第七戦闘配置 第四種戦闘開始 誤算
〜レッドの場合 其の“ Ⅵ ”の“ ⅳ ”〜
獣人族にとって、性交はより多くの強い子孫を残す為に行われる“行為”であり、晴れて番になった者達のみに行う事が許される。
だが逆に言えば、接吻は必ずしも必要な行為では無い。拠って獣人族が接吻をする場合、それは相手に対して生命を捧げる程の覚悟が出来た時にのみ行われる。
言わば誓約とされる。
だが、レッドはその事の意味を知らない。
「その……なんだ。アッヌ達の母親の仇を俺が討っちまったな。本来ならばアッヌに討たせてやりたかったんだけど……」
「あるじ様、ありがとう。でも大丈夫。あるじ様はアタイ達の夫なんだ。夫婦の力で仇討ちが出来たんなら、母さんも喜んでくれるさ」
「それならいいが……。ところで俺はこれから北に向かう。アッヌは城に戻れ」
「イヤだ。アタイもあるじ様と一緒に行かせて欲しい」
「アッヌ……まぁ仕方ないか。俺は全力で走るから付いて来いよ!じゃなきゃ置いて行くからな」
「分かった。アタイはあるじ様にどこまでも付いて行くよ」
アッヌ……なんか変わった?俺の気のせい……だよな?まぁ前々から大胆な所はあったけど……ってそんな事を気にするよりも早く、北に向かう方が先決だったな。
「ヌッコ引きなさい!今一度撤退しますわよッ」
「サッカお姉ちゃん、ヌッコはイヤだ!ヌッコはもう、撤退なんかしたくないッ!」
「サッカ様、お急ぎ下さい。次の地点で時間を稼げなくなります」
「母様と父様が亡くなってから少しワガママを許し過ぎましたわね……。ヌッコはアテシが責任を持って連れて行きます。アナタ達は先に次の地点に向かって迎撃の準備をなさい」
サッカ&ヌッコの部隊には想定外の事態は起きておらず、小競り合いと撤退を繰り返し時間稼ぎをする作戦は成功しつつあった。
だがヌッコの発言で状況は悪化へと導かれて行く事になる。
「ヌッコは一人でも闘える!こんなヤツら、ヌッコ一人で充分だッ」
「ヌッコ待ちなさいッ!不用意に突っ込んではダメですわッ」
ヌッコはサッカの静止を聞かず、まだ数百はいる蟲族の群れへと単騎で突っ込んで行った。
ヌッコが単騎で向かってしまった以上、サッカも追わない訳には行かない。
サッカの猛獣戯画は補助に長けており、その効果範囲は部隊全域に及ぶ。決して攻撃型の猛獣戯画を持っていない訳ではないが、誰しも一長一短はある。
サッカの技の優位性は部隊の中にあってこそ光るのだ。
一方でヌッコは一騎打ちで光る。故にこのような軍相手では確実に劣勢になってしまう。それが分かっていたからこそサッカは焦っていた。
「猛獣戯画!猫踏んじゃった!」
だだだだだだだだだだだんッ
「ヌッコ、そんな技をいつの間に?」
「ヌッコだって、日頃から遊んでいる訳じゃないんだッ。ヌッコだって闘える!」
サッカにとってヌッコが一騎打ち以外でも闘える事実は、想定外の誤算だった。だが、このまま闘い続ければ数の暴力に押される事は分かり切っており、引き時を見誤る事は即ち“死”を意味するのは事実だ。
「ヌッコ、敵の数が多いのは分かっていますわよね?このままじゃ押されますわ。アテシの力と合わせて部隊で闘った方が効率的ですわよ?」
「分かったよ、サッカお姉ちゃん。ほら、次の場所に行こッ」
サッカが率いる部隊はサッカが独自の判断で、更に時間を稼ぐ方法として敵をわざと誘導していた。
群れはその誘導に引っ掛り、遠回りをして城に向かっていると言える。
しかしその後もヌッコの暴走は度々あった。その度にサッカはヌッコを追い掛け、手練手管で説得し連れ戻していた。
そんな想定内と想定外を繰り返し、北門に向かっていた群れがほぼ壊滅状態に陥った頃に異変が起きたのである。
「ヌッコ待ちなさい!ダメです、ヌッコじゃ勝てません。相手の格が違い過ぎますわ」
「相手が将軍でもヌッコ一人でヤってやるんだあぁぁぁぁッ!猛獣戯画!上手の猫が爪を隠す!」
がきぃぃぃぃぃぃぃんッ
「えっ?うそ……。嘘だウソだうそだッ!ヌッコはノーラだ、ノーラの牙が届かないハズが無い!」
がきんッがききんッ
がががッががきんッ
「猛獣戯画——」
「避けて!——ッ!?ヌッコおぉぉぉぉぉぉぉッ」
どんッ
「サッカお姉……ちゃ……ん」
ヌッコの猛獣戯画は敵の将軍の外骨格に阻まれ弾かれていた。それに逆上したヌッコは更に連撃を以って攻撃を繰り返すが、技が届かない外骨格にただの攻撃が届く道理は無い。
しかし将軍はそんな単調な攻撃に飽きたと言わんばかりにヌッコから距離を取って身体を丸めると、大地を転がりヌッコに体当たりをしたのである。
その体当たりをまともに受けたヌッコは力無く空を舞っていた。
「アッヌ、疾走れッ!」
「分かってる、あるじ様!」
がしッ
「だんなさ……いえ、新王陛下ッ!それにアッヌも!」
「サッカ、無事か?アッヌ、ヌッコの容態は?」
「息はある。でも早く治療をしないとッ」
「アッヌ、ヌッコを連れて急いで城に戻れ!絶対に死なすなよ」
「分かった!」
「何故、新王陛下がここに?それにアッヌも……」
アッヌに続き、ヌッコも間一髪だった。いや、ヌッコは一撃貰ってるから間一髪とは言わないかも知れないが、アッヌのナイスキャッチがあり、地面に叩き付けられずに済んだと言う意味では間一髪だ。
「サッカ、部隊は全員無事か?」
「度重なる戦闘で負傷している者も多いですが、将軍・アルマジリジウム・ブルガレが相手なのです。多少の負傷で泣き言は言わせませんわ」
「残りはその……なんとかブルガ…………あのダンゴムシだけか?」
「はい、残りの蟲族達はここまでの道中でほぼ殲滅致しましたわ。後方から残党が来る可能性は残りますが……」
「ならば、サッカも部隊を連れて城に戻れ」
「ですがッ!相手は将軍、新王陛下の手に余るやもしれませんわ」
なんで蟲族ってのは変な名前なのかな?アルマなんとかより、ダンゴムシの方がよっぽど形状が分りやすいと思うんだけど……。
とまぁ、そんな事はさておき、俺の前には丸まったダンゴムシ、俺の後ろにはサッカとその部隊って状況だ。
もしもだけど、このダンゴムシがさっきみたいに突進して来たら、俺は避けられない。だって避けたらサッカや部隊の兵士達がヌッコの二の舞になるからだ。
その事も踏まえてサッカには早く逃げてもらいたいんだが、サッカはサッカで変な使命に燃えている様子だった。




