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1.

 朝、もうほとんど人のいない廊下を3人の慌てたように走る足音が響く。足音を鳴らさないように気を付けながら軽やかに、地面を足全体でつかんで蹴ってゆく。


「ばか、どうしてあんなに起こしたのに二度寝するんだ!」

「ごめんって、まさかこんなに寝るとは思ってなかったんだ」

寝ぐせもそのまま、ネクタイもまともにしめられていない寝坊をした星影来亜(ほしかげらいあ)は走りながらぱちんと手を顔の前で合わせて相手の様子を伺う。

「ごめんで済んだら警察はいらないし、こんなに人の目を伺いながら走らなくていいんだ」

そんな彼の様子を横目で見て小さくため息をつく。巻き込まれたメガネの少年、朝比奈彗(あさひなすい)は階段を2段飛ばしで登りながら来亜の方を少しだけ小突いた。

「これ遅刻したらあたしたちペナルティ食らうのよ、連帯責任なの考えて行動してよね」

彗とは逆側で一緒に走る二つ縛りの少女、花畑(はなばたけ)かなたも同じようにため息をつきながら彗より少し強い力で来亜の頭をはたく。さすがにうっとうめいた彼は彼方に向かってごめんなさいと言いながら手を合わせた。本当に悪いと思ってるんだか何だか……とこちらもため息をつき、かなたは隣を走る来亜のことを横目で見る。

「まずいな」

腕時計を見ながら彗は少々焦ったように声を出した。時刻は8時29分、あと1分足らずで着席のチャイムが鳴り響く。それまでに教室についていなければ遅刻とみなされペナルティが課されてしまうのだ。ここから教室まであと1階分階段を上がって廊下を進まなければならないのだが、どう頑張っても1分では教室につきそうもない。廊下を走ること自体教官に見つかればペナルティを食らうのだが、もうここにきてはそんなこと関係ない。教室につくことが最優先だ。来亜はきょろきょろとあたりを見回し、階段に誰もいないことを確認すると、

「誰もいない、やる」

首元に手をかざす。

「えっ」

「おいバカ、バレたら」

「バレなきゃいいんだ、遅刻よりましだろ」

焦った2人をよそに、そう言うと来亜は目を閉じた。首元が緑色に光り、何もなかった首にチョーカーが浮き出る。目を開けると同時に寝ぐせの髪の毛がキラキラ輝く白銀へと変化し、目はルビーのように赤く染まった。そしてどこからともなく表れた緑色のキャップを目深にかぶり、

「手、出して」

もうここまで来てしまえば彗もかなたももう何も言わない。おとなしく来亜の手を取り、きゅっと口を結んで地面を蹴った。

「飛ばす」

二人よりも数段深く踏み込み、“飛んだ”。

正確に言えば跳ねながらかなりのスピードで進んでいるだけなのだが、はたから見れば彼らは飛んでいるように見えるだろう。重力なんてないかのように廊下を駆け抜ける。そしてすぐに、自分たちの教室の前までたどり着いた。廊下に誰もいなかったことが不幸中の幸いと言ったところか。

「あぶないあぶない、間に合った」

来亜はぱちん、と首元のチョーカーの前で指を鳴らした。すると髪色もキャップもチョーカーも何事もなかったかのように元に戻り、彼自身も何もなかったといった表情でへらりと笑う。間に合ったじゃないよ……と乱れた髪の毛を撫でつけながらかなたはもう一つため息をつく。何食わぬ顔で教室に入り、席に着いたタイミングでチャイムが鳴り響いた。

「おはよう来亜。遅刻ギリギリだったじゃん。また二人待たせて寝坊?」

「銀牙、おはよう」

そう声を掛けてきたのは、左耳にある特徴的なピアスとニョキっと生えた八重歯が特徴の日野銀牙(ひのぎんが)。一番遅刻しそうな顔をしているくせに、まだ一度も遅れたことも休んだこともないらしい。

「先生が来るまではチームごとの反省会だって。」

あれあれ、と黒板を指差し、銀牙はため息をつく。自習!と大きく書かれた時の下に、チームの反省をして待つことと書かれている。昨日の戦闘の反省か、やりたくない。

「しっかり来亜が片足食べられたこと書かないと」

銀牙が笑いながらレポート用紙を机の上に出す。その言葉に来亜と、隣のかなたの2人が苦い顔をした。うぅ〜と唸りながらかなたは机に突っ伏す。

「あれはさ〜、ずるかったんだもん!ベロがふたつもあるとか聞いてなかった!」

「把握していないお前が悪いな。ミイラ取りがミイラになるとはこの事だ」

彗はかすかに皮肉めいた口調で笑う。どちらにせよ倒せたんだから良いのに、とかなたは頬をふくらませて彗を睨んだ。

「今回の敵の数ってそんな多くなかったから、俺ら高等部星組だけで何とか仕留められたんだけどさ。1番人数の多い星組で片足食べられたり捕まったりしてたら、もっと人数少なくなった時大変だからね?」

銀河が頬杖をつきながら諭すように言う。確かにその通りだ、と彗も頷いた。

「4人チームじゃできることも限られてるじゃん……。せめて5人の方が遠距離部隊と近距離部隊、後方支援でバランス取れるよね〜」

かなたが文字通り頬をふくらませ、むーっと唸る。と、教室前方の扉が静かに開き、担任がやって来た。隣にさらりとしたポニーテールの女の子を連れて。瞬時に星組の生徒は姿勢を但し、敬礼の形をとる。

「かなたお前、フラグたったかもしれないぞ。ナイスだ」

来亜はこっそりとかなたに耳打ちし、ニヤリと笑った。

「えー、今日からコスモスクエアに転入する宮代すばるだ。とりあえず今日遅刻ギリギリかつ無断で能力を使用した星影!お前のチームで面倒を見てやれ」

「バレてら……」

ちっ、と舌打ち1つ。来亜は笑みを浮かべ直し、深々とお辞儀をした。

「ようこそコスモスクエア高等部、2年星組へ」

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