第七戦闘配置 第三種戦闘開始 覚悟と新たなる覚悟
〜レッドの場合 其の“ Ⅵ ”の“ ⅲ ”〜
「イッマ姉!部隊を早く城へッ!猛獣戯画・“犬も歩けば棒に当たる”ッ!」
どどどどぉッ
「アッヌ!もうやめるんだッ!それ以上は身が持たないんだよッ」
「蟲族の進軍速度が思ったよりも速かった。ここでアタイが止めるしかないんだッ!アタイが殿を努めている間にイッマ姉は部隊を連れて早く城へ」
イッマ&アッヌが向かった西門に至る道。サッカの見解よりも早く接敵したのは誤算でしかなかった。
斯くして城から離れた場所で会敵し、小競り合いと撤退を繰り返す作戦は早々に瓦解し、少しでも多くの蟲族を倒す為に獣人族の部隊は奮戦していた。
だが、道を進まずに森の中を進軍していたフォルミチデの群れが、ウジャウジャと湧き出した瞬間に戦況は悪化の一途を辿る。
イッマもアッヌも猛獣戯画を使って迫る蟲族の群れを薙ぎ払って行くが、数の暴力の前に部隊の負傷者は増えていった。
更に悪い事は重なっていた。アッヌはこれまでに猛獣戯画を三度使っており、身体は限界に近付いていたのである。
「イッマ姉、早く!アタイは今日、調子がいいんだ。技の威力も上がってる。猛獣戯画もあと二回はイケる。こんなヤツらアタイ一人で充分だ。それに部隊の負傷者も増えてる、だから早く撤退してッ!」
「アッヌ……死んだらボクがごしゅじん様とイチャラブなんだよ!」
「ぶっ……イッマ姉……その時は化けて出てやるッ」
「本当に死んだら駄目なんだよーッ!みんな、活路を開いて城に向かって撤退するッ。ボクに続けえぇぇぇぇぇぇぇぇ。猛獣戯画——」
イッマは部隊を引き連れて戦線を離脱して行った。一人残ったアッヌの前には、まだ数百近い群れがある。
「アタイ一人でもやってやるさッ」
ダっ
「どおぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁ」
そこからのアッヌは孤軍奮闘でありながら獅子奮迅の勢いで一騎当千の働き振りだったとしか言いようが無い。蹴りを主体にした攻撃を駆使し蟲族を蹴り飛ばし、迫る攻撃を腕の体毛でガードしつつ蹴り飛ばす。
同時に強襲して来た蟲族に対しては多少の傷を負いながらも蹴り飛ばして行った。
その強力な蹴りが一度二度と繰り出される度に「ぱきゃッ」と音を立てながら蟲族は一匹また一匹と数を減らして行ったのである。
「これならッ!猛獣戯画・“犬も歩けば棒に当たる”ッ!」
どどどどぉッ
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……ど……どうだぁ……これっぽっちの群れ、アタイ一人でも……はぁ……はぁ……」
がざッざっざっ
「ッ?!また……新手……?使えるのはあと一回……でも使えばもう……」
「キキキッキシャシャッ」
「ッ!?将軍・トリポキシラス・ディチョトモス……だと?あの時、母さん達が命懸けで倒したのに……なんで生きているんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」
アッヌは絶叫し、悲鳴を上げている身体に鞭を打ち、新たに現れた将軍に対して突進して行った。
どごぉッ
「な……にッ?!アタイの蹴りが、止められ……どわあぁぁぁぁぁッ」
ずざざざざざッ
どおぉぉぉぉん
「キキキッキ」
「クソったれ!アタイじゃまだ母さん達に遠く及ばないってのか!でも、ここでお前を倒さなきゃいけないッ!アタイはノーラなんだッ!でやぁぁぁぁぁぁぁぁッ」
アッヌの突進からの蹴りは将軍の硬い外骨格に阻まれて弾かれ、即座にトリポキシラス・ディチョトモスの頭部にある角に拠ってアッヌは投げ飛ばされてしまった。
だがアッヌの戦意が途絶える事は無く、投げ飛ばされながらも直ぐに立ち上がると再び突進からの蹴撃の連打が始まったのだった。
ががががががッ
がががががががッ
