第十四戦闘示唆 娯楽
〜ブラックの場合 其の玖〜
「ほう?四聖剣の内乱……とな?」
「はい。下位の四聖剣が上位で女王のギョリと言う者に挑んだようです」
「「スの国」は「マの国」とは違い、四人の中から最強の者が王となる訳か……」
「そのようです。トップの入れ替えに応じ国の在り方が変わってしまう恐れがありますので、あまり推奨された王の選定とは思えませんが……」
ブラックは少しばかり耳が痛い内容だった。そもそも、この「マの国」とて王が変わり、国の在り方が大分変わっている。形はどうあれ「最強の者が王になる」それは、この国のとて変わりないからだ。
「して、内乱はどうなった?下位の者の下克上は成ったのか?」
「そうですね……どちらかと言うと、下克上も王座の防衛も成立しなかった……と言うのが正解かもしれません」
「それは良く分からない状況のようだな……」
〜ブルーの場合 其の“ Ⅷ ”〜
「ギョリを打ち倒し、この身がブルー様を解き放つッ!覚悟おぉぉぉぉぉぉッ」
「ブルー……様?やれやれ、クジを取り込んだ……と。ブルーめ……煩わしいですね」
ギンッ
「か……はッ。だが、この身にはもう効かぬッ!ギョリィィィィィィィィッ!」
「なッ?!わたくしの視線の思念を?」
以前までの二人なら、ギョリの圧勝で終わっていた闘いだが、今となっては違う。拠って、ギョリの息を止める視線であったとしても、一瞬の足止め程度にしか効果は無かった。
「どおりゃぁぁぁぁぁぁぁッ」
どごッ
「なッ!?何故、ギョリがこの身の攻撃を受けられる?そこまでの防御力は……」
「わたくしも日がな一日、遊んでいる訳ではありません。女王として、砂漠の支配者として、日々研鑽を積んでいるのです。ですが、わたくしに一撃を入れた以上、もうお遊びに付き合ってはあげません」
「へぇ……なかなかやるじゃん、あの二人。キミもそう思うでしょ?やっぱり僕の最高傑作達だ。手に汗握る闘いってこの事だよね?そう思わない?」
「わたしとしては、その武器からどうやって戦闘風景を投影しているのかの方がよっぽど気になりますけど?」
ブルーは自分の武器である大ハンマーを呼び出すと、持ち手を床に突き刺し、鍋の部分に戦闘風景を映し出していた。
流石のオーマでも、その様子には驚かされた。
「くっ……はあぁぁぁぁはあぁッ!まだだッ!ブルー様の為にも負けられないんだあぁぁぁぁッ」
「またしても……。ブルーめ、わたくしにはあんな事を言ってた割に、クジを唆して刺客として差し向けてくるあたり、よっぽどお仕置きが必要みたいですね」
「あんな事?アナタはどんな策を弄したのです?」
「いやぁ、ちょっと二人が仲良くなればいいなって思っただけだよ。二人って普段はいがみ合ってるのに、本質の部分では同じで、仲良くなるのが気恥ずかしいのかなって……」
「この状況……どう贔屓目に見ても、仲良い雰囲気がありませんけど?」
「本気で殴り合えば、お互いの鬱憤も晴れて仲良くなれるモノじゃない?」
「えっと、これって……死人が出る状況じゃないですか?」
二人の呑気な会話は続くが、大ハンマーが投影している映像には、既にボロボロの二人が映し出されている。
「昭和」と呼ばれる時代の「スポ魂」と呼ばれる漫画に於いて、川原で主人公とライバルが決闘し、仲良くなる……的な妄想と幻想をブルーが抱いていたかは分からないが、オーマからしたら「死人が出そう」という感想を持つのも仕方が無いと言えば仕方が無いだろう。
「まったく、クジ。いいようにブルーに踊らされていて、恥ずかしいと思いませんか?」
「ブルー様を愚弄にするなッ!ブルー様はギョリのせいで不自由な暮らしをされている。この身はブルー様を解放する為に強くなった」
