第十四戦闘配置 紅と蒼
〜レッドの場合 其の“ Ⅶ ”の前のイ〜
「準備を急げーッ」
「サッカ様、本当に蟲族が襲来するとすれば本当に、東のみなので御座いますか?」
「えぇ、それで間違いはありませんわ。そして新王陛下が帰って来る場所も東……」
「サッカ姉さん。撤収部隊の再編成が終わったんだよッ」
蟲族は現状に於いて城に攻め込んで来てはいない。東西南北全ての城門に、念の為物見は配置しているが未だに報告は無かった。
城内ではサッカ指揮の元、籠城戦用の物資は全て東に集められ、イッマ指揮の元で部隊の再編が進められた。
しかしその中にアッヌとヌッコの姿は無い。
「何者かが近付いて来るぞッ!」
「くっ……まだ遠い。よく見えない……」
「新王陛下……どうかご無事で……」
「サッカ姉さん。物見から——」
「分かっていますわ、イッマ。近付いて来ている何者かが敵であるなら部隊を率いて殲滅するのはアテシの努め。そして、蟲族でなく、新王陛下なら——」
「それを迎えるのはボクの努めなんだよッ!全軍、撃って出る。ボクに続けえぇぇッ」
「待ちなさい、イッマ!アテシも行きますわッ!それに、それもアテシの努めでしてよッ!」
こうして何者かが「何であるか?」を確認する事無く勝手に出陣したイッマを追うようにサッカも後に続き、その後ろから部隊総勢500名余りが土煙を上げながら城門を後にして行った。
「大したお出迎えだな、子鹿ちゃんに子馬ちゃん」
「新王……陛下?」
「子象ちゃんを連れて来た。眠ってるから頼めるか?」
「ッ!?女王陛下ッ!イッマ、女王陛下を早く医務室へ」
「分かったんだよッ」
サッカは目に涙を浮かべながら、レッドを迎えた。その涙をレッドは拭って行く。
「だんな様……お会いしとう御座いましたわ。アテシはだんな様の事をお慕いしております。今すぐにでも抱いて欲しいくらいに……」
「子鹿ちゃんは俺様が分かってるようだな?」
「はい。アテシの初めてを捧げたのはだんな様で御座います。今、皆がいてもアテシは心の昂ぶりを抑えられません。皆が見ていようとも、股を開けと言われれば喜んで開きますわ」
「まぁ、そうまで言われると据え膳を喰いたくなるが、生憎と俺様は疲れた。だが、抱いて欲しいなら俺様を見付けろ。俺様が表に現れる方法を探せ。そうすれば、子鹿ちゃんが気の済むまで俺様のオモチャにしてやんよ」
「はい、だんな様。この命に替えましても……必ずやッ」
斯くしてジャングルに平穏が戻った。ただし城の周辺道路は複数箇所で大きく陥没しており、早めに復旧しなくては今後に支障が出るのは明白だった。
一方で小競り合いによる時間稼ぎを主たる目的として戦闘を行った為に、重軽傷者の数は比較的少なく、死者は一人もいなかった。
そんな重軽傷者ですらも獣人特有の回復力の高さによって一週間と経たずに全員が復帰したのである。
女王エレファも無事に政務に復帰したが、日がな一日ボーッとしてる時間が増え、何をしても手が付かない事が多くなっていった結果、政務をレッドが行わなければならない日が増えていったのは事実だった。
レッドとしては、現状で政務の殆どが道路復旧に関わる事だった為、罪の意識もありサッカに手伝ってもらいながら政務を熟して行くようになっていた——
「新王陛下、最近アッヌに対して妙に親しげではございませんの?」
「あぁ、そうか?俺は皆に平等に接してる積もりだったんだが……」
「アッヌも、新王陛下の事を気軽に人前で「あるじ様」と呼んでいるようで御座いますし……アッヌも新王陛下の家臣なのですから、今のままでは不敬罪に問われ兼ねませんわよ?」
「いや、それは違う。アッヌには俺が呼びやすいように呼べと言ったんだ。それに、そんな事で不敬罪に問うなら「不敬罪だ!」って言う奴を俺がぶっ飛ばしてやる」
「新王陛下……」
「だから、サッカも俺の事をわざわざ「新王陛下」なんて固っ苦しく呼ぶ必要はない。サッカも俺の妻に変わりはないんだから」
「それでは、だ……いえ、新王陛下お戯れを。アテシは新王陛下の妻であっても配下。上に立つ者として節度は守らねばなりませんわ」
なんかサッカ……変わった?俺としては前までの甘々イチャラブしたい雰囲気を出してたサッカと、今のはどうも違う気がする。やっぱり俺が夫として不能だから愛想を尽かされた……って事なのかな?