「硬過ぎる。アタイの蹴りが効かないなんて……。それならもう最後の手段しか残ってない!命を賭けてでもコイツだけは倒してみせるッ!猛獣戯画——」
どごぉッ
「ぐはッ……アタイのお腹の体毛でも守れない程、将軍の拳は重い……のか」
「キキッキキキッ」
命懸けの猛獣戯画を発動しようとした矢先、トリポキシラス・ディチョトモスの重たい拳がアッヌの腹にめり込んでいた。その一撃の衝撃にアッヌは耐えられず崩れ落ち、膝を地面に付き蹲ってしまったのである。
「まだ……死にたく……ない。まだ、あるじ様とシたい事……いっぱいあるんだ……。アタイはアタイはッ」
「キキキキッ」
「駄目だ、アタイの勝てる相手じゃ……ない。助けて、助けてよ、あるじ様ーーーーーッ」
ざしゅッ
ざしゅざしゅッ
「待たせたな、アッヌ!助けを呼ぶ声にレッド参上!!」
なんとか間一髪って感じで間に合ったぜ。ってか駆け付けて正解だった。そこには、見た感じがヤバそうなカブトムシに、今にもヤられそうなアッヌがいたからだ。
まぁ、駆け付けがてらにカブトムシの角は切り離しておいたけどな。
「よくも俺の妻に手を出してくれたなッ!俺が成敗してやるぜッ」
「あるじ様……」
「アッヌ動けるか?動けるなら下がっていろ」
「あるじ様、ソイツは将軍・トリポキシラス・ディチョトモス。かなり強いよ。そして、母さん達の仇だッ」
「ジェネラルトリポ?なんだかよく分からない名前だが、ただのカブトムシに俺は負けたりしないッ!それにコイツがアッヌ達の母親の仇ってんなら、絶対に負けられないッ!俺はセイギノミカタだからなッ」
俺のセリフ、キマったと思う。こういったカッコいいセリフをジャスティスファイブの時に言えたら、もっと俺のファンも増えてたと思うんだよ。
でも大抵、こんなセリフは必ずボス怪人を倒すブラックに持って行かれてたからなぁ……。
「二丁包丁・微塵切りッ」
しゅばばばばばばばばばばばばばばばッ
「キ……キ……シャ……」
ぼたぼたぼたぼた
「凄い……あの将軍をいとも簡単に倒しちゃうなんて」
俺の包丁捌きでカブトムシは微塵切りにした。カブトムシの微塵切りなんて日本にいた時はやった事ないし、カブトムシを微塵切りにして喜ぶ程サイコパスじゃないから、そこんところは分かっていて欲しい。
「アッヌ、大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます。あるじさ……いえ、新王陛下」
「アッヌ。呼び辛いなら今まで通り呼んで構わないぜ?」
「ですが、新王陛下。それは不敬と言うもの……です。アタイは新王陛下の家臣なのですから……」
「アッヌが俺の家臣だとしても、俺にとってアッヌは妻だって事に変わりはないぜ。アッヌの呼びたいように俺を呼べばいい。その事で文句を言うヤツがいたら、俺がぶっ飛ばしてやるさ」
「あるじ様……」
「ところでアッヌ。イッマや率いていた部隊はどうしたんだ?」
「サッカ姉の見立てより敵の行軍速度が大分速く、思ったように作戦が上手く行かず……更には蟲族の増援が現れ負傷者が多数出ましたので……」
「撤退させて、一人残ったってのか?」
「はい……」
俺は目頭が熱くなっていた。仲間の為に自分を犠牲にしようとしたアッヌに対して、愛おしさを感じてしまったからだ。
俺の過去の仲間達は自慢じゃないが自分を犠牲にする事無く、他人を犠牲にしてでも自分を守ろうとした連中だったからなぁ……。
でも、俺はちゃんと言わなきゃならない事は理解してる。
「アッヌ……聞いてくれ。お前が一人犠牲になって大勢が救われたとしても、俺はアッヌが死んだら悲しい。仲間の為に自分を犠牲になんてするな。だから、自分を犠牲にしなくてもいい方法を考えて、皆で必ず生き残るんだッ」
「あるじ様……」
俺の気持ちはちゃんと伝えた。そんなアッヌは涙を流しながら俺に近付くと、その柔らかくハリのある唇を俺に重ねて来た……。
俺は突然の事に動揺していたが、元から赤い顔の為に紅潮していたとしても気付かれない事を祈るばかりだった。




