第十二戦闘配置 四刀聖
〜ピンクの場合 其の“ Ⅵ ”〜
かさっ
ぱたんッ
「さて、余の力が如何ほどのモノになったか、試す必要があるな……」
チッカは部屋にいる誰よりも早く起き上がると場所を変えた。昨夜味わった“性技”に拠る効果を試す為にだ。そして、自身の刀を抜くと一振り。一通り刀を振って、身体に違和感が無い事を確認し構えて行く。
壱から拾まで“型”を放って技の精度、威力、連携など様々な事を確認して行った。そして、口角を上げた。
「確かにあの“セイギ”に拠る効果は本物だ。これで余はまた強くなった。恐らくは、テーバメとセズーメも同様の筈。しかしこれでもまだ、ピンク殿には遠く及ぶまい。さて、アヤツめもピンク殿への生け贄にせねばなるまいな。くくくくく、はっはっはっはっはっ」
「キーラス・ウーノマーネ参上仕りまして御座います」
「よく来た。先ずは蟲族襲来の折、倒れている余を医務室へと運んでくれた事、感謝する」
「チッカ様、そんな滅相も御座いません」
「だが、キーラス。そなたは、いち早く戦場から抜け出し、蟲族の鏖殺に尽力しなかった……とも聞き及んでいる」
「えっ……?それは……シンペトゥルムの群れが城に向かって飛翔していた為、チッカ様に一刻も早くお伝えに上がらなければ……と」
「ほう?余がシンペトゥルム如きに遅れを取るとでも?」
チッカは早朝にキーラスを呼び出していた。周囲に他の配下はおらず、二人は対面で言葉を交えて行く。
当初キーラスは戦場働きを褒められるモノだと感じていたが、旗色は徐々に変わり、額には大粒の汗が滲んでいた。
「付け加えるならば、先日のピンク殿との模擬戦の折も、そなたは闘いを放棄したな?」
「はい……」
「度重なる戦場逃走、戦闘放棄は鳥人族の掟に反する。本来であれば、四刀聖である事を解任せざるを得ない」
「ッ!?そんな……」
「しかし……だ。余もそこまで鬼ではない。拠って、その実力を示す事が出来れば、そなたを四刀聖のままとする」
「実力を示す……とは?一体、ワテクシは何をすれば……?」
「闘技場に今、セズーメがいる。セズーメと闘い己の実力を示せ」
キーラスは「相手がセズーメなら」と考え、油断するとチッカは確信していた。相手がテーバメであれば速さはテーバメが勝っている事から、キーラスとて百戦して百勝とは言い難い。
しかしセズーメはキーラスと比べると全てに於いて、抜きん出る項目が無い。その事を踏まえてチッカは、キーラスの慢心を引き出す為にセズーメとの対戦を求めるに至る。
「キーラス様、胸をお借り致します。この不肖セズーメ・シッタキーリ、キーラス様と闘える光栄を——」
「そんな固っ苦しい言葉はいいから、早く掛かっていらっしゃい」
「かしこまりました。それでは、参りますッ!」
だッ
「ッ?!えっ?」
キィィィィィィィィィィン
慢心に慢心を重ねていたキーラスの動揺は激しい。セズーメがこの短期間に強くなっているなんて思ってもいなかったからだ。
それでも尚キーラスは慢心を持ったまま刀を振るって行く。しかし全ての斬撃は弾かれ当たらず、避けられ間合いを詰められる……そんな状況はキーラスの高い自尊心を傷付け、その顔は醜く歪んでいった。
しゅばッ
「くっ……セズーメごときの攻撃を、ワテクシが貰った?!そんなバカな……あり得ません。あり得ないあり得ないあり得ないッ!こうなったらワテクシは本気で参ります!」
ちゃきっ
「参の計・烏鳥!」
ばっばばばばばばばッ
「ならばスズも参ります。玖の大刀・扇桜の舞!」
逆上したキーラスは技を放ち、セズーメもそれに対抗して技を放って行く。ちなみにキーラスの技は剣技と言うよりは魔術に近い。
キーラスは己の大刀に施された術式の効果を、技として相手に放っているからだ。故に純粋剣士である他の四刀聖とは異なる意味合いを持っている。
純粋剣士であり素早さが高いテーバメであればキーラスに勝てる可能性はある。しかし、セズーメはテーバメ程の素早さを有していない。だからこそキーラスは負ける気がしなかった。故に「勝った」とすら思い込んでいた。
キーラスとセズーメでは技の質が違う。二つの技はぶつかり合い相殺される事は無い。拠って、セズーメよりも早く撃ち、素早さの勝るキーラスの技の方が早く相手に到達する。
しかもその技は範囲攻撃であって、セズーメでは回避は疎か、耐え得るだけの防御力も無い。
キーラスはキーラスで遅いセズーメの刃など余裕で躱せる……。
そう考えたからこその確信だったのだ。
ざんッ
「な……何故?ワテクシにセズーメの刃が先に届く……の?ワテクシの参の計は?——ッ!?」
キーラスの目に映ったのは、キーラスの放った技がセズーメの斬撃に拠って散らされて行く光景だった。
即ち質の違いから相殺されない筈の技が、掻き消されて行く姿を見たのである。
鳥人族の中で質の違いを払拭出来るのは鷹の目を持つチッカだけであり、純粋剣士たるチッカが頂きにいる根拠でもある。
チッカと同じ事をセズーメが行ったと言う事実はキーラスの尊厳と自尊心を見事に粉砕し、逆上を通り越し逆鱗に触れた様子で髪を逆立たせ、その瞳は怒りに燃えていった。
「覚悟なさいッ!鳥獣伎楽・闇夜の烏、雪に鷺!」
「ならば、スズも参ります!鳥獣伎楽・雀海に入って蛤になる」
若いセズーメが四刀聖になれた理由。それは扱える鳥獣伎楽に理由がある。
・四刀聖は部隊を率いれば必ず将となる
それは一対一に特化した技を持つ者では務まらないからだ。それ故に「鷹がいないと雀が王」を編み出し、更にはこの「雀海に入って蛤になる」をも習得した。
それ程までの努力家であるセズーメはその若さに於いて比類なき才能と期待を込められ、四刀聖へと推挙された。
キーラスの鳥獣伎楽が背景を切り取り時を止め、セズーメにその刃を向けた時、セズーメの姿はキーラスに変わった。即ちキーラスはセズーメの鳥獣伎楽に拠って、自分自身に向けて刃を放った事になる。
「くっ!ぬかった……セズーメがこれ程までに腕を上げていたなんて……。でも、こんな短期間で何故に?」
ざしゅッ
ざしゅざしゅざしゅッ
「くあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」
こうしてキーラスは自分の放った技に拠って切り裂かれて行く。その刃の威力に拠って宙へと舞い上がり、力無く見詰めた空にセズーメの姿を見た。
「キーラス様、お覚悟を!拾の大刀・遡桜の——」
「そこまでだ、止めよセズーメ!」
こうしてキーラスは格下と侮っていたセズーメに破れた。キーラスの身の内にある高い自尊心は粉々に砕かれ、誇りは霧散し、自信は潰えた。
そんな満身創痍で傷心のキーラスの心を更に砕いたのはチッカの一言だったと言える。
「無様だな、キーラス」
恋慕の情にも似た信頼を持ってチッカを慕い、絶対的な王者として崇め奉っているチッカのその一言に因って、キーラスは全てのプライドを失い鈍い音を立てて地面に墜落し、そこでその場を静かに濡らして行ったのである。




