第十九戦闘配置 序に至る道
〜レッドの場合 其の“ Ⅹ ”〜
どがんッ
どごんッ
「あっはははッ!どうしたどうした!」
「がフッ」
魔人の女性の猛攻は執拗に続いていた。ヌッコは持ち前の身体能力の高さと、獣人特有の体毛に拠って辛うじて生き存えてはいるが、それでもダメージは蓄積し言葉を発するだけの余力もとうに失われていたのだった。
「それにしても獣人族ってのは頑丈だねぇ。こんだけ叩き付けてもまだ死なないなんて……。ウチはそろそろ飽きたから、いっその事一思いにあの岩に叩き付けてみようか?」
魔人の女性は業を煮やした様子で、逆さ吊りのヌッコを近くに見付けた岩へと叩き付けるべく移動して行く。
ヌッコは意識が朦朧とする中、もはやどうにもならない状況に為すがままにされていた。
「これで、あの世に行っといでぇ!」
がしッ
「誰だッ!?——ッ!?オマエは……?まさか……いや、そんな……」
「それ以上、俺の妻に手を出させるワケには行かないッ」
ぎりッ
どさッ
「くぉッ。なんて馬鹿力だい!強化されてるウチの腕を、いとも簡単に握り潰せる膂力だってのかい」
これを間一髪と言っていいか俺には分からない。だが、あと一歩遅ければヌッコは岩に叩き付けられていたかも知れないから、間一髪だったと思う。
それにしても、見た目が不気味な女性なんだが、何者なんだろうな?
だが、そんな事はどうでもいい。今はヌッコが生きてる事を確認するのが最優先だ。
「ヌッコ!ヌッコ大丈夫か?生きているか?」
「レッ……ド?ヌッコ……は……ま……だ、生き……てる」
「そうか……ヌッコ、良かった。それなら少しだけ待っててくれ。俺が急いで城に連れ帰るから」
「おいおい、ソイツは四天王なんだろ?生かして帰す程、ウチはお人好しじゃないんだよッ」
「同感だ。俺もアンタを生かして帰せる余裕は無い。残念ながら、俺の腹ん中は煮えくり返ってるからな」
俺は心底怒ってた。ヌッコをこんなボロボロになるまで甚振ったのは……どう考えても、どう贔屓目に見てもコイツだ。
ならば俺は許せるハズが無い。俺は怒っているから「贔屓目」の使い方が違くても仕方が無いんだッ!
「まぁいいさ。それなら先にアンタだ!その後でゆっくりと四天王を甚振ってからソイツを宣戦布告代わりに城内に投げ込んでやるさッ」
「そんな事はさせないッ!掛かって来いッ!」
「言われなくてもやってやるさッ。魔術・毒の螺旋!」
「セット!二丁包丁・乱れ撃ち!」
俺の弾丸と不気味な女が撃った毒々しい槍みたいなのがぶつかった訳だが、そもそもアレ何なの?何も無い場所から変な槍出すとか、どんなマジックだよ。
奇抜な格好してるから、マジシャンか何かなのか?それならなんとなく分かる気もするが、マジシャンだからってヌッコにやった事はサイコパス過ぎるだろ!
絶対に許される事じゃない。ヌッコが負った怪我とかもトリックで実はピンピンしてるなら……ってそんなワケあるかッ!
ってかその前に……今、宣戦布告って言ったよな?これから戦争が起きるって事なのか?
どごおぉぉぉおん
「なっ?!ウチの魔術が、打ち消された……だと?」
「もらった!」
爆発に拠る土煙を突破して俺は不気味な女に殴り掛かって行った。実際は土煙じゃない気もするが俺はそんなのを気にしない。
どごぉッ
ずざざざざざざッ
「くっ……ウチの魔術を破ったとは言え、毒煙の中を突っ込んで来て無事とは……」
なんか俺は恐ろしい言葉を聞いた気がした。しかしそれ以前に俺のパンチは不気味な女の両腕でガードされ、不気味な女は後ずさるように滑って行った。
俺としてはそっちの方が驚きだ。普通殴ったらそんなに滑ったりしないよな?俺ってどんだけパワーあんだよ!ってツッコミたくなったくらいだ。
まぁ実際の話し、エレファも大概な馬鹿力だから……夫婦は似るって言うし……俺もいつの間にか馬鹿力になってたって事なのかな?
んなワケあるかッ!
『退け』
「ですが、「ハの国」の四天王を前にしてその首も取らずにウチはッ!」
「おいおい、どうした?誰かと話してるのか?」
『私の命令が聞けない……と?』
「分かり……ました。キッ。——勝負は預けておいてやる。その首、次こそは貰い受ける。大事に洗っておけッ」
「お、おいおい、何だよ?俺にも分かるように……って、行っちまった」
突然、不気味な女が独り言を話し出したと思ったらそのまま逃走……。俺としては宣戦布告の事や、何でこんな事をしたのかも含めて問い詰めたかったが、ヌッコの事が気掛かりなのもあって、敵が早々に退いてくれたなら良かったと言えば良かった……って思う事にして、ヌッコの元に急いだ。
「ヌッコ!……息はある。待ってろ、急いで城に連れて行くからなッ。絶対に死なせないッ!」
俺はぐったりとしているヌッコをあまり揺らさないように抱きかかえると、そのままゆっくりと走り出した。流石に全力で走って、それが原因で容態が急変しても困るからだ。
「レッド……」
「ヌッコ!意識が戻ったのか?」
「レッド……ごめん……なさい。それと……ありがとう」
「あぁ、気にするなヌッコ。別に構わない」
「レッド……ヌッコはレッドが嫌い……」
「ッ?!」
俺は危うくヌッコを落としそうになった。それは「嫌い」発言されたからってワケじゃない。
ヌッコが俺の事を「嫌い」と言った瞬間、その小さな身体から力が抜けたからだ。俺は前を向いて走っているから、ヌッコの様子を細かく見る事は出来ない。
だからこそ俺の両腕に伝わる感触が全てだ。
「ヌッコ!ヌッコ、死ぬなッ」
「レッド……うるさい。勝手に……殺す……な」
ぽたッ
ぽたたッ
「なみ……だ……?」
「良かった。良かった……。そんな憎まれ口を聞けるくらい、ヌッコは元気なんだな?——もうすぐ城に着く。あとちょっとだ、頑張れ」
「うん……」
涙を流すなんてどれくらい振りかな?でも俺はヌッコが死んだと勘違いしていたし、そのせいもあって感極まって涙が溢れていた。
ヌッコを抱きかかえて涙を流しながら城に戻ったら、流石にヌッコが死んだと皆が思うかも知れない。でも、俺の両腕の中にヌッコがいる以上、涙を拭う事なんて出来ないから、そん時はそん時だ。
〜???の場合 其の“ ? ”〜
「あなたどうなさったの?お顔がとても楽しそう……」
「あぁ、楽しいさ。ゲードゥが行った「ハの国」にアイツがいたんだからな」
「アイツ?お知り合い……なのです?」
「私一人がこの世界に来ていた訳では無かった。ならば、他のヤツらも来ていると考えるのが妥当……か」
「オーマ。コーとハージュンを呼んで来い」
「かしこまりました、あなた」
一人、暗き玉座に座っている男。その傍らには比類無き美貌を兼ね備えた小さな女性。
オーマと呼ばれたその女性は、男に命令された通りにする為、二人を呼びに玉座の間を後にして行った。
暗き玉座に在りし者は部屋の天井を見詰め、これまでに起きた事を思い返して行く事にした。




