第十一戦闘示唆 亡国の女王
〜イエローの場合 其の肆〜
「ひぃぃッ。そ……その顔……その姿……あの化け物の仲間でありんすか?」
「化け物の仲間め、龍公女様まで喰らうつもりかッ!絶対に龍公女様を殺らせはしないッ。その命、貰い受け——」
すーーー
ぼとッ
ばたッ
「イヤァァァァァァァァッ!!」
「イエローと一緒にするなんて、全く腹立たしい。死んで当然の暴言ですね」
「龍公女様、この場は自分が時間を稼ぎます。アンよ、龍公女様をお連れして早く逃げるのだ」
「逃がすと思いますか?それにアナタ程度が太刀打出来ると思っている事が腹立たしい」
すーーー
ぼとッ
ばたッ
「イイイ……イヤァァァァァァァッ!!」
龍公女の前に突如として現れた闖入者は、護衛として龍公女に付いて来た残りの四剣天の二人に対して、何かをさせる事を是としなかった。
拠って闖入者が手を水平にゆっくりと薙ぐだけで、四剣天の頭は胴体と泣き別れ、崩れ落ちたのである。
龍公女は目の前でむざむざと惨劇を見せ付けられる事になり、気を失いはしなかったが、腰が砕けてその場に倒れ込み恐怖の余りに立ち上がる事さえ出来なくなっていた。
「これでお邪魔虫はいなくなりました。ゆっくりと話しが出来そうですので、嬉しい限りです」
ばッ
「龍公女様にそれ以上、一歩でも近寄らないで下さいッ。話しをするだけなら、そこからでも充分な筈ですッ」
「アン……やめ……て……アンまで殺されてしまう……」
「ヤツガレは殺人狂ではありません。ただ、少しばかり腹立たしい事が嫌いなだけです。それにこんな少女が立派なナイトを演じているんです。称賛に値しますので、従って上げましょう」
龍公女に対して近付こうとする闖入者とのその間に割って入ったのは、両手を広げて大の字を描いたアンだった。
一方の闖入者はアンの提案を受け入れ、それ以上龍公女に対して近付こうとはせず、惨劇の舞台は一旦幕を降ろす格好になったと言える。
「ヤツガレは、メモハモホワイトと申します。ホワイトと呼んでくれて構いませんよ?そして……ヤツガレは慈悲深いので国を失い、民を失った龍公女様に手を差し伸べる為にやって来たのです」
「ホワイト?あの化け物の仲間ではないのですか?」
「ああ、小さきナイト。ヤツガレをイエローと一緒にするなんて腹立たしく思います。次は無いと思って下さいね。これは忠告ですよ?」
「そ……その、ホワイト殿が……どんな手助けをしてくれると言うのでありんすか?あの化け物を葬り、皆の仇を討ってくれるとでも?」
闖入者はホワイトと名乗った。確かにその要望は鎧を身に纏った戦隊ヒーローそのものと言えるだろう。
だがこの世界に住まう者達が、そんなモノを知っている訳が無い。
「えぇ、それも一興ですね。望むなら手助けする事はやぶさかではありません。それに、国の再興を願うならそれも叶えて差し上げましょう」
「龍公女様、話しが美味すぎると思いますッ。あまり信用なされては、イッ……えっ!?アンの……腕……が……。キャアァァァァァァァァッ」
ぼとッ
「あぁ、憐れな小さきナイト……余計な口を挟むのは腹立たしいですよ?今回は腕の一本で収めてあげますが、次は何も言えないようにしますからね?」
ぎりッ
「——このホワイトの不興を買えば命が失くなる——」龍公女はそう判断せざるを得なかった。自分に残されたのはもう、侍女のアン一人だけ。そのアンを龍公女は失いたくはなかった。
斯くしてアンに余計な事を言わせれば「次は無い」と悟ったからこそ、龍公女は一人で交渉に臨む決意をしたのである。
だがいくら聖女と称えられようとも既に亡国の女王に違いはなく、差し出せるモノがなければ交渉の余地が無いのは事実としか言えなかった。
