第十九戦闘示唆 邂逅
〜ブラックの場合 其の拾肆〜
「送ってやっても良いが、どうぢゃ?」
「有り難い申し出だが、遠慮させて頂こう。それにイエローが目覚めた時に暴走したら他の国の者達に迷惑が掛かるだろう」
「律儀な奴ぢゃ。まぁ、良い。他の三人を説得して打倒ホワイトを達成するが良いぞ。イエローのコトはワシが面倒を見ておいてやるわい」
私はそうしてゴールドに別れを告げた。しかし徒歩でちんたら進む気は起きなかった事と、空にある「カの国」に行く方法も踏まえて新たな移動方法を模索しつつ先ずは、レッドの元へと向かう事にした。
「着いた……意外と空を飛ぶのはスリリングなモノだったな。だがこれで上手く舵取りが出来れば「カの国」にも到達出来よう。それにしてもここが「ハの国」のジャングルか……このような形でここに来る事になるとは、因果なモノだな」
私は新たな方法を試した結果、空を飛ぶ事に成功した。そして到達した「ハの国」の城門前。門に衛兵はおらず、固く閉ざされている。
どうやって街の中に入ったものかと思案していた訳だが、私が門に近付くと門は勝手に開いてくれた……。
「お待ちしておりましたわ。レッド様よりお通ししろと仰せつかり、お迎えに上がりました。アテシはサッカと申します」
「私が来る事が分かっていたのか?」
「先程、物見より何やら空を飛んでいるモノがあると報告があり、その詳細をレッド様にお伝えしたのですわ。そうしたら、もしも自分と似たような姿をした者であれば通すように……と仰ったので、アテシが物見が見た方角からこの門付近に張っていただけの事ですわ」
私はこのサッカと言う女性の奸智に、オーマを思い出さざるを得なかった。やはり、どこの国にも奸智に長けた者がいるのかも知れない。
蟲族との小競り合いや小規模な戦争のような事が日常茶飯事に起こるこの世界に於いて、軍略に長けた軍師的な者がいても可怪しくは無い。そして軍略に長けた者は先見の明を持っているものだ。
しかしそれなら、私の“元”配下がこの国の四天王の一人と戦闘行為を図った事は先に話すべきか悩ましい所だが……。
「貴方様のお名前を伺っても宜しくて?」
「私はブラックだ」
「では、ブラック様……アテシは貴方様をレッド様にお会いさせる前に訊ねておきたい事がありますの。重ね重ね宜しくて?」
私はサッカが先手を打って来たと思った。先のゲードゥが行った蛮行に対して、非礼を詫びた方がレッドとの会見がすんなりと行くのであれば、そうするべきとも感じていた。
「レッドと会わせる前に聞きたい事?それは一体……?」
「貴方様は記憶がありますの?これの意味……分からなければ「分からない」で構いません。お答え頂く事は可能ですか?」
私は突拍子も無い方向から、全く違う攻撃が飛んで来たような錯覚に陥った。喩えるならば“流れ弾”に当たった気分と言えなくもない。
何故、サッカはそのような事を私に聞いたのか?確かにゴールドは「レッドは互いに記憶を共有していない」と言っていた。
それから考えられる可能性は二つだろう。
一つ目は、レッドが覚醒する事をレッド自身が知らず、理由は分からないがその事をレッドに知られたくない場合
二つ目は、レッドの覚醒方法をサッカだけ、若しくは一部の者だけが知っており、その方法を他の者に知られたくない場合
どちらか一方か、またはその両方である場合が非常に高いだろう。しかし、私はレッドの“セイギ”がどんなモノであるかを知らない。だが、他人を“強化”する能力は同じだろうと推測出来る。
従ってそれを独占したいと考えている可能性……即ち二つ目の可能性が高い……と言ったところか。
私の持つ因子、傲慢の記憶に拠れば、レッドは“強欲”の因子を持っていた筈だ。まぁ、それに応じた“セイギ”がどんなモノか見当もつかないが……。
「レッドは記憶の共有が出来ていない。だから、お互いの事は知り得ない。これで良いか?」
「なるほど、貴方様は記憶の共有が出来ている……と?」
「だが、レッドにそれをさせたいと考えているなら、無理だ。これは……」
「いえ、それだけ聞ければ充分ですわ」
なるほど、サッカは独占したいと考えているようだ。レッドの“トリガー”をサッカは知っている。それがどれほどのアドバンテージになるかこの計算高い女性は分かっているのだろう。
では、私に対しては口止めをしたい……と言ったところかも知れない。
「私はレッドの“セイギ”を知らないが、苦痛ではないのか?」
「苦痛?確かに大き過ぎて苦痛なコトはありますけど、それ以上に気持ち良くって、もっと欲しくなってしまうのですわ。だから独り占めしたくなって当然で御座いましょう?」
うむ、私の“聖技”とは根本からして何かが違う……と言う事だけは分かった気がした。そして、このサッカと言う女性がやはり食わせ者だと言う事も充分に理解出来た。
「久し振りだな、ブラック」
「あぁ、久し振りだ、レッド。それに元気そうで何より」
「まさか、お前までこの世界に来ていたなんてな。ところで、ブラックは今はどこで暮らしているんだ?もし良ければ——」
私はこの男が嫌いでは無い。バカで直ぐに保身に奔ろうとするこの典型的なクズ男が。
レッドはクズ……そんな認識が当時からあったし、嫌気も差していた。戦隊ヒーロー界隈で有名な「レッド喰い」のミーハー女に引っ掛かった時もそうだった。「戦隊ヒーローのリーダーなら異性にモテる」と言うそんな都市伝説とも付かないモノを真に受け、「ファンです」の一言にコロッと鼻の下を伸ばすこの男が当時は嫌いだった。
だが、コイツの本性がそこに無い事を知った時に、嫌いでは無くなった。レッドは単純に戦隊ヒーローに憧れていただけのバカだと悟ったからだ。
だからこそ「レッド喰い」の件はモテた事のない男が、ハニートラップに引っ掛かっただけの事で、憐れな小動物を見たのだと思ったらそれまでの嫌気が薄れて行ったのを覚えている。
まぁ、そんなこんなでこの男は悪い奴じゃない。バカでただの小物に間違いはないが、守りたいモノの為なら必死に足掻く。
だからこそ、これから迫るホワイトと言う脅威に対しては必要不可欠だと感じていた。




