第六戦闘示唆 姉妹
〜ブラックの場合 其の陸〜
「姉貴、一体どうする気さ?」
「どうするも何も妹よ、行かねばなるまい?これは勅命なのだからな……」
「しかし姉貴、これはシャクマのヤツの陰謀に違いない。そもそもシャクマはウチ達を遠ざけ、その間に王位を簒奪し、その挙句にどこの誰とも知らんヤツに禅譲したんだぞッ!そんなヤツが出した勅命に従う必要は無いだろ」
「マの国」の残りの四王剣二人の元に届けられた一枚の詔勅。それを受け取った姉妹の内、特に妹の方は憤っていた。姉は困り顔でその妹を宥めているが、業火のように燃え盛る妹は宥められても怒りの炎が収まる気配を見せていなかった。
ところでこの姉妹、姉がハージュン・テンマー、妹がゲードゥ・テンマーと言う名で、奸智に長けたオーマとは異なり、武に長けた結果として四王剣の地位に着いている。
「そもそもウチ達はお隠れになったとされる、先王に見出され四王剣になり、先王の剣として役目を仰せつかったんだ。しかし話しによれば、先王はお隠れになったのではなく、暗殺されたと聞く。ウチ達が先王の剣ならば、暗殺者にこそウチ達の剣を向ける必要があるだろ」
「妹よ、言いたい事は分かる。だが、それでは何も変わるまい?そればかりか徒らに命を落とす。わっちに策がある、その策に乗ってみないか?」
斯くして姉・ハージュンの策に乗る事で二人は合意し、不敵な笑みを浮かべる姉と共に妹・ゲードゥは、詔勅の呼び出しに応じる形で城に向かって行く事にしたのである。
「よく来た……と言いたい所だが、二人は「叛意あり」と受け取っている。その叛意に申し開きがあるなら聞き届けよう」
謁見の間に於いて、ハージュンは初手から出鼻を挫かれていた。何故ならこの呼び出しは、話しを聞く事なく当初から死刑宣告を行う為だったと理解したからだ。拠って申し開いたところで何も意味が無いと悟った。
だがゲードゥはそれを理解していない様子で、早々に申し開く事を選択し、ハージュンはより一層顔を困らせて行く……。
「ウチ達は先王陛下の剣だ。王位を簒奪した者に刃を向ける事はあっても、簒奪した者に仕える剣ではないッ!」
「ほう?余程腕に自信がある……と?」
「無論だ。ウチ達姉妹はその武を買われて四王剣になった身だ。誰かを騙し、四王剣になったそこの女狐とは違う……あれ?シャクマはどこだ?」
「シャクマはわたし。ですが、わたしが女狐とは……随分な言いようですね、ゲードゥ。わたしと武力の闘いに於いて勝った事すらないクセに」
二人の女の意地の張り合いがその後も続いた。途中から聞くに耐えない痴話喧嘩のようにも聞こえたが、オーマの冷静で清楚なイメージを払拭するような発言が飛び出した時になって初めてブラックは、オーマを制止させた。
一方、ゲードゥの暴走にハージュンは、更に眉間にシワを寄せ、困り果てていたようにも見える。
「ならば、二人にはとある者と闘ってもらう。もしもその者に勝てたなら、職務を放棄し不敬を働いた事を罪に問わず赦そう」
「へっ!シャクマが相手ならウチは勝てなくても姉貴がなんとか勝てる。それにこの国に姉貴を超える猛者はいない。結局はウチ達の力が欲しいだけなんじゃないかッ!それなら最初からそう言えば仕える事を考えてやらなくもない」
「ゲードゥ、いい加減にしろ。調子に乗るな。あの目はそんな事を求めている目ではない……」
「ハージュンは分かっているようだな?もしも二人が勝てなければその命を私が預かり、生殺与奪の一切を私が握る。拠って闘う際は二人掛かりでも構わん」
「姉貴こりゃどう言うこった?」
