第七戦闘配置 第二種戦闘開始 女郎蜘蛛
〜レッドの場合 其の“ Ⅵ ”の“ ⅱ ”〜
俺は走っていた。この国には乗り物が何も無いからだ。自動車や電車があるような文明レベルではないし、騎乗出来る「動物」としての馬もいない。
元々獣人族は脚力などの身体能力に優れている種族らしく、獣人族が本気で走れば60km/hくらい出るらしい。それだったら軍用馬に跨って走らせるよりもよっぽど速い……かもしれない。
サラブレッドの方が時速は出そうだが、そんな突っ込みはナシだ。
一方で俺は鎧のお陰で速く走る事が出来る。全力で走ればそれこそ高速道路で自動車に負ける事は無い。実際にそんな事をしたら、後日警察に捕まるのは目に見えているが……。
拠って、城から出て走り出した俺は城門まで数分と掛からなかった。城門の衛兵は俺の顔を見て短く悲鳴を漏らしていたが、俺が何も言わなくても開門してくれた。
ところで、人の顔見て悲鳴を上げるとか……失礼だよな?
「あれがコチ……なんとかと、フォルム……いやなんか違う名前だった気がするが。ってか、てんとう虫と蟻……だよな。てんとう虫と蟻って仲が良くないって昔聞いた気がすんだけどなぁ……」
そんな事はどうでもいいが、俺は小高い丘の上にいた。ジャングルと言ってもただの平地に木が生えてるだけって訳じゃない。周囲にはちゃんと丘もあれば山もある。森の中からは茂った木が空を覆い隠しているから、それらが見えないだけだ。
俺は城門を出て暫く走った後で、群れの動向を窺える場所を探すべくジャンプした。そうしたら道路に近い場所に丘が見えたから、次はそこに向かって二度目のジャンプをしただけだ。
その跳躍力も鎧の性能が為せる技ってヤツさ。
そこから俺は群れを見ていた訳だが、南門に向かう道を黒と赤が埋め尽くしている光景は、虫嫌いのヤツなら卒倒しそうな感じだ。
俺は虫嫌いじゃないからそんな事はないけどな。ちなみに道路の様子まで木に覆われて見えなかったらどうしようかと思ったが、それは心配無用だった。
「取り敢えず、手っ取り早くここを片付けないとな。でも、虫だから暗黙の了解は無いよな?」
暗黙の了解……それは一般兵の命を奪ってはいけないって事だ。悪の組織の怪人と違って、一般兵はバイトのヤツが多い。バイトって事は鎧を着ただけの一般人だ。
だから、戦隊ヒーローがそれを破って一般兵を殺すと損害賠償請求が来る場合もあるって事なのさ。
まぁこれは前にも言ったが、一般兵は倒してもヒーローの給料に反映されないから倒す必要もないって意見もある。
しかしその“暗黙の了解”が、この世界で通用するとは思わない事にして、俺は早々に武器を呼び出すとモードを変えていった。
「二丁包丁グレネード連射モード。行っけえぇぇぇぇぇ」
ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽッ
どごん
どごごごん
どごごごごごごん
俺の二丁包丁からグレネードが最大五発ずつ計十発、てんとう虫と蟻の群れに向かって投げられて行った。
ちなみに群れまでそこそこの距離があるが、飛距離は出るから問題は無い。
銃口から発射されたグレネードは次々と大爆発を起こし、またたく間に森と道路はその姿を変えていった。
幸いな事に森林火災には至ってないが、爆発の影響で木々は薙ぎ払われ大地は抉れ、爆発をまともに受けた群れは取り乱している様子だった。
俺はグレネードをリロードすると更に斉射し、それこそ数分もしない内に群れは壊滅した。
そもそもこのモードはアクトウダンに使った事は無い。使えばそれこそ“暗黙の了解”に引っ掛かるからだ。念の為に昔、トリセツを読んだ事がこんな形で実を結ぶとは思ってもみなかったが……。
「終わった……か?案外呆気なかったな。まぁ、ジャングルの木を粉々にして道路を穴ボコだらけにしちまったが、有事だから仕方ない。緊急避難だッ!」
ざざざッ
「ッ?!……って、アレってクモだよな?でもちょっと待て、大き過ぎるだろッ!あんなの群れの中にいたか?」
南の群れは壊滅したが、その中で異様に大きいクモだけは生き残っていた様子で、額にある八つの目で俺を見据えながら、俺のいる丘に向かって来ていた。
それこそ道無き道を進みながら。
「あんだけ大きいんなら、グレネードの影響があった筈なんだが……ってか、俺を狙ってるよな」
ざざざッ
だだんッ
「キシャシャシャッシャシャーッ」
そこまで広くない小高い丘の上で俺とクモは対峙した。正確には俺の退路を断つ感じでクモが飛んで来た……ようにも見えた。
「仕方ない。二丁包丁モード」
「キキキシャ」
だだんッ
だだだんッ
狭い場所で退路を断たれた上、グレネードなんて使ったら自殺志願してるようなモンだから、通常モードに戻した訳だがそれにしてもデカい。一軒家くらいの大きさがあるクモなんて見た事ないぞ。
でもま、倒さないとダメなのは分かってるから取り敢えず手に持つ二丁包丁に火を吹かせる事にした。相手の図体が大きい事が幸いして、その弾丸はクモに命中していったんだが、弾丸が当たるとその部分は弾け、その際にクモは何本か足を失った様子でバランスを崩し、そのまま下のジャングルに落ちて行った。
なんだろ……意外とこのクモ弱い?俺はそんな事を考えながらも、追い打ちをかける為に丘から身を投じた。
だんッ
「ふぅ……。けっこうあの高さから飛び降りるのって勇気がいるんだな……ジャンプと飛び降りだとなんかこう……でも、鎧様々ってヤツだ。痛くも痒くも無い!」
「キキキキシャ」
「あの高さから落ちてまだ生きてるのか?じゃあ、今のうちにトドメを刺させてもらう」
ざしゅざしゅッ
しゅばんッしゅばばばんッ
俺は落っこちて弱ってたドデカクモにトドメを刺す事に成功した。これが怪人だったら給料のベースアップは間違い無いが、俺は所詮“元”だ。それに今は国の王サマとしてやるべき事をやらなきゃならない。
ってか、王サマって給料あんのかな?
「いや、待てよ?さっきの軍議で名前が上がってたのは二種類。それがてんとう虫と蟻なら、コイツはなんだ?他の場所にもこんなヤツがいる可能性だって……」
俺は嫌な予感がした。このドデカクモは俺にとってはザコに近かったが、獣人族からしたら脅威になり兼ねない気がしたからだ。
獣人族は基本的にはその高い身体能力と体毛を使った肉弾戦だ。国民全員と闘った際に武器を使うのも多少はいたが、少数派だし肉弾戦でこんなドデカクモは倒し辛いだろう。
「ここからなら西の方が近い。西に向かったのはイッマとアッヌだったな。どうやら手助けをする必要がありそうだな」
俺は俺の直感が告げた嫌な予感を否定するべく、西の道路へと向かってジャングルの中を突き進む事にした。両手に握る二丁包丁で森林伐採を繰り返しながら……。




