第九戦闘示唆 イエロー死す
〜イエローの場合 其の弐〜
「ほう?生き残りがいたか?この街に住む者は全員殺されたと思ったのだがな?」
「キサマ……バロン男爵……か?」
「ほう?我が名を知っているのか?」
「お前達、アクトウダンがこの街の人を……?」
「なぁに、逃げたいヤツらは逃がしてやった。前以て警告はしたんだぜ?それでもこの街に残ってたヤツらは命が要らないってコトだろ?」
「まさかッ!?この街を国から見捨てさせた張本人は、アクトウダンだったのか?」
「何を勘違いしている?アクトウダンは悪の組織だ。活動拠点は必要だろ?だから資金を投入して活動拠点を確保しただけだ。一般人が多いと面倒臭いと上には言ったんだがな……」
おいどんは怒りに燃えていた。アクトウダンがこの街に火を放ち、なっちゃんの命を奪ったと思ったからだ。
いや、待てよ……何かが可怪しい。「街の人は殺された」とバロン男爵は言っていた。アクトウダンが殺したの間違いじゃないのか?
アクトウダンがやってないなら、一体誰が?
「だが……なっちゃんの命を奪ったのは、キサマ達だッ!アクトウダンッ!」
「なっちゃん?あぁ、夏蜜も死んだか……。まぁそうなるだろうな。ダチェス女公も悲しまれる……」
待て待て待て、話しが見えない。何故殺した人を憐れむ?アクトウダンは一体何をしたんだ?アクトウダンが街に火を放ったのではないなら、誰が街を燃やした?
だが……ダチェス女公?そうか……夏蜜は……なっちゃんは……。おいどんが世話になっていた顔見知りは……。
「ハッ!そうか……そうだったのか……」
全てが繋がった。これは、国からの報復だったんだ……。日本がアクトウダンを排除しようとした末路だったんだ……。
「まぁ、この拠点は終わりだ。大量の資金を投入したのに計画がパーだ。しかし自分達が見捨てた街にここまでやるかね?今はもう無くなっちまった、ジャスティスファイブと同じくらいエゲツねぇじゃねぇか。やっぱり大元が同じなら……」
ぎりッ
「お前達が、この街にこんな事をさせたんだッ。お前達がこの街を活動拠点にしようなんて思わなければ、なっちゃんは死なずに済んだんだッ」
「夏蜜はアクトウダンの娘。いずれは手術を受け、組織の幹部になる事が約束されていた。今、国から殺されようと、後で戦隊ヒーローに殺されようと何も変わらない。必ず誰かに殺されるのが運命ってヤツだ」
「なっちゃんはまだ小学生だった。人生を全てアクトウダンに捧げる以外の選択肢もあったハズだッ!」
「ダチェス女公の娘にそんな選択肢があるハズもない」
やっぱり、おいどんは凄い勘違いをしていたんだ。アクトウダンの幹部であるダチェス女公を、昔ながらの顔見知りと勘違いしていたんだから……。
でも何故だ?何故、アクトウダンの幹部を顔見知りと勘違いした?それに、何故ダチェス女公も、おいどんの事を顔見知りだと思ってくれたんだ?
「夏蜜の遺骸は返してもらう。さぁ、渡してもらおうか?」
「断る……と言ったら?」
「力ずくで奪い、ダチェス女公の元に返すだけだッ」
鎧を着ていないおいどんは、戦隊ヒーローじゃない、ただの一般人。一方のバロン男爵は改造手術の末にアクトウダンの幹部怪人になった男。力の差は歴然だ。勝てる気もしない。
でも、なっちゃんを渡したくなかった。自分の手で埋葬してあげたかった。
こんなにも幸せそうな顔で眠りについたなっちゃんを、アクトウダンの元に返したくなかった。国も戦隊ヒーローも、悪の組織もそして人間も……本当に皆が自分勝手過ぎる。
そのせいで傷付き、命を失ったのだとしたら遣る瀬無いし、許したくなんて無い。どこに向けていいか分からない怒りで腸が煮えくり返り、自分が自分じゃなくなりそうだった。
こうしておいどんは闘う決意をし、そして呆気無く殺された。
「じゃあな。夏蜜はちゃんと返しておくからな。そこで国に殺された憐れな一般人を装って、お前は惨めにそこで死んでてくれ。あばよッ」
「おいどんは……無力だ……。もう、何も……信じられ……ない」
おいどんは土手っ腹にバロン男爵の一撃に因って大穴を開けられた。これは見るからに完全に致命傷。助かる見込みが無い事はよく分かっていた。鎧を着ていればこんな事にはならなかっただろう。
でも悔いは無かった。
不意にバロン男爵が最後に言った「一般人」って言葉が、重くのし掛かって来ていた。おいどんの体重は重い。それは“タベスギイエロー”の名前の由来にもなったくらいだ。でもそれ以上にバロン男爵の言葉は重かった。
そう言えばタベスギイエローやってた時も、スポンサーから貰った給料は殆どが食費に消えて行ったっけ……。
そんな事を思い出す内に、過去の記憶が次々に頭を過ぎって行った。そして泡沫の夢のように思い出が湧き起こり煮え滾る度に、身の内からは様々なモノが流れ出て、横たわっている大地にそれらが染み込んで行く。
「はは……はっ。要するに、腹が減ったら、戦に敗けるってコトだな……」
おいどんは最後に良く分からない事を呟いていたと思う。それでも、どうしようもない程にお腹が空いていた——
こうしてイエローは、まだ燃え盛り赤々と夜空を照らす街の中で静かに息を引き取った。
東の空は夜の帳が悲しみに暮れる様相すら見せずに、オレンジに染まりつつある。直に日の出の時間なのだろう。
街を今もなお燃やし続けている炎はいつまで経っても消える事は無く、東のオレンジに対抗するかのように荘厳な佇まいで睨みを利かせているようだ。
燃えるモノが尽きた時に火は消える。それは当然の理であって、違える事は出来無い摂理。
しかし一方で、魂を燃やした炎は燃え尽きる事無く伝播し、過大な連鎖を以って全てを包み込み、包んだ全てを焦がすべく大火を模して行くのもまた真理。
矛盾する摂理と真理が交錯した時に、人知れず朽ち果てようとする肉体に光が射して行ったのである。




