第八戦闘行動 プロトタイプ
〜今は無きモノの視点・シン〜
「あれ……はッ!?テーバメ殿、そろそろ戻った方が良さそうです」
「ギョリ殿、了解しました。それでは皆の元へと戻ります」
テーバメに抱えられながら視線を振り撒いていたギョリの瞳に映ったのは、崩壊した城の更に奥から満を持して空を緑色に染め上げる一団だった。そう、それこそこの蟲族の国の最大戦力となった龍人型シン蟲族、ノーブス・アリディフォリアの一団である——
「龍人蟲族が来ました。上空で闘っている鳥人を撤収させるべきです。このままでは皆が餌食になります」
「テーバメ、急ぎ皆を撤収させて」
「かしこまりました、キーラス様」
「ここの蟲族も大分減って来たというのに、忌々しいですわ。それにまだ、だんな様達も闘える状態ではありませんわね……」
「それならば、俺様達を置いて逃げるってのも一つの手だぜ、子鹿ちゃん」
「だんな様、アテシに出来ない事を言うのはズルいですわ」
「はぁ……まったく見せ付けてくれちゃって……。アタシもイチャラブしたいッ!ねぇ、傲慢……」
「する気はない」
「ぶぅッ!まだアタシは「シたい」なんて一言も言ってないッ!それにアタシは脱いだら凄いんだよ?本ッ当に凄いナイスバディなんだよ?傲慢でもヨダレ垂らしちゃうんじゃないかな?」
何故だろうか?鬼気迫る状況と言うものでありながらも、カオスな言動に奔るのは……。危機感など疾うに持ち合わせていないとでも言うのであろうか?
更に付け加えるならば、このカオスな状況下に於いて、ブルーはスヤスヤと寝息を立てて、気持ち良さそうに寝ている。少なくともその光景を見たギョリはブルーに対して蹴りを入れていた——
どおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん
「今度はなんだ?城が更に崩壊したんですかね?」
「ハラヘッタアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ」
「イッマ姉、今……変な声聞こえた?」
「聞こえたんだよ!誰かがお腹空いたみたいなんだよッ」
「ふっふはははは。イエローめ、無事だったようだな」
城を破壊し大穴を開けてシン蟲族、ノーブス・アリディフォリアを追い掛けて来たのは食欲の化身、暴食にその身を支配されたイエローだ。
イエローは城に開けた穴から飛び降り、空を羽ばたいて出撃した後部のノーブス・アリディフォリアに飛び乗ると、そのまま「ばくんッ」と上半身を一飲みにした。
更には落下する前に次の背に飛び乗り再び「ばくんッ」。斯くして“移動”と“食事”を繰り返しながらノーブス・アリディフォリアの先頭集団へと詰め寄って行こうとしたようにも見えた——
「アレも……レッド様の仲間の一人なのですか?」
「そうだぜ、子象ちゃん。まぁ、今は俺様達の事も忘れて食欲の塊になってるから、近付くと喰われっちまう。子象ちゃんも俺様のオモチャなんだから、俺様以外に喰われるのは感心しねぇ」
「ホントにサイテー。本ッ当にゲス過ぎて、アタシ復活したら強欲を殺りたくなって来たわ」
「あっ!あの人、落っこちて行くんだよッ!」
殺意剥き出しのピンクに対して、飄々とした態度のレッド。二人は動けないからこそ睨み合う事も無かったが、周囲の状況を見る事も出来ない。そんな二人の“目”となりたいと思ったかは知らないが、イッマがイエローの状況を説明していた——
イエローの奇襲が成功したのは最初だけだった。空を自由に飛び回る事が出来るノーブス・アリディフォリアが、編隊を組んでいたからこそ為せた奇襲だったと言える。
故にイエローの餌食になったのは後続の十数体のみだ。拠って奇襲に気付いた後の行動は、飛び乗らせないように散開し回避行動に徹した事に尽きる。
従ってイエローは墜ちる以外の選択肢が無かったのである——
「ハラ……ヘッタアァァァァァァァァァァァ」
もわんッ
ぐわあッ
ずももももッ
ぎゅいぃぃぃぃぃんッ
ばっっっっっっっくんッ
余りにも奇怪な光景だった。その場でその光景を窺い知れた全員が、息を飲み言葉が押し潰され何も言えなくなっていた——
墜ちながらイエローが叫んだ瞬間、彼の口が肥大化し上空に広がるノーブス・アリディフォリア全員を、巨大に膨れ上がり更には開かれたその口内にて丸呑みしたからである。
流石にそれはもう、人が為せる“技”の範疇を超えており“化け物”と蔑まれようとも、「仕方が無い行為」としか言えないだろう。人外の化け物が誕生した瞬間……それをその目に焼き付けた者達が言葉を失うのも当然だった——
「覚醒どころか、暴走だな……。満たす事の出来ない感情に支配された以上、暴食を止める事は不可能……か。だが、それならそれで使い道はまだある」
「ブラック様、あのような化け物をどのようにして使うのです?わたくし達に牙を……いえ、口を向けかねませんよ?」
「イエローのヘイトをあちらに向けさせられれば……有用だ。その為にはこの身体が動かねばならないが、まだ無理か……。あと一つ、あと一つピースがあれば……」
ブラックには策がある。そしてギョリはその策を理解した。だが、そのギョリとて自分の身を犠牲にするつもりは無い。幸いな事に全てのノーブス・アリディフォリアを捕食し終えた暴食は、周囲に群がっている蟲族を次の獲物と見定めた様子で蹂躙している。
だが、蟲族が如何に多くても、いずれは全てを捕食し終えるだろう。そうなれば残すところ、捕食対象はこの場にいる全員になるのは明白だった——
「ゴガアァァァァァァァァァァァァッ」
どごおぉぉぉぉん
がららららららッ
「こ、今度はなんですの?残存していた城が崩壊して……ッ?!あ……あれは……う……そ、まさか……そんな事が……」
「あれはどうやら、協力ではなく利用されていた事に気付いた末路……ですね」
「アレ……強い?ヌッコでも倒せるかな?」
「ヌッコ……あれは恐らく“原初の龍”。ヌッコでは無理です。いえ……この場にいる全員で掛かっても無理でしょうね」
「子象ちゃん、その“原初の龍”ってなんだ?」
この時代に“神”が創り上げた新たな五つの種族には原型がある。それは“神”の遊び心だったのか、ものぐさだったのかは分からない。はたまたオリジナルを創っている余裕が無かったのかも知れない。
拠って新たに創造された種族全てに原型とも言えるプロトタイプが存在している。
・原初の龍
・災禍の獣
・開闢の鳳
・創生の雫
・混沌の魄
それら五つの因子より生み出された五つの種族は、世代を経る事でプロトタイプとしての力は薄まって行った。だが時に先祖返りとも、覚醒遺伝とも言える事象が起きる事は、これまたままある事なのだ。
偏に人口抑制に拠る弊害であり、生殖行為が無くても単為生殖で子孫を継ぐ事が出来るようにした結果だったと言えるだろう——




