第十三戦闘配置 烏と猫
〜ピンクの場合 其の“ Ⅶ ”〜
セズーメに破れたキーラスは危急存亡の瀬戸際にいた。キーラスがチッカから言い渡された事は一つ。その期限は一週間。
その課題を期限内に達成出来無ければ四刀聖から除名される事になり、一般兵へと降格する旨が言い渡されたのである。
「セズーメとの再戦、そして勝利……今のワテクシでは不可能になってしまいましたね……。しかしセズーメがあれ程の力をこの短期間で身に付けていたとは……三日会わざればなんとやら……を身を持って知る事になるとはね」
課題を言い渡されたキーラスが行った事は聞き込みである。直接本人に尋ねれば良いだろうが、先ずは外堀から埋め証言に証言を重ねた上で直接本人に聞くつもりでいた。
キーラスが行った聞き込みに拠って得られた情報の中で、特にキーラスが有力視したのは「おねえさま」と呼ばれる存在の事だ。
セズーメはある日突然、誰かの事を「おねえさま」と呼び出し、その日からぼんやりしている事が増えたのだと言う。
キーラスはそんな状態であれ程のパワーアップを達成出来るとは思えず、「おねえさま」の存在がセズーメを何かしらの方法で鍛え上げた……と言う結論に至った。
更に言えば「おねえさま」が誰かもおおよその見当は付いていた。そこで探りを入れ外堀をより一層強固にする為に、テーバメに対して聞き取り調査を行ったのである。
「テーバメ、ちょっといいかしら?」
「これはキーラス様。某に何か御用で御座りましょうか?」
「アナタが「おねえさま」と行っている事について、確認したいのだけれど教えて貰える?」
「ッ?!ききき、キーラス様、ななな何を仰っておられるので御座いますか?そそそ某と、おねえさまの間にはななな何も滅相も粗相も御座いますれば、そのようなこここ事、キーラス様に申し開きも御座いません。はっ!そうだったそうだった、某はチッカ様から御用を申し付かっておりました故、これにて失礼致します」
テーバメは明らかに動揺しており、挙動不審としか言いようが無かった。しかし早々に退散してしまった為に「何をしていたのか?」と聞く事は疎か、触りすら聞き出せないでいた。
しかし一方でこの聞き取りは確信に至らせた。「どこ」で「何」を「どのように」したのかは皆目見当も付かないが、テーバメもセズーメもピンクと何かがあったと言う事だけは掴めたのである。
「セズーメ、ちょっと聞きたいのだけど、いいかしら?」
「キーラス様?はい、どんな事をお話しすれば良いのでしょう?」
「アナタ、ピンク殿と何があったの?それを教えてくれない?」
「おねえさまとの事?そうですね……おねえさまはスズをとっても気持ち良くしてくれるだけです。そうだ!キーラス様も、おねえさまの「調教」を受けられれば世界が変わりますよ」
「調教?それって一体……?具体的にはどんな事をしていると言うのです?」
「どんな事って……そんなの恥ずかしくってスズは言えません。例えキーラス様でも言えませんッ」
そこまで言うとセズーメは顔を真っ赤にしながら走り去って行った。キーラスはこうなったらもう、直接ピンクの元に行ってセズーメが話した「調教」とやらを味わう事しか可能性は無いと悟ったのだった。
〜レッドの場合 其の“ Ⅶ ”〜
「ねぇ、イッマお姉ちゃん……ヌッコはどうすればいいか分からない」
「それはヌッコが素直になればいいんだよッ」
「素直……?でも、今まで散々、レッドに対して失礼な事をして来たし、レッドが新王陛下になったのに、今でも無視し続けてるんだから、ヌッコは何も言えないよ……」
「ヌッコは新王陛下に助けて貰ったんだよ?新王陛下がヌッコの事を嫌いだったら、助けてはくれないと思うんだよッ」
蟲族進軍から数日経ったある日の昼下がり。悩めるヌッコは、姉のイッマに相談していた。
最初は長女のサッカに相談したかったヌッコだったがサッカは探しても見付からず、かと言って三女のアッヌに聞く気も起きなかった。従って消去法で残ったのは次女のイッマだ。
「ヌッコは新王陛下の事が嫌い?」
「嫌い……だと思う。サッカお姉ちゃんやイッマお姉ちゃんが嫌がってるのに、無理矢理襲ったのを見たモン。アッヌはヌッコの為に自分からレッドに……あんな事を……」
レッドはあの日、嫌がるサッカとイッマを初めてを奪った。そしてヌッコを守る為にアッヌは自ら進んでレッドを受け入れた。それがヌッコの胸深くに刺さったトゲであり、今でもレッドを認められない気持ちは全てそこに集約されている。
「新王陛下は、確かにあの時……怖かったよ。でも、凄く気持ち良かったし、新たな世界が……」
「イッマお姉ちゃん、ノロケは要らない」
「まぁ、まだまだお子ちゃまのヌッコには早い話しだったね。でも、その後の新王陛下はとっても優しいんだよ。強いし頼りになる、この国の新王陛下なんだよッ」
「でもヌッコは……」
「だからボクが言いたいのはヌッコは素直になったらいいと思うんだよッ」
「イッマお姉ちゃん……よく分からない」
ヌッコは「素直になれ」と言うイッマの気持ちが分からないでいた。ヌッコ自身は聡い子なのだが、いざ自分がそういった立場になると、なった途端に突然よく分からなくなる。
だからこそ、単純な「答え」を求めていたにも拘わらず、イッマはその答えを示そうとしない様子だった。
しかしいつまで経ってもヌッコの表情は曇ったまま……イッマはヌッコに自分から考えさせたかったが、このままでは埒が明かないと考え直すとヌッコに紡いでいった。
「助けて貰ったら感謝を、悪い事をしたと思ったら謝罪を。言いたい事があっても黙ってソッポを向くんじゃなく、素直な気持ちで、ありのままに言葉に出せばいいんだよッ」
「じゃあ、ヌッコはレッドに対して、面と向かって「嫌い」って言ってもいいの?」
「いいと思うよ。でも、その前に……」
「助けてくれて、「ありがとう」?」
「そう言う事。それが素直ってコトなんだよッ」
ヌッコはどこか胸の奥深くに刺さったトゲが抜けそうな気がしていた。イッマはどこか見当違いの事を話して来る事も多いが、本質を見定めて直球で返してくれる。
ヌッコはイッマに対して相談して良かったと思い、そのままイッマに礼を言うと部屋を後にして行った。
「ヌッコも早く、ごしゅじん様と仲良くなって仲良しすればいいんだよッ」
イッマは部屋を出て行く妹の背中が、少しばかり広く見えて気持ちが楽になっていた。まぁ、その後の独り言をヌッコが聞いたらそれはそれで烈火の如くに怒ると思われるが、ヌッコは部屋を出た後だから少し広くなった背中ですら、その独り言は聞いていなかった。