「ブルーは、離宮の暮らしに満足していますよ?それに、本人が望んで離宮から出ようとしませんが、クジはそれを分かって言ってるのですか?」
「なっ?!」
「隙アリですねッ」
ギンッ
「くっ……力が……抜け……」
「まだまだ、これからです。もっといきますよッ」
ギギンッ
「ぐっ」
クジの一瞬の隙を突いたギョリの攻撃に因って、クジの命運は尽きようとしていた。しかしここで、ギョリは攻撃の手を止めたのである。
「この身の敗北だ。トドメを刺せ、ギョリ……」
「トドメ?ブルーに踊らされた憐れなクジを殺す必要は無いでしょう?」
「この身は、ブルー様に踊らされてなぞ……」
「全く、こんな力も持っていたなんて、ブルーは底が知れない、痴れ者ですね……。ブルー、どこかで見ているのでしょう?クジを早く元に戻しなさい。じゃないと、ご飯抜きにしますよッ」
「ご飯抜きになるらしいですよ?」
「それは困るなぁ。仕方無いから、クジの仕掛けの一つは解いてあげるかぁ……」
「ホントにいい根性しているんですね」
「だから、褒められると照れちゃうってば」
ぱちんッ
ブルーは指を鳴らした。それだけだった。だが、大ハンマーに映し出されている映像は、その指ぱっちんの効果を投影していた。
オーマとしては、ブルーの中にも、ブラック同様に得体の知れないナニカを感じていたと言えるだろう。
「うっ……うぅ……あっ!?この身は一体……ハッ!ギョリ様……この身はなんて事を……」
「えぇ、大丈夫です。全てはブルーのせいです。クジが気に病む事はありません」
「ギョリ様は、この身を疎まれていたのでは?」
「クジの事を疎んでどうするのですか?クジはわたくしに次ぐ実力の持ち主、これからも頼りにしてます」
「ギョリ様……」
「そう言えば、先程までの記憶はありますか?」
「はい、あります。いつの日からか、ブルーの言葉を信じ、ギョリ様を憎むようになっており……。ですが、この身は、この身は……とんでもない事を……愛しているギョリ様にこのように手を上げるなんて……」
「へっ?クジ……今……なんと?」
「この身はギョリ様を「愛している」と本心を伝えたまでですが?この身の愛を受け入れて下さい、ギョリ様ッ!」
だきっ
「ブルーめ……まだ、何かを企みやがっていたのですね」
大柄のクジに抱き付かれたギョリは、藻掻いていた。だが、その顔は別に大して嫌そうには映っていなかった。
「あっははは。たっのしー!いやぁ、ヒキニート生活はそれはそれでいいんだけど、娯楽が無いのは詰まらなくって。だから、二人を僕のオモチャにして、“娯楽”になってもらおうと思ったんだ。観客が僕一人だけでも詰まらないから、キミが来てくれて良かった、ありがとね。あっでもでも、そろそろギョリ達が来るから、キミは帰りなよ」
「えぇ、アナタの今後に幸ある事を祈っておきます(いい根性してるから、無いとは思いますが……)」
「うん、それも褒め言葉として受け取っておくよ。ワザと聞こえるように心の中で呟くなんて、キミも大概だと思うけどね。あっ!そうだ!スペルプライに宜しくって伝えておいてね」
「スペルプライ?なんの事です?」
「いいからいいから、ちゃんとありのまま、ご主人様に伝えてくれれば分かるから大丈夫だよ」
斯くしてオーマは離宮を後にした。確かにブルーの言う通りここに向かって急速に近付いてくる者の存在を察知していたからだが、去り際にブルーが紡いだ言葉の意味は分からなかった。
「ピグリスロウめ……自分はブルーではないと言いたいのか」
「魔王陛下ッ、大変だッ!」
オーマが伝えた報告に対して、ブラックがほくそ笑んだ丁度その時、謁見の間に飛び込んで来たのは、血相を変えたゲードゥだった。




