第七戦闘示唆 再建に至る道
〜ブラックの場合 其の漆〜
「くっあぁぁぁぁぁぁぁぁッ」
「あね……き?——ッ?!姉貴ッ!姉貴が燃えて……なんで……」
ぎりッ
「よくも……よくも姉貴をッ!キサマッ、キサマだけは絶対に許すモノかッ!」
だっ
「そう急くな。貴様にも私の“聖技”をくれてやる」
ぼっ
「なっ?!ウチの身体……が!?ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ、熱い熱い熱いッ痛い痛い痛いッ。うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」
一足先に“聖技”を浴びたハージュンと、一部始終を知らずその叫び声で意識を取り戻したゲードゥ。
ゲードゥは燃え盛る姉の姿を見て逆上し、ブラック目掛けて疾走った訳だが、一歩届かず自身もまた炎に包まれたのだった。
「それにしても、いつ見ても目を背けたくなる光景ですね。まぁ、わたしとしては、あなたに反旗を翻す者がいくら焼かれようとも構いませんが……」
「その言い方……やはり、私のこれからの計画に対しては反対か?」
「いえ、反対ではございません。ただ……全ての者達が生き残る保証はありません。それだけに心苦しくもあります」
ブラックは今後の再建計画をオーマと練っており、その事に付いてオーマは心を痛めている様子だったと言えるだろう——
この国を建て直す為に計画した事の一つ目は、食料の配給である。それは高官であろうと庶民であろうと関係無い。むしろ先王の元で私腹を肥やしていた者達は一人残らず私財を没収し、恨む事が無いよう息の根を全て止めさせた。
現状で食料事情はかなり厳しいが、周辺で狩れる物は狩り、食べられるモノであれば蟲族の肉片であろうと食べさせる事にした。
更には隣国である「ハの国」との国境を冒し、豊かな実りを強奪させている。しかしそれは大々的に行っている訳ではない事から、「ハの国」に見付かっておらず小競り合いすら起きていない。
謂わば密猟と言えるだろう。
そして本題はここからになる。二つ目の再建計画は兵を強くする事にあった。だがそもそも「マの国」は人口が少ない事もあり、“国家総動員令”に拠ってこの国の民全てを兵にする必要がある。
拠って兵として闘わせる為に国民全てを“聖技”の餌食にする事を計画したのである。
その計画を知ったオーマは逡巡した。この国を救う為に王位を簒奪したにも拘わらず、国民全てを犠牲にする可能性があるからだ。
それでは本末転倒、元の木阿弥であり、目的の為に手段を選ばない事になる。
「くふぅ……はぁ……はぁ……生きて……いる?この炎は一体……」
「姉貴ッ!無事なのか?」
「妹よ、お前も無事……なのか?」
「二人とも、私の“聖技”をその身に受け、耐え抜いたようだな。——これより私が預かった貴様達の命を貴様達に返す事にし、貴様達の罪は赦免とする。しかし一方で貴様達は新たな力を得た。拠ってその力を今後はこの国の為に使え。この私にではなく「マの国」の為にな」
「ッ?!——魔王陛下……分かりました。魔王陛下がこの国を……この国の民達を本気で救おうとされているなら、このハージュン・テンマー御身に忠誠を誓い、身を粉にして働かせて頂きます」
テンマー姉妹共にブラックの聖火に焼かれながらも耐え抜き、新たな力をその身に宿した事を実感していた。その上でブラックの意図を理解し、ハージュンは恭順の意を示し、ゲードゥもまたそれに追従したのである。
先王の件はこれを機に誰の口の端にも上がらなくなった。更には国の再建を推すブラックの意に従わない者は、この国から徐々に姿を消して行った。
それこそテンマー姉妹の暗躍が為した“業”とも言えるシロモノである。
そしてそれから、かなりの日数が経とうとした明くる日の事。
「今日もお疲れ様でした、あなた。これで民の選別は無事に終わりましたね」
「あぁ、227名の尊い犠牲はあったが、これで一人一人が屈強な猛者となった。更にはコーの力と合わせれば太刀打ち出来る種族などこの世界のどこにもおるまい。後は遣いにやったゲードゥが戻り次第、侵攻に移すのみだ」
「はい。この国の再建は順調です。もしも、この国の再建が叶った暁には、わたしはあなたの子供を身籠りたく存じています」
「ッ?!まさか……そんな、まさか……」
「あなた、どうしたのです?わたしと子供を成す事に反対なのですか?」
「違う、そうじゃない。ゲードゥの“視界共有”に……うむ……確かに道理だ。私一人がこの姿でこの世界に来たと考える方が不自然……か。それならば……」
「子供を成す事に反対でないのでしたら良かったと思いますが、ゲードゥが「ハの国」で何か?」
「だが、その事も念頭に置くとなると、今は他に調べる必要が出て来る……か」
全てが順調に行っている……と思っていた。オーマの思惑と噛み合わない会話はさておき、順調に行っていたその目論見は「ハの国」に偵察に向かわせたゲードゥが、獣人族の四天王の一人であるヌッコと闘った事で狂い始めて行く。
あの時、ゲードゥがヌッコを甚振らず早々に息の根を止めていたなら、レッドはその凶行の場に間に合わず、ブラックの目に止まる事は無かっただろう……。
「あなたどうなさったの?お顔がとても楽しそう……」
オーマは純粋な子供のようにブラックを見詰めていた。その瞳は夢見る少女のように可憐で、ブラックの事を片時も見逃したくないとでも言いたそうな物言いだ。
先程はタイミングに見放され、夫婦としてこれから愛を深めて行く計画を紡ごうとした矢先に茶々を入れられた結果となり、不服ではあった。
だからこそ、オーマの中にはこれから幸せになりたいと言う意思が確かにある。
しかし運命の歯車はこれを機に速度を上げて動き出して行こうとしている。1ミリとてズレが許されない歯車だが、もう既にズレが生じ徐々に崩壊に向けて動いている事を、誰一人として知る事も無い。
全ての動きが完全に連鎖し回り出した時に、崩壊に繋がる序曲を奏でていた事をその時になって初めて思い知るのだから……。
そこに幸福を求める意思があっても見向きもされず、怨嗟を上げて歯車に飲み込まれて行く事になる未来を少女は知らずに、今を必死に生きて行く。




