第二十一戦闘示唆 二人の腹黒
〜ブラックの場合 其の拾陸〜
「さて、流石に侵略する訳ではないから、夜中に押し掛ける訳にも行くまい。砂漠での野宿は初めての経験だが、それもまた一つの経験……か」
斯くして私は広大な砂漠で野宿をする事になった訳だが、特筆するような事は何も起きずそのまま朝を迎えた。
そして明朝、朝早くではあったがそのまま「スの国」に向かう事にした。しかし、朝が早いにも拘わらず門番がいたのだった。
「この街に立ち入る事は許されない。早々に立ち去れ!」
「私はこの街にいるブルーに会いたいだけだ。何もする気はない」
「この街は水人族の街。それ以外の種族は何人たりとも立ち入る事は罷りならん」
要するに「ブルーがどうやって入ったのか分からない」と言う事だけは分かった。しかしここで私が引き返してしまえば、ブルーの協力を仰ぐ事は出来ない代わりに、押し問答をする事の無意味さからは解放されるだろう。
しかしそれでは意味が無いのは明白だ。
「それならば押し通らせてもらうしか無くなるが、構わないか?」
「キサマァ!舐めるなぁッ!」
「止めときな、アンタじゃ無理だ。なぁ、それくらい分かってくんないか?あの男の力量くらい読んでくれ」
「ク、クジ様……」
「朝早くからギョリ様に叩き起こされて向かってみれば、アンタ、“ブルー”の関係者……か?」
「似たようなモノだ。ブルーに至急の用事があって来た。もしもブルーが来れないならば、代理の者でも構わない。この国に取っても必ず訪れる「危機」についての話しだ」
私は目の前に現れた者がこの国の四聖剣の一人だと理解した。目の前の女性から沸き立つ力の波動は、「ハの国」で会ったサッカや、元配下達と似ていたからだ。
「ブルーじゃなくてもいいんなら、この国の女王陛下に会いますかい?この身をわざわざ起こしに来たくらいだから、アンタが城に来る事も予期して用意してるハズだ。その前に……アンタの名前を聞いても?」
「私はブラックだ」
この国の女王の名は確か“ギョリ”と言う名だとオーマから聞いた気がする。少なくとも、この国では女王が「策士」なのだろう。目の前の女性を私に遣わした事から、無駄な戦闘を避け話しを穏便に且つ、有利に進めたい魂胆が見え隠れしているようだ。
「この身の名はクジだ。クジ・ラニモリ。「スの国」で四聖剣をやってる」
私はその名にも聞き覚えがあった。ブルーがオーマに見せたという映像。女王に反旗を翻した四聖剣の名がそれだった筈だ。
「それでは案内してもらおう」
こうして私はクジの案内に拠って、「スの国」女王・ギョリの元へと連れて行かれたのだった。
「話しは粗方、クジから聞きました。この国に訪れる危機……だそうですね?」
「あぁ、必ずこの国を滅ぼし得る危機が訪れる。その為にブルーの協力が必要だ。今はここに来れないのであれば、次に私が来た時までにブルーを説得しておいてもらえると助かる」
「話しが見えません。必ずどんな危機が訪れると言うのです?天災でも起こると言うのですか?そんな事をブラック様は予知し得るとでも?」
「この四つあるニホンに住まう五つの種族の内、既に二つの種族が滅んだ」
「ほう?」
私の言葉に、ギョリの目の色が明らかに変わった。この策士でもそれは予想の斜め上を行く話しだったのだろう。しかし、私が持つ全てのカードを切る事は、心なしか躊躇われた。
「わたくしなら、実り豊かな大地を持つ「ハの国」を真っ先に滅ぼして我が物とし、空を飛ぶアドバンテージにより優越感に浸っている「カの国」を滅亡させますけど?」
「侵略戦争なら定石だろう。戦争に於ける糧食は必須であり、兵站を奪われ兼ねないアドバンテージを許しておく訳にはいかなくなる。概ね正しいと言える。ただ、それは通常の侵略に於ける話し……だ」
「なるほど、北の龍人族と、東の魔人族が滅んだと言う事ですか……」
やはりこの女王・ギョリは食わせ者だ。私がカードを切る事なく、結論を見出して来る。下手な事を言えば、足元を掬われるのは目に見えて分かる。
「まぁ、何があったか詳しくは聞きませんが、通常の侵略ではないのなら蟲族が関わっていると察します。ですが、この国の周りにはわたくしが手懐けた巨大なオリゴチャエタがいます。それを乗り越えてこの国を攻めるとでも?」
「そのオリゴチャエタがどのような蟲族かは知らないが、私やブルーを容易く屠る事が出来るなら、滅ぼされない可能性が数パーセント上がる程度だろう」
「なるほど……ブルーといい、ブラック様といい、わたくしの思念を容易く破りますからね。オリゴチャエタでも容易くはないでしょう。ですが、解せません」
「解せない……とは?」
「この国の砂漠に住まう、わたくしが手懐けたオリゴチャエタは巨体を持つ蟲族。通常の蟲族では歯も立たず将軍ですら磨り潰されるでしょう。しかしそれを倒せる程の強力な蟲族など、わたくしは知り得ません。だから、解せないのです」
「蟲族は王を得た。そして、滅ぼされた龍人の生き残りが蟲族に協力し、新たな蟲族が誕生した。故に如何に巨体だろうとも翼を持ちアドバンテージを有した強力な相手に太刀打ちは無理だろう」
私は少しだけカードを切った。だがそのカードの意味をこの聡い女王は直ぐに見抜いた様子だ。
「あの女狐が蟲族に?……チっ。概ね分かりました、ブラック様。ちなみに蟲族の「王」は、ブルーやブラック様達の仲間……いえ“元”仲間か何かですか?」
「私達がこの世界に来なければ、仲間だった者かも知れない。だが、私自身……その者の存在は、この世界に来てから知った事だ」
やはり小賢しい。少ないカードから蟲族の王が戦隊ヒーローの可能性を見抜いたこの女王、敵としていたなら相応に苦戦を強いられた事だろう。
「彼を知り己を知らば百戦して危うからず」とはよく言ったモノだが、この女王を相手に戦争を吹っ掛けるのであれば、彼女を知ったとしても“百戦”そのものが危ういかも知れない。




