第七戦闘配置 第一種戦闘開始 この世の終わり
〜レッドの場合 其の“ Ⅵ ”〜
夫として不能だった俺に対して、サッカは何も言わなかった。サッカは色々と試してくれたが俺のムスコはピクリとも大きくなろうとしなかった。
ってか、この世界に来てからトイレすら行ってない俺だ。本来ならば出すものを出さないと人間としてダメなのは分かってるが、出る気配は大きい方も小さい方もゼロ……。
そうなると、俺はもう既に人間を辞めてるんじゃないだろうか……なんて思わざるを得ない。
そもそも「人間」は伝説上の生き物らしいから、ここに俺がいる事自体が間違っているんだろう……な。
斯くして俺は四人の妻達に何も出来ず、望みを叶えられないまま居住地を変える事になった。(その内一人は何も望んでいないが……)
何故ならば王位を禅譲され新王として即位した為に城の一室へと移る事になったからだ。
新たな俺の寝室には今度は毎日のように女王サマが訪れて来る。ただ、新たに妻になった女王サマに対してもサッカ達と同様に夜の営みは出来ず、女王サマも女王サマで色々と試してくれたが俺のムスコは一向に音沙汰無しの日々が続いた。
こんこん
「新王陛下、いらっしゃいますか?」
がちゃ
「陛下はお休みになっておられます。妾が要件を聞きましょう」
「女王陛下!?その、おはようございます」
「わざわざ挨拶をしに来た訳ではないのでしょう?要件を……」
「実は急ぎお伝えしなければならない事態が発生しまして——」
俺は寝惚けながらそんな話しを聞いた気がした。昨夜は女王サマが諦めるのに大分時間が掛かった。その為に寝たのは空が明るくなり始めた頃で、まだ寝始めてから数時間も経っていない。
「ふわぁ……あれ?女王サマ?一緒に寝ていたと思ったんだが……そう言えばさっき、誰かが呼びに来たような気がする……」
どたばた
がちゃがちゃ
「なんか外が騒がしいな。何かあったのか?それならば様子を見に行ってみるか」
俺はまだ眠い目を擦りながら寝室を出て、城の廊下を進んで行った。途中で誰ともすれ違う事なく歩を進め、城の中庭に物々しい様子で女王サマやサッカ達、兵士が勢揃いしている光景を見た途端、その足は速度を上げていた。
「何事だ?」
「だんなさ……いえ、新王陛下。火急の事態に御座いますわ」
「新王陛下には妾から説明します。サッカ達四天王は部隊の編成準備を急ぎなさい」
俺が中庭に到着し声を掛けた瞬間から慌ただしくなった。実際は俺が来たから忙しくなった訳じゃないだろうが、「火急の事態」とサッカが言っていたので何かしら大事が起きたのだろう。
「新王陛下、一大事でございます。今朝方、各地の物見の兵から蟲族の群れがこの城に向かっていると報告がありました」
「蟲族?あぁ、あのカマキリみたいなヤツらか?」
「カマキリが何の事か分かりませんが、今回迫って来ている群れはコチネリデを先頭にフォルミチデが続く混成群のようです。そして東西南北全ての城門に向かって来ており、その数四千余りと……」
「四千……確か、この国の兵士って……」
「正規兵六百。予備役六百で御座います。民兵も含めれば少しは増えますが……」
千二百対四千……数だけで言えば勝てる相手じゃないのは分かった。俺が戦隊ヒーローだった頃は、アクトウダンの幹部クラスの怪人が引き連れた時ですら一般兵が多い時でも数百人。単純な小競り合い怪人の時は数十人くらいだ。
五対数百でも大変だったのは今でも覚えてる。実際、ブラックとピンクが殲滅したようなモンだったしな。
だが今回はそれよりも多い。かと言って、王サマになった以上、手をこまねいている訳にもいかないだろう。
「新王陛下、四天王が戻り次第、軍議を行いますが同席されますか?」
「あぁ、俺も出させてもらう……が、その前に、なんで俺を起こさなかった?」
