第七戦闘行動 娼婦
〜続々続々・今は無きモノの視点〜
「イヤぁッ!行かせてッ!アテシをだんな様の元に行かせてぇッ!」
パンッ
「城は崩壊しているのです。もう行っても間に合わないどころか、死にますよ?一人で死にたいのですか?」
「だんな様と一緒に死ねるのなら、それでもいいですわッ」
「一人でです。あれを見なさい。四人は助かりました」
「えっ?あれは……鳥人?何故……ですの?」
取り乱したサッカを正気に戻したのはギョリの平手打ちと、そのギョリに言われて視界に映った鳥人達の姿だった。だがサッカは何故この場に鳥人族がいるのか理解出来ていない。……が、安心したサッカはへなへなとその場に崩れ落ちて行った——
「サッカ姉〜ッ!」
「あれはッ?!アッヌ……?何故、ここにいるんですの?どうやってこの場所が?」
「サッカ姉さん、大丈夫なんだよ?」
「無事そうで何よりだ、ギョリ様」
「クジ……「スの国」はどうしたのですか?」
「いやぁ、その件については、これが終わってから話させてもらっても?」
サッカとギョリの二人の周りには続々と皆が集まって来ていた。その中には獣人だけでなく水人の姿もある。更には上空よりジャスティスファイブを救助した鳥人達も舞い降りて来ていた。
「これはどういう事なんですの?」
「ワテクシ達の主、チッカ様が他の国を周り、有志を集めたのです。ところでピンク様……随分とみすぼらしい姿ですね」
「キーラスちゃん、覚えていなさいよ?泣いても喚いても哭かせ続けてあげるわ」
「おねえさま、その役目は是非とも某にッ!」
「レッド様、大丈夫で御座いますか?」
「あぁ、子象ちゃん。俺様は大丈夫だ。まだ動けないが、そのうち元に戻る」
ちょっとしたカオスが繰り広げられていた。だがそこに集まった面々の表情は、ホッとした様子だ。しかし状況は何一つ変わっていないばかりか、悪くなっているとも言える。何故ならば、周囲には数千から数万に膨れ上がった大量の蟲族が集まって来ていたからである——
「貴女、補助が出来るのでしたよね?それをわたくしにも出来ますか?」
「アテシの補助が水人に通用するとでも?」
「それはやってみないと分からないでしょう?それにこれだけの数……少しでも効果があるなら試してみて損は無いと思いますが?」
この場に集まっているのは、一部の鳥人を除けば全てその国が誇る上位者達である。それでも圧倒的な数の暴力に勝てる道理は無い。
この世界で「万夫不当」と言う言葉が当て嵌まるジャスティスファイブの四人は、現状に於いて戦力外。それならばこの状況を打破出来るか否かは個々の戦力差が重大な要素となり得るのは、言うまでもないだろう——
「鳥人の兵士達よ、ピンク様達の守りに数人を残し、残りは散開。上空より蟲族に対して攻撃を加えよ!手に負えない蟲族と出くわした場合、即座に撤退なさい!」
「はぁ……仕方ありませんわね。——それでは参りますわよ?効果が無くても恨み言はやめておくんなましね。猛獣戯画!馬と鹿!!」
しゅわわわわぁぁぁぁん
「これが、獣人の猛獣戯画?使えますね。わたくしの思念の出力が上がっています。——クジ、わたくしを上空に投げなさいッ!」
「了解ッ!でも着地は自分でやって下さいねッと」
ぶぉんッ
ギョリは自らをクジに投げさせ、上空から眼下に群がる蟲族に対して更に強くなった“視線”を投げて行った。その視線を浴びた蟲族達はたちまちのうちに悶え苦しみその場に倒れて行く。
「クジ!わたくしを捕まえなさいッ!」
「やれやれ、着地はお願いしますって言ったでしょうがッ!ええぃ、邪魔をするなザコ共ッ!思念!電撃流」
バリバリバリバリッ
