第二十戦闘示唆 交渉と決意
〜ブラックの場合 其の拾伍〜
「レッドはこの世界の事をどれだけ知っている?」
この質問で全てが分かるだろう。しかし私はアテにはしていない。何故なら閉鎖的な「国」の中で、これまた閉鎖的な情報しか無いだろうから……。
「この世界?いや、略称がニホンってコトと、人間が伝説上の生き物で人間みたいな種族がいるコト。あとは虫の化物みたいなのがウヨウヨしてるってコトぐらいだ」
「まぁ、この世界の一般的な常識ってヤツだな。だがレッド、これを見てくれ」
「これは……地図か?って、コレ!?おいおい、嘘だろ冗談だろ?」
私はオーマが持たせてくれた地図を広げ、レッドに見せた訳だが、この反応は当然想定内だ。私でも驚いたのだから、レッドが驚かないとは思っていない。
「ここは私達の住んでいた「日本」なんだ。ただ、一つ違うのは、二十二世紀ではなく、遥か未来……と言う事だ」
「ここが日本?それに未来って……いや、その前になんでブラックがそんな事を知っているんだ?」
当然の反応だ。レッドは面白いように手のひらの上で踊ってくれる。しかしこちらとしては、ここで全てのカードを切るつもりは無い。それにこの手の疑問はいずれゴールドが話すだろうし、余計な手間を掛けられる程、余裕がある訳でもないからだ。
「そして、この「日本」の中に住まう五つの種族の内、既に滅んだ種族がいる事も知っているか?」
「ッ?!」
私の次の問いに反応したのは、レッドじゃなくサッカの方だった。獣人族である彼女の方が、新参のレッドと比べて他種族に対する思い入れがあるのかも知れない。
「滅んだのは、龍人と魔人だ」
「魔人だって?サッカ、前にヌッコを襲ったのって……」
「えぇ、魔人ですわ。ヌッコからの話しだと襲って来た魔人は将軍よりも強かったと聞いておりますわ」
「あれからまだそんなに月日が経ったワケじゃないのに、その魔人が滅んだってのか?——ブラック、その二つを滅ぼしたのは蟲族だって言うのか?」
「レッド様、魔人はともかく龍人は北のニムル・ホルネンに住まう種族ですわ。あの極寒の地に蟲族は進軍出来た事がないハズです。蟲族に因って滅ぼされたと言うのは早計ではありませんこと?」
「確かにサッカ殿の言う通りだ。恐らくだが、龍人はイエローに因って滅ぼされたと考えている。そして、僅かに生き残った龍人が蟲族と手を組み、新たな蟲族を誕生させたのだ。その手に因って魔人は滅んだ」
「待って下さい!蟲族と他種族の間に子供を設ける事は出来ません。この世の理に反します」
このサッカの反応はどこかで見たモノと同じだった。絶対に信じられないと言った視線を私に向けている。私はどこか涙ぐむ思いだった……。
「私が見た新たな蟲族は龍人の翼に尻尾に角。外骨格を纏い腕には鎌が生えていた。まるでカマキリのような鎌だ」
「ブラック、そのカマキリは「マントデア」って言うらしいぜ」
「あり得ないのですわ!龍人は有翼種では……はっ!まさか……そんな、龍公女が蟲族に付いたとでも?」
「龍公女?龍人族の王か?」
「はい。翼を持たぬ龍人族の中で唯一、翼を持っているとされているのが、“雪山の名君”や“聖女”とも名高き龍公女……。どうやって子を成しているのかは分かりませんが、ブラック様が見たと言う蟲族に龍の翼が生えているのなら、その可能性しか……」
私の中でピースがガッチリと嵌まった気がした。恐らくイエローに国民全てを飲み込まれ、自暴自棄になった龍公女とやらに甘言と策を弄してホワイトが協力させているのだろう。
だが、“聖女”とまで言われていた者であれば、協力と言うよりは唆されて利用されている……と言った方が正解に近いかも知れない。
「でも、解せませんわ。蟲族にそこまでの知能や理性は……」
「蟲族は王を持ったのだ。全ての蟲族は王の命令に拠って動いているのだろうな」
「言われてみれば……この「ハの国」を蟲族の群れが襲った時も、今までとは違った違和感がありましたわ」
「それじゃあ決まりだな。ブラック、お前は俺達を巻き込みに来たんだろ?その蟲族の王とやらを倒す為に」
「そうだ。だが、敵は恐ろしく強い。だから私はこれから残りのジャスティスファイブの皆にも会って協力を仰ぐつもりだ」
「なにッ?!ブルーやピンクも来てるのか?それにさっき、龍人を滅ぼしたのはイエローって言ってたよな?アイツがそんな事をするか?」
さっき私が「イエロー」と言った時に、薄っすらと反応していたが、サッカの剣幕に因って話しがすり替わっていた。それを今になって持ち出して来るとは思ってもいなかったが……。
「覚醒」の事をレッドは知らない。だからレッドが知ってるイエローは、「そんな事をするヤツじゃない」と言う言い分なのは分かる。誤魔化すのは中々に骨が折れる……が、サッカの手前、言葉を選ぶ必要がありそうだった。
恐らくレッドの協力を受けるには、サッカを攻略しなければならないだろう。それは彼女がオーマと同じポジションにいるのであれば、避けては通れない道だからだ。
「詳しくは話せないが、イエローは既に確保してある。私にも協力者がいるのでな。そしてこれから「スの国」に向かい、その足で「カの国」に向かうつもりだ」
「そこにブルーとピンクが?」
「あぁ、そうだ。レッドみたいに王になっているか、はたまた客人とされているかは分からんが、二人にも話しをして協力を要請するつもりだ。それでは私はそろそろ発つ。次に来る時までに腹を決めておいて欲しい」
こうして私は「ハの国」から次の「スの国」へと歩を進める事にした。途中に「マの国」があるが、そこには寄らず、最短最速でブルーのいる「スの国」へと向かって行く事にした。
「レッド様、ブラックは恐らく「マの国」の王だったのではありませんこと?」
「俺ですら王になれたんだ。ブラックなら当然そうだったかも知れないな。だがそれなら、ブラックは自分の配下を全て殺された事になる……くそッ」
「レッド様……」
「俺はこの国の皆を守る。ブラック率いる「マの国」でも勝てなかったんなら、この「ハの国」も攻められたら終わりかも知れない。次にブラックが来たら俺は協力するつもりだ」
「畏まりました、レッド様。アテシはレッド様にどこまでも付いて参りますわ」
「俺としては、サッカにはこの国に残って欲しいんだが……。俺がいなくても、エレファとサッカがいればこの国はなんとかなるだろ?」
「イヤで御座いますわ。アテシはレッド様の妻。夫の帰りをただ黙って待っているのはイヤですもの」
「そうか……ありがとう。サッカ……」
ブラックを見送った二人は城壁の上に立ち、ゴールデンアワーに輝く西の空を眺めていた。
もうじきに空は暗くなる頃合いで、夜の帳が顔を覗かせるコトだろう。
ブラックはレッドが予想だにしなかった方法で空を駆けて行った。それは西に向かう流れ星のように今も光り輝いる。
レッドとしてはこれから夜になるので、「せめて明日の朝に発てばどうか?」と提案出来ずにいた事を少しばかり悔やみながら、夕陽の上に輝く流れ星を見送っていた。




