いに来なくても絶対思い出すよ。

すみれ頑張って子育てしてたものな。」


「沢山の着替え持って、よく3人連れて公園行ってたものね。感心していたのよ。」と秋子も思い出していた。


「ねぇ、あなた、旅行連れてって。すみれさんと3人で出かけたことないじゃない。」


「話飛ぶな。女性の会話の展開にいまだについていかれない。旅ね。熱海で露天風呂とかどうだ?」


「もう少し遠くが良いわよね。すみれさん。」


「飛行機乗りたい。」


「飛んだね。飛行機か。」


 夏也は、秋子とすみれの顔を交互に見て旅行もいいなぁと考えた。それから、ふたりの旅の思い出話が次々と出てきた。



 その後数カ月経った頃、次男から連絡があり、

「報告遅くなったけど、結婚したよ。」とお腹の大きな女性を連れてきた。

 すみれは、ただただ嬉しくて大きなお腹を撫でて涙を流した。久しぶりに会った息子に頼もしさを感じた。会わないうちに大人に成長した事が嬉しいような、寂しいような、複雜な想いが膨らんだ。


「きちんとした挨拶にもしないままで突然で申し訳なかったです。お会い出来てよかったです。」


「いや、僕の方で催促されてもついついお母さんに連絡取るのが、遅れちゃって。」

と次男は、お嫁さんを庇うように言った。


 以前なら、次男に

「返信ぐらいちょうだいよ。心配なんだから。」と強い口調で話しただろうにお嫁さんに会った途端に優しい義母を演ずる事が出来てしまった。それもすみれにとっても新鮮だった。


 すみれが、青い空を仰ぐと『幸せ』と雲で書かれているように見えた。

それは、これからのすみれの人生を予告しているように思えた。


お読み頂きありがとうございます。

ご友人にシェアして頂けると嬉しいです。


書き終わるのが遅くなりすみませんでした。

でも書き進むうちに私の想像がどんどん膨らんで行きました。少し先と思いますが、次作もよろしくお願いします。

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