「昨夜は……その……妾の為に明け方まで起こしてしまっていましたので、少しでも寝ていて欲しかったのです……」
「そ……そうか。なんか俺の方こそスマン。期待に応えられなくて……」
はぁ……気まずい。サッカの時もそうだったし、三人で寝室に来た時もそうだった。いつも目を輝かせて入って来て、肩を落としながら部屋から出て行く姿を見る度に俺は申し訳無く思っていたからだ。
せめて罵ってもらえれば少しは気が楽なんだが……でも、俺にそんな趣味は無いから、罵られたらそれこそこの世の終わりみたいな顔をするかもしれないが……。
それでも少しは気が楽になるのは事実……かもしれない。いや、それでもこの世の終わりみたいな……って、なんだかエンドレスリピートになるからそこで考えるのは一旦止めた。
そんな気まずい状況で待つ事十数分。軍議を行う部屋に向かう途中も気まずいままで、冷めきった夫婦みたいな感じだった。
そんな状況を覆したのは、新たに放った斥候からの報告と四天王・ノーラ四姉妹がほぼ同時にやって来た時だ。
要するにその流れで軍議が始まったから気まずさは顔を隠したって事になる。
「蟲族の進軍速度から考えて、城に到達するのは速くて一時間後くらいになりますわね?遅くても三時間程度……」
「敵の数が多いから、籠城するんだよッ」
「イッマ姉!籠城するにしても数が多過ぎて城門が突破される恐れがある。それに一時間しか無いんじゃ籠城準備をしてる時間が無さ過ぎるッ」
「ヌッコは撃って出たい!日頃の鬱憤を蟲族共にぶつけてやるんだッ!」
戦争の経験なんて……俺には無い。だからこんな軍議に参加するのは初めてだ。だが、聞いていると皆の意見が正しく思えて来ていた。拠って俺が提案したんだが……。
「分かりました。だんなさ……いえ、新王陛下の意見を尊重してその作戦で参りましょう」
「えっ?本当にいいの?」
「新王陛下が単騎で撃って出られる事に心配はあります。ですが、新王陛下の作戦が一番勝率が高い気がします」
「えっ?そうなの?」
俺が提案した作戦。それは正規兵を三つに分け、サッカ&ヌッコ、イッマ&アッヌ、女王サマにそれぞれ一部隊ずつ率いて貰う作戦だ。
サッカ達は北に、イッマ達は西に、女王サマは東に。残った南は俺が単騎で向かう……そんな作戦。だが、各部隊が群れを殲滅する必要は無く、小競り合いと撤退を繰り返す事での時間稼ぎが目的だ。
その時間を稼いでいる間に予備役と民兵で籠城準備をしてもらう。最終的には準備が終わった城を使って籠城戦で蟲族を撃退する予定だ。
「この作戦は如何に時間を稼げるかが勝敗を分けます。四天王達よ、準備が終わった段階で戦場へと向かいなさい!」
「「「「はッ!!」」」」
こうして作戦は実行される事になった。サッカ達ノーラ四姉妹は我先にと部屋を出て行き、その場に残ったのは俺と女王サマの二人。
「新王陛下……ご武運を!」
「あぁ、女王サマも!」
「その……新王陛下……新王陛下は妾と番になってから一度も……いえ、なんでもありません。失礼しますッ」
その言葉を残して女王サマは部屋を出て行った。俺は「一度も……」の続きが凄く知りたかった。「一度も抱いてくれない」なのか、「一度も気持ち良くしてくれない」なのか、更にそこから繋がる続きが聞きたかった。
これは罵られた……のか?俺には分からない。俺のムスコが勃たなくても、女性を気持ち良くする方法はある筈だ。俺はそれを今まで誰にも一切して来なかった。だから罵られたのだろう……な。
だってさ俺……経験なんて一度しかないし、その時は為すがままにされてたんだから……。
俺は最後に部屋を出たが、たまたますれ違った非戦闘員の召使いは「ヒィッ」と短く悲鳴を上げていた。




