第十二戦闘示唆 メモハモホワイト
〜ホワイトの場合〜
「それではここで、ごゆるりとおくつろぎ下さい。必要なモノがあっても言葉が通じませんので、持って来てもらうのは難しいと思いますが、三食は保証致します」
北の大地から飛び去り、連れて来られた城の中で与えられた部屋に窓は無く、あるのは古びたベッドと机が一つ。
灯りはロウソクが燃えているだけの粗末さで、扉には外から覗ける小窓が取り付けられた監獄のような……部屋とはとても呼べるモノではなかった。
「アンとは同室ではないのでありんすか?」
「小さきナイトはまだ卵を産むことが出来無いでしょう?卵を産めるようになったら、ここにお連れしますよ」
「そんな……だけど、アンの命の保証はしてくれるのでありんすよね?」
「小さきナイトが反抗しなければ、命を害する事はございません。蟲族達にも決して手を出さないように厳命してありますので、問題は無いかと……それでは、ヤツガレはこれにて……。あぁ、そうだ。無事に産卵し終えたらそこに置いてあるチャイムでお知らせ下さい。その度に配下を遣わし卵を孵化させ、大事に育てますから」
そう言うとホワイトは部屋を出て行った。龍公女としてはホワイトに縋る以外、何も出来ないのは百も承知だ。だからこの状況も甘んじて受け入れるしか無い。
アンの事が多少気掛かりではあったが、今は一刻も早く国の再興を目指したかった。
その為にはホワイトが望む産卵の回数を熟さなければならない。
龍公女は一日の産卵で五個程度の卵を産む事が出来る。産まれた卵はちゃんとした環境であれば、一日足らずで孵化する。
孵化した後、二本足で歩けるくらいに成長するまでに数ヶ月は要し、一人前に闘える戦士として成長するには優に年単位が掛かる。
そこから戦闘経験を繰り返し行う事で熟練の猛者へと成長して行く事になる。そんな龍人族は早熟でありながら、その寿命は長い。それ故に経験を積み重ねる事で同じ轍を踏む事無く、北の大地に建国する事が出来たと言えよう。
——その日から龍公女は寝る間も惜しんで産卵に励み、その卵は次々と蟲族に託されたのである。
「全ては国の再建の為に」と、うわ言のように口から漏らし必死に産卵している龍公女に、かつての聖女としての面影など失くなっていた——
「キキキッ、キキシャキシャ」
「全く何を言っているのか分かりませんね。それにしても、これはこれで中々に素晴らしい光景ですね。あぁ、本当に素晴らしいです。龍人から産まれ落ちる蟲族の荒々しい力。これで蟲族は一段階上に上がり、更にヤツガレの力でもう一段階……ふふふ。全ては未来永劫恒久的な発展の為にッ!」
全てはホワイトの企みであったと言える。イエローを龍人族の街にけし掛けた事こそホワイトの行いでは無いが、その後の全てはホワイトの計画だった。
ホワイトは龍公女を利用し、蟲族の力の底上げを図っていたのである。
龍公女が産み落とし無事に孵化した龍人の幼体は、蟲族の苗床にされ、その苗床からは新たに五匹の蟲族が産み落とされた。その蟲族の背には、龍人の中では龍公女にしか存在しない、龍公女と同じ龍の翼が生えている。
足には鋭い鉤爪を有し、頭には角が、お尻には尻尾も生えている。そして身体全体は外骨格で覆われ、検体となった蟲族の特徴も色濃く受け継がれている……そんな新たな蟲族の誕生に、ホワイトの心は踊っていた。
蟲族はその殆どが雌雄同体であるが、他のどの種族とも生殖行為が成功しない。だがその反面、他の種族を捕食した後で産み落とされた個体は将軍と呼ばれる特別な個体となる。
——その事実を知ったからこそホワイトは、「捕食した種族の因子を有する将軍であれば、生殖行為が成功し新たな力を持つ種族が誕生するのではないか?」と言う仮説を立てたのである——
最初、龍公女が産み落とした卵から孵った幼体は全て、将軍を大量生産する為の苗床にされた。そして実験は次の段階に移る。
こうして生産された中で特に優秀な一匹の将軍に対し、龍公女の侍女であるアンを差し出したのである。アンは逃げられないように手足を切り落とされ、自害されないように猿ぐつわを噛まされた上で将軍との交尾を強要された。
そして、交尾の翌日に将軍とアンとの間に新たな種族が誕生し、誕生した赤子はアンの腹を食い破って産まれ落ちたのである。その数五匹。
新たな種族の誕生に胸を踊らせたホワイトは、龍公女が産み落とした卵から今度は新種族の大量生産を画策して行った。
将軍とアンとの間に産まれた五匹の新たな蟲族は、シン蟲族と名付けられホワイトはそれらを検体とした。
今度はその検体と龍公女の卵を掛け合わせる事を企てたのである。
結果として一つの卵から、五匹のシン蟲族が誕生した。龍公女が一日に産める卵は最大で五個。この事から戦力は一日に二十五匹増える事になる。
そして、その新たな二十五匹に対してホワイトは自身の“製技”を用いて強化して行く。
しかしホワイトはこれだけで満足していなかった。拠って、使い捨て出来る旧戦力とも言える古来の蟲族を大量に動員し、獣人と鳥人のサンプル確保に動いたのである。
しかし、そのサンプル取得の為の動員は尽く失敗に終わった。そう、獣人はレッド、鳥人はピンクの存在に拠って邪魔されたのである。
「新たなサンプルは確保出来ませんでしたか……全くもって腹立たしいですね。そして、それを先導していたのは、レッドとピンク……あぁ、腹立たしい。いや、待てよ……?イエローに次いで、レッドとピンクがいたと言う事は、ブルーやブラックもこの時代に?突然いなくなったと思ったら、ここに全員が来ていたと言う事なのですね?」
「キキキキキ、キシャキシャ」
すーーー
ぼとッ
「うるさいです、腹立たしいです。人が考え事をしている時に横から何を言ってるか意味の分からない言葉を話し掛けるんじゃないッ!……あぁ、殺ってしまいました、八つ当たりはいけませんねぇ。それにしても、そうだとするならば、アイツらに報復する絶好の機会が訪れたと言う事ですね……。いいでしょう、未来永劫恒久的な発展の礎の為にも、人柱は必要ですからね。ふふふふふ、ふはははははッ」
ホワイトの眼は怪しく輝いていた。それは偏に「報復」と言う怨嗟渦巻く感情に拠るモノだと断言出来る。
だが、何故にジャスティスファイブの五人がその憂き目に遭わなければならないかは、今は知る必要が無い。




