第七戦闘配置 第五種戦闘開始 絶叫
〜レッドの場合 其の“ Ⅵ ”の“ ⅴ ”〜
ぎゅるんッ
どろろろろろろろッ
がしッ
「ぐっ……」
「新王陛下!何故……?」
「サッカ、部隊を率いて早く逃げろッ!」
「アテシ達など見捨てて闘っておくんなまし……新王陛下を元気にもしてあげられない役立たずな番など……犠牲にして下さって構いませんのにッ!」
「サッカ、お前は充分尽くしてくれてる。だからそんなに卑下するなッ!サッカほど魅力的な女性を……俺は知らない。それにコイツは俺がなんとかする。だから早く城に戻れッ!」
俺が予想した通りになったな……。まぁ、ダンゴムシが転がって来ようと所詮はデカいダンゴムシ。俺としては鎧のお陰で痛くも痒くも無い。……が、この状況はセイギノミカタっぽくてカッコいいと俺は思う。
綺麗な女性の盾になる機会なんて一生に一度あるかないかだろ?まぁ、それで命を落としたらやってられないけどな。
「陛下……分かりました。今度こそ、誠心誠意を込めて必ず元気にしてみせますわ。——皆のもの、撤退致しますわ。そのまま城へと戻りなさいッ!——陛下どうか死なないで下さいまし……ご武運を」
「あぁ、俺に任せろッ!」
サッカ達は脱兎の如く急ぎ退いて行った。後は俺の目の前でまだギュルギュル回っているダンゴムシをどうすればいいかなんだが……本当に、このダンゴムシってどうしたら止まるんだろうな?
「まぁ、止め方なんてこうすりゃいいかッ!どぉりゃぁぁぁッ」
どぉん
「キキッシャシャ」
ぎゅるんッ
どろろろろろろろッ
俺は回っているダンゴムシを持ち上げ投げ飛ばしたんだが、ダンゴムシは再び回りだし俺に向かって突進して来た。
コイツさ、「回って突進」しか攻撃手段が無いのかな?
「今回は受け止めたりしないぜッ!掛かって来な!出番だぜ、二丁包丁」
きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん
「キキキッ……キキ?」
ぷしゅッ
ががががががが
しゅぱんッ
俺は転がるダンゴムシに対して二丁包丁の切っ先を向けて受け止める事にした。
ダンゴムシの外骨格と二丁包丁の切っ先が触れ、歯を削るような甲高い音を立てて行くがなかなか回転は止まらない。
だが何かが漏れ出したような音の後でダンゴムシの身体の中に二丁包丁はめり込んで行った……のはいいんだが、回転が止まらないままダンゴムシの身体は左右に泣き別れ、そのまま左右の身体はそれぞれ弧を描くように転がって行った。
「カブトムシが簡単に斬れたんだ。ダンゴムシならもっと簡単だろうと思ったんだが、思ったよりも簡単過ぎたな。でもどこまでも転がって行くなアイツ……。まぁ、いいや放っとこ」
ざざッ
「やっぱりな……サッカが言った通りだ。まだウジャウジャと……。——でも流石にジャングルに住むアイツらに見せたく無いからな……撤退させて正解だった」
何を見せたくないかって聞かれるとだな、今から俺が遅れてやって来た群れに対して行う事さ。
どおぉぉぉん
どおぉぉぉぉぉぉぉん
「何ですの……この音?まさかッ!新王陛下の身に何かが?」
「サッカ様?お顔の色が優れないようですが……」
「だ、大丈夫ですわ。先を急ぎますわよ。——新王陛下は任せろと仰りましたわ……だんな様、どうかご無事で」
後ろを振り返りたい気持ちを抑え、レッドの元へと駆け付けたい衝動に駆られながらも、サッカは城に向かって走り続けて行く。
今までに聞いた事が無いような爆発音に胸を掻き乱されながら……。
「流石に王サマが率先して環境破壊と道路破壊をしたらマズいよな……でも緊急避難だから大丈夫だ、問題無い!」
俺は残党の殲滅にグレネードを躊躇せずに使った。周囲は最初の時と同様に見る影もない程の状況になったが、緊急避難って事にして今度は東に向かう事にした。
そう考えると“緊急避難”って本当に便利な言葉だよな。
「くっ……多数の群れだけでも厄介ですのに、将軍が率いていたなんて……ですが、妾はこの国最強の獣人。例え相手が将軍でも引く訳には参りません」
女王エレファの前には多数の蟲族の躯が散らばっており、その凄惨たる状況はここで繰り広げられた戦闘が過酷だった事を告げていた——
女王エレファが引き連れた部隊は、会敵した蟲族との戦闘中に地中や付近の森、更には上空からも新たに群れが湧き出した事から、当初想定の三倍近い群れと遭遇した事になる。
拠って部隊は重軽傷者の増加と共に戦線の膠着どころの騒ぎではなくなり、小競り合いどころか一方的に蹂躙されつつあった。
そこで女王エレファは自身の猛獣戯画を使い、血路を開き部隊を撤退させるに至る。
そんな女王エレファに追い打ちを掛けるように現れたのが、将軍・ルカニデであった。
「例えこの命、尽きようとも一匹でも多くの蟲族を道連れにしてあげます!猛獣戯画・有象無象之森羅万象!!」
どごぉどごごごごごごんッ
女王エレファが示せる女王たる力の一端とも言える大技。百獣とも千獣とも言えるほど多数の獣達による蹂躙。周囲に部隊が残っていればそれらも巻き込んでしまう程の力の暴風。
もちろん、その暴風の中心にいる女王エレファですら、一歩でも足を動かせばその身を危険に晒す事になる諸刃の剣だ。
「な……嘘!?何故……?この中を妾に向かって……妾ですらこの中には入れないと言うのに……」
女王エレファの暴風によって蟲族の群れは瓦解しつつあった。地上を行くモノ達も、地中から現れたモノ達も、そして空を舞うモノ達も、等しく荒れ狂う暴風の餌食となり身体は圧し潰され、脚はひしゃげ、首はねじ切れ、腕は吹き飛んで行く。
そんな中に於いて、将軍だけは女王エレファに向かってゆっくりと近付いて来ていた。
「キキッキキキッキキキキッ」
「嘘です。嘘だと言って!そんなッ、嘘……よ」
ざしゅッ
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」
荒れ狂う暴風の中から安全地帯に向けて伸びた二本の折れ曲がった角。その角は禍々しくも美しく湾曲しており、所々に刃物のような鋭い突起が、血に飢えた獣の牙のように鈍く輝いている。
そんな二本の角が女王エレファの上半身を挟み込むように伸びた後、その上腕にめり込んでいったのである。
ぎりッ
ぶしゅッ
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」
ぐりッ
ぶしゅッ
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
将軍・ルカニデは執拗にその角を使って女王エレファの腕を断ち切る事無く抉っていった。その度に巻き上がる悲鳴と絶叫。その叫び声は暴風ですら、そよ風に感じさせる程の大音量で周囲に響いて行く。
色白ではなく健康的な肌の色をしている女王エレファの腕は、みるみるうちに赤く染まり、流れ出た血は更に下半身も染め上げていった。
グレーと青緑が混じった神秘的な女王エレファの体毛はその神秘性を失っていったと言い換えられるかも知れない。




