第十六戦闘示唆 ニムル・ホルネン
〜ブラックの場合 其の拾壱〜
「ここは……どこだ?これは……雪か?まさか、ニムル・ホルネンなのか……」
かさっ
「地図……?あの時、オーマが忍ばせてくれてたのか。私を逃がした時に……くそッ!」
私は辺り一面の銀世界にいた。オーマがホワイトから私を逃がす為に使った魔術のせいだろう。
更に私の手には四王剣の三人が描いた地図がある。これがあれば「マの国」に戻る道順が掴める……が、地図を合わせてみて分かった事が一つあった。
一つの地図だけでは不可解な類似点があるだけだったが、三枚の地図……いや、コーが描いたのは画伯過ぎてあまり役に立たないが……それらを合わせる事で浮かび上がった、この世界の真相は驚愕の事実でしかなかった。
「だが、今は地図に描かれている目標物を見付ける事が先決だな。そうでなければ「マの国」に帰る事も出来やしない」
斯くして私は目印になる物を探し歩を進めて行く。幸いな事に雪は降っていない事から遠くまでの見通しは良い。太陽の位置から見極めて見当外れな方角にさえ行かなければ、いずれ目標物は見付けられると確信していた。
全てはハージュンが描いた正確な地図の賜と言えるだろう。
「あった……。あれが「ユの国」の城だろう。あそこまで辿り着けば、地図を頼りに「マの国」に戻れる筈……。だが、その前にやっておく事があるな」
私は北の大地を一昼夜進んだ辺りで、遠くに聳える城を見付ける事が出来ていた。そこを起点にすれば「マの国」に帰る事が出来るだろう。だがハージュンが言っていた事が本当だったのかを確かめる必要があるのは熟知している事から、「マの国」に戻るのはそれが済んでからになる。
あんな別れ方をしたオーマが心配で逸る気持ちに嘘偽りは無いが、焦って戻った所で僅かな希望が絶望に変わるのは避けられないだろう。
それでも奇跡を信じていたい気持ちは残っているが、どうにもならない葛藤の中で情報を冷静に得なければ、これから先、最大の脅威であろう蟲族との戦闘を有利に進めなくなる。
だからこの「ユの国」で少しでも蟲族と龍人の関係性を見付け、「ここで何が起こったのか?」の究明は最優先だと自分自身に言い聞かせたのだ。
ざっざっ
「確かに街の中に人の気配は無い。遺体も血痕の一つも無い。これじゃあ、まるで夜逃げだな」
私は街中の捜索をしていたが、生活感の残された街で誰一人として発見する事は叶わなかった。何らかの戦闘行為が行われ、龍人が鏖になったのなら、残っていなければならないモノが一つも無い。
それは明らかに異常と言える光景だった。
「城の中に何か手掛かりが残っていればいいのだが……な」
私は街中での捜索を諦めると、城に向けて歩を進めて行く。非戦闘員が住む街と違い、城であれば何かしらの痕跡があるだろう。私は少しばかりの期待を持って誰もいない城へと侵入って行った。
「散乱した武器、所々にある焦げ目……明らかに戦闘痕だが、やはり無ければならないモノが一つも無い。ん?これは足跡……か?この形は龍人のモノではないな……」
前に私は、オーマに対して「何故、服を着ないのか?」と問いを投げた事があった。その解答は「服ってなんですか?」だったのだ。
この世界に住む種族に、服や靴と言った概念が存在していない事の証明とも言える解答だった訳だが、私が今見詰める足跡は明らかに靴の形をしている。
「これは、ジャスティスファイブのブーツ跡か。それならば、ここにいたのは、イエローかホワイトのどちらかと言う事になる。しかし、どちらがいたとしても殺戮の現場にあるべき痕跡が一つも無い事なんて、あり得るのか?」
私はブーツ跡が向かった方へと更に足を進めて行った。ここにいたのがホワイトならば、遭遇する可能性は無いと言い切れるだろう。もしもイエローならば遭遇する可能性は高いかも知れない。
だが、イエローならば敵対する必要は無いし、味方に出来れば戦力になる。
「なるほど……城からの脱出路がこんな所にあった訳か。それならば、龍人族の内、王やその側近は逃げ出した可能性が高い。結論にはまだ早いが、国を崩壊させたのはイエローの可能性が高くなったな」
私は足跡を追った結果、開かれたままの脱出口を見付ける事が出来た。そこに入り狭い通路を抜けた先は外に繋がっていたのだ。雪の上には複数の足跡がごく僅かに残っており、それから方向にアタリを付けて捜索にあたった訳だが……。
しかし、この「ユの国」が滅んでから暫く時間が経っているだろう。城の中と違い外に何か残されている可能性は低いとしか言いようが無い。
一方でホワイトはオーマの事を“サンプル”と言っていた。それならば龍人も“サンプル”として連れ帰った可能性が高い。だが「マの国」に攻め込んで来た時、戦闘痕を残さずに闘っていなかった事から、ホワイトが「ユの国」を滅亡させた可能性はゼロに近いだろう。
「ッ?!これは……首……か。この切り口はホワイトのレーザーか。ここまで続く足跡は龍人と思われるモノが四つあった。そしてここに二つの首。龍人の生き残りは今も尚、二人いる可能性が高い。その内のどちらか、もしくはその両方が蟲族を率いるホワイトと手を組んだ……と言うのが結論か」
がささッ
「誰かいる?龍人の生き残り……か?」
「ハラヘッタアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「まさか、イエロー……なのか?」
私は目を疑った。それは朽ちかけた龍人の首を見付けたからでは無い。突如として繁みから現れたイエローが、私の知るイエローとは違っていたからだ。
いや、見た目はあの頃と何も変わらない。だが、その気配がイエローとは明らかに違っている。
そう、これは私が私でなくなった時のような気配と言えるだろう。
「ハラヘッタアァァァァァァァァァッ!」
「イエロー待て、私だッ!オナカブラックだ」
がしッ
「やはりイエローは覚醒している。それも自我を失ったまま……。——そうかッ!龍人族は皆、イエローに食べられたと言う事か?!」
私はここでイエローに会った事で全てのピースが繋がり、一つの絵が完成した思いだった。だが一方でイエローを戦力として仲間にする計算は瓦解した。
自我を失った状態で覚醒しているイエローは、どう見ても暴食の化身であり、会話が成立する状態には思えない。
完全に力比べの状態で均衡していながらも、私の事を食べようと口を広げて首を振り、頭を迫り出して来ている様を見て会話が成立すると思える筈も無いだろう。
「バッカモオォォォォォォォォォンッ!!何をやっとるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ひゅるるるるるるるる
どごおぉぉぉぉぉぉぉんッ
それは突然だった。
私とイエローの力比べの均衡を破ったのは、どこからともなく遠くから聞こえて来た途轍もない大声と、何かの風切り音。
そしてそれは私と力比べをしているイエローとの間に着弾した。
私は咄嗟にイエローの手を振り解き、その場から距離を取ったが、イエローは空から降って来た何かの着弾に恐らく巻き込まれた事だろう。
鎧があるから死ぬ程のダメージでは無いだろうが、付近に積もっていた雪が全て吹き飛び大地を少しばかり陥没させる程の威力があったようだから、如何に鎧を着ていたとしてもノーダメージとは思えない。
私はそんな奇怪な状況に突如として陥った訳が、もうここまで来たら一々驚いても詮無き事としか言いようが無かったのは、紛う事無き事実である。