「水人達だけに良い所を持っていかせるワケには参りませんわ。イッマ、アッヌ、ヌッコ!ノーラの力を見せて上げますわよッ!」
「いっくよ〜!猛獣戯画!馬脚を現す!!」
「アタイも猛獣戯画!犬も歩けば棒に当たる!」
「ヌッコだって!猛獣戯画!猫踏んじゃった」
ひゅ〜
「あれ?わたくしは見捨てられた……の?着地……どうしましょう?」
ぱしッ
「大丈夫か水人の?某が貴殿を掴んで飛翔しよう。某の技よりも貴殿の技の方が効率が良さそうだ」
「まったく、わたくしの配下よりよっぽど鳥人の方が使えますね。それでは暫く視線を巻きますから、わたくしが疲れるまでお願い出来ますか?」
こうして種族を超えた戦線が構築されて行った。蟲族数万に対してこちらは十人足らずしかいないが、それでもジャスティスファイブの面々に拠って(一人を除いて)“強化”された彼女達は一騎当千にも劣らない猛者と言える——
「それにしても数が多過ぎます。こうなったら妾の力を見せる時!」
「女王陛下ッ!流石にそれはこちらにも被害が出ますわ」
「大丈夫です、サッカ。妾も更に強くなったんですから!」
「(女王陛下が、だんな様と?……いつですの?)」
「猛獣戯画!心象風景之天地万象」
ごおぉぉぉぉぉおッ
二人の女王の力は、この戦域に於いて規格外と言えるかも知れない。ギョリは視線を振り撒き、問答無用で殺戮して行く。一方のエレファは仲間達を巻き込まないように離れた場所に幾つも竜巻を発生させ、縦横無尽に蹂躙して行った——
「はぁ……はぁ……はぁ……んっ……はひゅっひんっ……ひぃっふはっ……うぁぁ……出……うわあぁぁん。出るでありんすっ」
ずりゅっ
ことっ
「はぁ……はぁはぁ……これで五つ目でありん……す。これでまた、国を勃興し発展させる為の子供達が、産まれたでありんすね……はぁ……愛し子達……」
窓も無く、外の様子を探る事も出来ない部屋の中で、ひたすらに産卵する事だけに注力を注いでいた龍公女。聖女としてきらびやかに輝いていたあの頃の面影など、どこ吹く風のように落ちぶれ、今や娼婦のように暗い部屋で一人喘ぐだけの毎日を過ごしていた。
その風貌も格好も、もう龍公女とは誰もが気付かない程に窶れ、病的なまでに焦点が合っていない瞳はただ虚空を見詰めていた——
わあぁぁぁぁぁぁぁぁ
「あ……れ?いつの間にか部屋の壁が一部崩れて……それに外が騒がしいので、ありんしょうか?」
ちりりんッ
ちりりんッ
「変……ね。いつもなら鳴らせば直ぐに卵を引き取りに来ると言うのに……外が騒がしい事と何か関係がありんすかえ?」
龍公女は立ち上がる気力も体力も無い程に憔悴していたが、普段と何かが違うと考えた結果、外が見えそうな崩れた壁に向かって這って行った——
そこで見てはいけないモノを見てしまったのである——
「な……なんと言う事……愛し子達のあの姿は?愛し子達……ああぁ、愛し子達……何故?何故そのような姿に……?はっ!アン?アンもまさか……アンもあのような姿にさせられ……?」
崩れた壁から見た外の様子は、龍の翼を持つシン蟲族、ノーブス・アリディフォリアが出撃して行く姿だった。その髪は……その翼は……その角は……その尻尾は……自分の姿によく似ていた。
「自分は謀られたのだ」と気付いた龍公女は失意のどん底に堕ち、絶望の淵に落とされ、離れ離れになったアンの行く末を案じていた——
アンが既に殺されたか、蟲族のような姿に変質させられていたら、龍人の繁栄は永遠に失われる。残された手段はたった一つだけあるが、それでも滅亡のカウントダウンが多少遅くなるだけだ。
拠って、一縷の望みまで全て潰えた龍公女は、暗い部屋で一人床を濡らし……発狂したのである——




