にゃんこがついてくる。
にゃー。にゃー。
仕事の帰り。いつもの道を歩いていると、後方から幽かに猫の鳴き声がした。けど、振り向いても猫はいない。
「猫ちゃん?にゃーん」
街灯はついてるが、人の気配もない真っ暗な闇が伸びる住宅街。私は猫の声がした方に、にゃーにゃーと鳴いてみる。けど、反応はない。
「気のせいだったのかな?」
と、独り言を言いながら振り返って帰路を歩く。するとまた。
にゃー。にゃー。
また、後ろから猫の鳴き声がした。今度は確実に「にゃーにゃー」と聴こえた。
「ねこちゃーん?いるの?」
と、猫の声がした方に振り向き、闇に向かって声をかけるが、やはり返事はない。
振り返ってまた帰路を歩き出すと「にゃー。にゃー。」と、やはり後ろから猫の鳴き声がする。今度は鳴き声を無視して歩き進める。すると「にゃー。にゃー。」と、猫の鳴き声は、私の後ろからついてくるように聴こえてくる。
「やっぱりいるのねこちゃん?にゃー?にゃーん?」
後ろを向いて、猫の声がした方に声をかける。だが、やはり姿は見えず、暗闇が広がっているだけで。
ただ、振り向いて声をかける度に猫は鳴き止んだが、今回は鳴き止むことなく「にゃー。にゃー。」と暗闇の中で鳴いていた。
私は立ち止まって、猫の鳴き声がする暗闇をしばらく見つめた。するとその暗闇から、のそのそと私の方に向かってくる影が見えてきた。ただ─…その影は、猫にしては大きい気がした。
「ねこ…ちゃん?」
にゃー。にゃー。にゃー…
のそのそと、猫は私の方に向かって歩いてくる。だんだん、その猫の姿が…見えてくる。
その猫は─…いや、猫と思っていたものは、四つん這いで歩く、大柄で頭がスキンヘッドの男だった。裸で、ブリーフだけを着けていて、目が思いきり見開いていてギラギラとしていた。
「きゃああああああああ!!!!」
私はその四つん這いの男から逃げるように、全力で走った。家に向かって走っていたが、このままこの四つん這いの男に家まで着いてこられたらマズイと、住宅街をめちゃくちゃに走って四つん這いの男を撒くことにした。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ……」
しばらく住宅街をめちゃくちゃに走りまくり、後ろを向いた。かたかたと体を恐怖で震わせながら、闇をじっと見つめる。すると「にゃー。にゃー。」という声も、足音もなにもしない。どうやら、あの四つん這いの男を撒いたようだ。
「よかった…ついてきてないようね」
と私はほっと胸を撫で下ろし、家へと向かって歩いた。
「それにしてもあのおじさん…?は、一体なんだったんだろう?変質者?何にせよ、気持ち悪かったな…」
アパートに帰り、自分の部屋の鍵を開けて中に入る。
パチッ、と部屋の電気を点けた瞬間。
「にゃー。にゃーん」
あの四つん這いの男が、玄関前にお座りしながら私を見上げていた。