「これはチャンスだ。妹よ、わっちに従え。二人掛かりで強襲し、アイツを殺るッ!」
ブラックの言葉にハージュンは勘違いをしたと言える。ハージュンはその強さ故にブラックが闘う相手だと思い込み、ブラックと闘うなら二人掛かりで挑み、刺し違えてでも先王の無念を晴らそうと考えた。
「さて……では紹介しよう。二人と闘う者よ……前に出よ、コー・ジターマ」
「ややや、やっぱりあだすなのでしゅ……ですね。魔王陛下ぁ、ご勘弁して頂けませんか?あだす、お二人を相手にしたらまた、粗相をしてしまいましゅ……ますです。流石に魔王陛下にそんなに何度も見られたら恥ずかしいでしゅし、お嫁に行けなくなってしまいましゅ……ますので、その時はお后様にして下さりませ」
「あなた、コーは頭が可怪しくなってしまったようですから、今ここでわたしが永遠に巫山戯た事が言えないようにトドメを刺しても構いませんか?」
なんとも気の抜けた返事をしたのはコーであり、コーが呼ばれた事にハージュンは驚きを隠せず、ゲードゥは怒髪天を衝く程にまで怒り心頭な様子だった。
そしてまた、さりげなく求婚をしている事にオーマもまた怒り心頭の様子だったと言える。
「コー・ジターマ!何故キサマがこの場にいるッ!仮の四王剣の分際で、ウチより何故上に立つッ?姉貴ッ!あんなヤツならウチ一人で充分だ、とっとと倒してブラックとやらの首一つ、ウチが奪って来てやる」
「待てッ!妹よ」
「うおぉぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁッ」
「あわわわわわわわわ」
怒り心頭のゲードゥはハージュンの制止を聞かず、対戦相手と言われたコーに向かって突進して行った。
対するコーはおどおどとして、オロオロと逃げ腰にも拘わらず、その場から立ち去る事は無かった。
ぶぉんッ
ひらりんッ
どごぉッ
「ガハッ……ば……バカな?何故、キサマにそんな力……が……?」
どさッ
「妹よッ!?」
それは一瞬の出来事だった。突進したゲードゥの攻撃をひらりと軽い身のこなしで避けたコーは、すぐ様ゲードゥの懐深くに入り込み、その腹目掛けて強烈なボディブローを見舞ったのである。
一言で言ってしまえば「あり得ない光景」だった。魔力強化しか能が無く、闘う事など出来る訳も無いとタカを括っていた姉妹からしてみれば、目を疑う事しか出来ず、当事者のゲードゥに至っては白目を剥き口から泡を吹いてその場に崩れ落ちて行く事しか出来なかった。
「さて、次は貴様の番だが、ハージュンよ……コーに勝てるか?」
「わっちはそこまでバカじゃない。恐らくは闘えば負けるだろう……かと言ってこのまま引き下がる訳にも行くまい!」
ちゃきッ
「へぇ?誰に対して引き下がらない積もりですか?それ以上ブラック様に近付くのは、わたしが許しませんよ?」
「シャクマ……いつの間に?!まさかキサマも?」
「——クッ……分かった分かった。殺せッ!死罪だろうが、晒し首だろうが、好きにしろッ!この身を辱めたいならば辱めろ!もう何をしても勝てる気がしない。妹共々とっとと殺せッ」
「潔いな。良かろう……貴様の命、私が預かる。拠って私の“聖技”を受けるが良い。見事耐えた暁には“赦免”としてやる」
ハージュンは死を覚悟した。勝てると見込んでいたが、コーだけならいざ知らず、シャクマも遥かに強くなっていると感じた以上、ブラックの首を奪る事は不可能だと思うより無かった。
そんなハージュンに対してブラックは、オーマとコーに対して行った“聖技”の炎を浴びせる事にしたのである。