かちゃりッ
「サッカ、どうしたんだ?急に鍵なんか閉めて……」
「新王陛下のお気持ちは、アテシ本当に嬉しく思いますわ。だから、新王陛下ともっとゆっくりとお話しがしたくて鍵を閉めさせて頂きましたの。これでお邪魔虫は入って来ませんわ」
やっぱりいつものサッカだった。急に鍵を閉めたって事は、アレだろ?いつものヤツだろ?最近はずっとエレファが夜に来てたから、鬱憤が溜まってる系のアレだよな?
と、俺は思っていた。だが、状況は少しばかり違っていて、サッカの右手にはナイフのような刃物が握られていたんだ。
〜ブルーの場合 其の“ Ⅳ ”〜
つんつん
「うっ……うぅ……ご飯……」
「あぁ、目覚めた?おはよ。キミは眠りに堕ちなかったんだね」
びくッ
じたばたかさかさかさッ
「く、来るなッ。寝てる間にこの身を穢してなど、おらぬだろうな?」
「なんでさ?そんな面倒なコトしたいと思うの?」
ぐさッ
「いや、この身はイイ女だと思うのだが……」
「興味無いね」
ぐさッ
「いや、この大きな乳とか、割れた腹筋、締まりのいい尻など、垂涎モノであろう?」
「なんなのさ?犯して欲しかったワケ?それにしても面倒臭い女だな、キミは」
ぐさッ
「……クジだ。この身の名はクジ・ラニモリだ」
「そう。で、そのクジは僕にどうして欲しかったのさ?」
「い、いや、何もしたくないなら、この身はそれで構わないのだが、女のプライドと言う奴を傷付けるよう発言はもうちょっと……ごにょごにょ」
ギョリに因ってブルーと同居する事を余儀なくされたクジは、何もする事が無かった事から寝ていた。そして、起きた時にはブルーが目の前にいたから驚いた。それだけだ。
「まぁ、僕は極力面倒臭いコトはしたくないんだ。だから女の寝込みを襲うなんて面倒臭くて面倒臭くて。寝込み襲って抵抗されたら面倒臭いし、その前にヤるのも面倒臭い。そんなコト、なんの意味があるってのさ?」
「子作りは子孫を増やし、国を豊かにする為にも必要であろう?」
「そんなコトはシたいヤツらだけがシてればいいんだよ。アイツらみたいなヤツと僕は一緒にされたくないな」
「アイツら?一体誰の事だ?」
「そんなコトは面倒臭いからどうだっていいよ。ところでさ、クジ……強くなりたくない?」
ブルーは新たな同居人に少しばかり興味を持った様子だった。その意図をクジは察するコトは出来ない。だがブルーが紡いだ提案は何物にも替え難い誘惑であり、クジにとっては禁断の果実を手にしたようなモノだった。
「返事は口にしなくていいよ。分かってるから。僕のお願いを聞いてくれるなら、僕はクジを強くしてあげる。うん、そう。じゃあ決まりだね」
「この身は何も言ってなど……まさか、思念の力か?」
「思念?何それ?僕はそんな力持ってないよ。僕はクジの心を読んだだけ」
「心を……読む?そんな事が出来る訳……」
「僕には出来る。つまりクジの心は丸裸だ。クジは防御力が薄いから面倒臭がりの僕でも楽勝だ」
ぐさッ
「——あぁ、良い所なのに面倒臭いなぁ。クジ、ちょっと何があっても寝たフリしてて。じゃないとそのまま本当に寝かせるからね」
クジは意味が分からないブルーの命令を、何故に聞かなければならないのか理解したくなかった。だが、ブルーの物騒な発言に拠って従う以外の選択肢が無かったとしか言えない。




