第三戦闘示唆 奸雄たる王
〜ブラックの場合 其の参〜
シャクマが私を見詰めた後で口に出した言葉は、この場にいる者達を騒然とさせた。それは、私も同じだった。
「わたしは慣例に倣い、王位に付く事を是とし。そのままそこにいるブラック様に王位を禅譲する事とします。これは王命であり逆らう事は叛逆と同意です」
場が騒然となった意味は言わなくても分かるだろう。私ですら、この展開は読めていなかったのだから……。
その日の夜の事。
私は王位を譲られた後、色々とゴタゴタがあったがシャクマの助けもあり何とかなりつつあった。しかし、シャクマの家に帰っている余裕は無く、城の執務室で休息を取っていた。
「シャクマさん、いつから考えていたのですか?」
「ブラック様……貴方様はもう、この国の王なのですから、わたしに敬称は不要ですよ」
「ならシャクマ……再び問う。この計画はいつから考えていた?」
「最初からです」
「そうか……私がシャクマと最初に会ったのは、この国の入り口だ。その時からか?」
「そうですね……」
私にはまだカードが残されている。シャクマが本当の事を言うのであればカードを切る事はしなくても良いと思っていたのだが……。
「私は荒廃した街で一人の少女と出会った。彼女の導きでこの街に辿り着いた。そしてその少女は、シャクマ……貴女ではないのか?」
「わたし?何を根拠に言っているのです?」
「見た目や声色、仕草や身振りなどは如何ようにも演じる事が出来る。だが、貴女の歩き方はあの少女と全く同じなのだ。歩き方のクセだけは意図して演じる事は出来ないものだ」
シャクマと少女は身長だけでなく瞳の色に髪の色、その質感や雰囲気など全てが違う。それ故に「別人か?」と問われれば「その通りだ」と、十人いれば十人がそう答える筈だ。
だが一方で全く同じ歩き方が出来る人間はそうそういるものでは無い。
私はそれを根拠にシャクマを問い詰めた訳だが、シャクマは思ったよりも早く観念してくれた様子だった。
「歩き方……ですか。そこは盲点でした。流石はブラック様です」
「では、やはり?」
「はい。わたしはブラック様が死の洞窟から出て来るのを見ていました。入った形跡は無いのにも拘わらず、あの洞窟から出て来た事に興味を持ったのです」
「死の洞窟?あぁ、火山の中にあったあの洞窟か……」
私はあの洞窟から抜け出した後で荒廃した街を彷徨い、そこで一人の少女に出会った。
少女は名も言わず、一言「これを……」とだけ言うと私に包みを渡し、どこかへと立ち去って行った。そこに入っていたのは僅かな食料と飲み水。そして手紙だった。
その手紙には「ここから北に街があります。そこにいるこの国の王を殺し、この国を救って下さい」と書かれていた。
「この国はもう滅亡する寸前でした。ですが、先代の王に勝てる可能性のある者はいませんでした。あの王を倒せなければこの国を救う事は出来ない……四王剣全員で掛かれば万に一つの可能性はありましたが、それは最後の手段でしたから」
「それで私に白羽の矢を立てた……と?」
「はい。死の洞窟から無事に生還出来たブラック様ならばもしや……と考え、この街に導いたのです」
「そうか……私はシャクマの手の上で踊らされていたのだな……」
「わたしとしても想定外だったのです。ブラック様があそこまで強いとは思いませんでしたから」
「私は少ないながらも、生きる為の糧を貰った少女に感謝していたし、この世界の知識を教えてくれたシャクマにも感謝している。まぁ、二人は同一人物だった訳だが」
私は騙されたとは思っていなかった。だからこそ本心を伝えた。
私はアイドルとして心機一転やり直そうとしていた訳だが、戦隊ヒーローを諦め、戦隊ヒーローである事を捨て去る事が出来ていなかったのかも知れない。
私は一言だけ発した少女の瞳の奥に、絶望に打ち震える姿を見て、「セイギノミカタ」であろうとしただけだったのかも知れない。
「シャクマ教えて欲しい。貴女はどっちが本当の貴女なんだ?それに“シャクマ”と言うのも本当の名前なのか?」
「わたしは魔人。魔人は固有の種の集合体であり、わたしの固有の種は“ドッペルゲンガー”です。“ドッペルゲンガー”は愛し愛される事の出来る相手のみに、本当の名を示し姿を見せます」
「私が貴女を愛し、貴女が私を愛した時に、本当の名を教え姿を見せてくれる……と言う事か」
「ですが……わたしはもう、ブラック様をお慕い致しております」
「ならば、私の愛が本物であると、貴女が認めてくれた時に全てが分かるのだな?」
“愛”とは何なのか?それを私は知らない。だが、少なくともシャクマに対して抱くこの感情は、日本にいた頃は感じ得なかったものだ。しかしそれを伝えたとして、本当に伝わるのかは分からなかった。
「シャクマ、それでは今後の事について話すとしよう」
「はい。わたしの知る全てをブラック様に捧げます」
「残りの四王剣はどこにいる?あの時、敢えて呼ばなかった……もしくは、あの場にいないように仕向けたのだろう?」
「えぇ。残りの四王剣のうち、二人は先王の派閥ですから。最善の手を打つ為に王命と称して予め二人には別件を申し付けておきました」
予想はしていた。だからそれは想定内の解答だった。だが、それだと残りの一人はあの場にいてもいい事になる。なのにいなかった訳が分からなかった。
「最後の四王剣は特異性だけを認められて四王剣となった為、有事の際以外は先王から遠ざけられていました。だからあの場にいる事は出来なかったのです」
「特異性?それは一体……」
「我々魔人族は、魔術を使う事が出来ます。わたしの魔術は変化と防御。そしてその者は魔力強化と飛翔……魔力強化を行うと一人で百人余りを倒せる程の力になります」
「だから有事の際……なのか。しかしそれは確かに有用だな。一人が百人換算ならば、千人しかいないこの国一丸で掛かった際に十万の戦力と同じになる」
「全員の魔力強化を行う前に、魔力が尽きると思いますが……」
「それはそうだが、その力は使い方次第で戦況を覆す可能性を秘めているのは確かだ。ところでその者の固有の種は何なのだ?」
私はこれからこの国を建て直す為に必要な事を考えていた。その中で最も大事な事と言えるのが他国との戦力差だ。
現状でこの国を救う最善の方法として挙げられるモノは侵略以外に無いのは明白だった。食料の調達手段が「狩り」だけでは千人余りの食料受給を賄える筈も無い。
だからこそ豊かな実りのある隣国に攻め入り、国自体を奪えなくても領土を割譲させる事が出来れば、それだけで大きなメリットとなる。そこから取れる恵みが飢えから解放してくれる筈だからだ。
しかし一方で人口の差はそれだけ戦力差に繋がる事から、それを払拭する手段を模索していた。
「かの者の固有の種は“サキュバス”です。わたしは何も不安に思っておりませんが、ブラック様には毒になるやもしれません」
「毒?その者が、私にとっての毒になり得るのか?」
「いえ、その……わたしはブラック様をお慕いしており、何も起きないとは思いますが……」
私はシャクマが何を言いたいのか分からなかった。しかしその“サキュバス”がこの国のキーとなる可能性が高い事から、明日にでも早速呼び出すようにシャクマに対して要請した。
シャクマは釈然としない様子で、要請に応じると執務室を後にして行った。