「見返りは……何を求めるのでありんすか?この身体を差し出し、ホワイト殿に弄ばせれば満足して貰えるのでありんすか?——もう……国も民も残されてはいない。差し出せるのはこの身体一つしか……くぅっ……」
「ヤツガレは貴女の身体に興味はありません。そうですね、無償の奉仕活動とでも思って下さいませんか?安心安全な国で貴女を保護します。貴女はそこで卵を産んでくれればいいのです」
「卵……単為生殖で個体を増やせ……と言うのでありんすか?それが目的でありんすか?」
「はて?何を言ってるのですか?卵を孵し、育った折にその者達は再興させた次代の国民になるだけですよ?」
「その話しを、本当に真に受けていいのでありんすか?」
「龍公女様ッ!」
「アンは黙ってるでありんすッ!」
「ッ?!」
「お優しい事で。小さきナイトは命拾いしましたね」
ホワイトの提案、それが本当の事なら龍公女としては喉から手が出る程に掴みたいモノだった。
龍人族は有性生殖であれば誰でも子孫を増やす事が出来る反面、一部の力ある者達は単為生殖=産卵でも子孫を増やす事が出来る。
単為生殖で産まれた子供は母親の能力を受け継ぐ反面、女性しか誕生しないが、残された龍人は龍公女とアンの二人だけ。現状では同一種族での有性生殖は出来無い。
しかし単為生殖で産まれた個体では無い場合、一生に一度だけ性別を転換する事が出来る。アンは有性生殖で産まれた個体だ。
要するにアンが生きていれば再び有性生殖で国民を増やせる事に繋がるのである。
「分かり……ました。ホワイト殿に保護を求めるでありんす」
「ホッとしました。これで肩の荷が下りましたね。それではこちらにどうぞ」
「ホワイト殿、アンは……アンはどうなるのでありんすか?一緒に保護して貰えるのでありんしょうな?」
「アン?あぁ、小さきナイトですか……本人が望むなら構いませんよ?さぁ、小さきナイト……貴女はどうしますか?」
「アンは……龍公女様の侍女です。拒まれても絶対にお供しますッ!」
「宜しい。それでは小さきナイトもお客様として、もてなしましょう」
龍公女の表情はその言葉で晴れて行った。アンが生存していれば、それだけで望みが繋がるからだ。
しかしこの直後……二人は驚愕の事態を経験する事になる。
ザッザッ
「ひぃッ!蟲族……なんで、ニムル・ホルネンの大地に蟲族が……?ホワイト殿、その蟲族を早く討伐して下さりんせんか」
「何を言ってるんです?この者達はヤツガレの配下。貴女達二人を守る護衛であり、貴女方を運んでくれる者達ですよ?まぁ、言葉は通じませんが、敵意も害意もありませんから安心して下さい」
「蟲族が配下……?何故、蟲族が人に従っているのでありんすか?」
「いやぁ、手懐けるのには苦労しましたよ?最初はヤツガレに対しても襲って来ましたから……。でも根気良く説得したら懐いてくれました。それでヤツガレは今では蟲族の王になってましてね、安心安全な国造りをして、未来永劫に続く恒久的な繁栄を目指しています」
龍公女はホワイトの話した言葉が理解し難かった。蟲族は全ての種族の敵であり、許容出来る存在では無い。
だが一方でその事は大いなる期待へと繋がった。全種族の敵を纏め上げるホワイトと有効な関係を築きさえすれば、龍人の国を再興した折に蟲族の脅威に晒される事が無いと感じたからだった。
龍公女とアンはあれだけ忌み嫌っていた蟲族の背に乗り、先導するホワイトの背を見詰めていた。しかし、二人の考えている事は真逆を向いていた……と言うのは言わなくてもその二人の表情が物語っていた事実である。




