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異世界管理人ワタナベ  作者: 千歳 翁
8/10

第一話 予感 5

「っふぇえええ、危なかった。ってかワタナベさん。やるならもう少し早くやってくださいよ。確かに読者からすれば2000文字くらいの戦闘だったかもしれないっすけど、俺からすれば危機一髪だったんすからね」

「…見ろ」

「はあ??? ちょっと話題変えないでもらえ…」


 ワタナベが向けた情報へと視線を動かすと、先ほどまで森全体を覆っていた瘴気は、一切が消え去っていた。死体も、悪魔も、何もかも。それは、ある種異常といってもおかしくないようなものだ。

 

 「どうやら奴らの弱点は「夜明け」らしい。引いていくぞ」


 太陽の光がゆっくりと、森の木々から差し込むにつれて、黒い瘴気はその発生源の方へと戻っていった。それと共に、森の中に転がった死体が姿を現し始め、草木や鳥が生命の息吹を口ずさみ始めるのが分かった。

「…おーーい、嬢ちゃん。もう出てきても大丈夫だ」


 岩陰に隠れていた少女は、恐る恐る周囲を確認した。いったいどうやってあの怪物を倒したのか・・・しかも、その死体はどこにも倒れていない。


「……いったい、どうやって倒したんですか?」

「どうやったも何も…ちょちょいのちょいっすよ」ティモンがティナに向かってそういった。手元で指をくるくると回すのは、彼の癖である。

「……あんた、このあたりの人間か?」


ワタナベの言葉に、警戒心をむき出しにしながら、しかしティナは静かに頷く。すぐさまティモンは周辺の地形情報を|世界録≪ワールドログ≫から引きだしながら調べる。


「…すぐ近くに、ロルフという名前の村があるみたいっすね。お嬢ちゃんはそこの人っすか?」

「……」


ティナは身構えたまま、鋭い視線でじっとティモンを見つめる。可愛らしい少女の顔からは想像もできない、覚悟のある表情に、思わずティモンは身じろぎをする。


「誰なの、あなたたち。帝国の軍人?それとも夜盗? あの術式だって見たことがない。それに、この森は本来人の立ち入らない場所。転移の魔方陣だって書かれてなかったのよ」

「ずいぶんと、魔法には詳しいようだな」


ひきつった顔で、ティナはワタナベの方をじっと見た。禿げ上がった頭、横に引き締められた唇。堀の深い表情を見て、それが帝国の人間のそれのようにも見えたのだ。だが、来ている純白の鎧や見たこともない武器。そして、現に自分を助けようとした人間であることを考えると、彼女は決して信用していないわけではなかった。


一言で言えば、矛盾。目の前の便宜上純白の騎士とでも呼ぶべき存在は、いったい何なのだというのだろうか。


「俺たちは、ここの世界の人間じゃない。この装備も、武器も、鎧も、別の世界から来た」

「……ど、どういうこと?」未だ警戒心をむき出しにしながら、少女は口走る。

「時に聞くが、『転生者』という言葉を知っているか?」

「……伝説の存在のこと?」

「と、どの次元でも言われる存在っすね。」ティモンは破損した部品を拾い上げ、それぞれをメンテナンスする。いくつかの部品は修復しなければ使えない。先ほどまでティモンを拘束していた小型のデーモンたちは、日の光が現れた瞬間、これらを残して姿を消していたのだ。


「簡単に言えば、俺たちも似たようなものだ。本来、民間人の前に姿を見せるようなことはしないはずだったんだがな」

「……じゃあなぜ?」

「…か弱い少女がデーモンに生きたまま食われるところを見る趣味は無い」


 口から放たれた残酷な言葉に、ティナはすこし怯えた表情を見せる。


「大丈夫っすよ。ワタナベさんはちょっと怖いことをいうおじさんなんです。それに、悪い人じゃないっす。今だって、俺たちの目的はあのデーモンや黒い霧がどこからこの次元に侵入してるかを突き止めることにあるんですから」

「……味方?なの」

「とりあえず今のところはそうっす。それより、ケガとかはないっすか?」

「…大丈夫。擦り傷くらいなら、自分で治せるから。……『治癒』…」


ティナが自らのひざにできた傷に手を当て、静かに言葉を口にすると、青白い光が体の傷を癒していく。決して高度ではないとはいえ、彼女が知っている数少ない呪文の一つだ。


「……驚いたな。まさか、まだ魔法使いがこの辺りに残っているとは」

「どういう意味っすか?ワタナベさん」ティモンは立ち上がりながらワタナベに聞く。

「ここへ来る前、マミが見せてくれた書類はちゃんと読んだのか?」

「え、あ、いや、えっと…ほら、すぐに出発だったから準備できなかったっていうか…」

「ティモン!!!!」


ワタナベが軽く怒鳴りながら、ティモンを睨みつける。その威圧に、思わずティナも身をかがめてしまう。


「潜入前に潜入先の次元の情報くらい頭に叩き込めと言ったはずだ」

「…次は善処するっす……」

「…はあ、まあいい」ワタナベはため息交じりにつぶやいた。「とりあえず、この少女を連れて一度本部に帰還するぞ」

「次元内部の住人を連れて帰るんですか!!!!」

「この帝国じゃ、「魔術師狩り」が行われている。女子供も例外なく、だ。それに、当局への接触は可能な限り避けたい。とりあえずはこの子を保護する」

「でもそれは規則上例外的なことじゃないんすか?」

「今がその例外だ。潜入先にいた貴重な情報源であり、偶然とはいえ俺たちの姿を目撃した。該当地域の世界に関する大まかな情報も知っているうえ、『魔法』に該当する概念も知っている。話を聞いた後に記憶を消せば問題はない」

「……了解」


ティナは目の前で二人の交わす会話の意味を、限定的にしか理解していなかった。すぐさま、こちらを向いた二人に思わず圧倒されそうになりながら、恐る恐る近づく。


「嬢ちゃん。悪いが、一度俺たちと一緒に来てもらいたい。ここじゃ、また怪物たちが襲ってくる可能性もある」

「自分の身くらいは守れる…それに、あたしだって子供じゃないし」

「俺たちがいなきゃ、今頃土に還ってる」


その言葉に、ティナは何も言い返すことができない。


「…ティモン。『次元(ディメンション)渡航(ウォーク)』の準備をしろ。本部に帰還する」

「さ、お嬢ちゃん、準備をするぞ」


ティモンはティナの体に、特殊なデバイスを装着しながら、それぞれの機械の動作をチェックしていく。最も、ティナはこれらの技術を目の当たりにしたことは一度もない。


「……絵本の中のドワーフたちでもこんなのは作れないわ。いったいどうやって!?」

「質問が多い女は嫌われるぞ」少しのいじわるを混ぜながら、ワタナベは口にする。


「さあ、起動するぞ。しっかりティモンにつかまってろ」


 ほんの数秒。小さな時間をおいて、突然世界の姿が真っ白な光の空間に吸収される。それと同時に、さきほどまであった地面や森が光の向こうに消えていき、真っ逆さまに墜落するような感覚に陥った。反射的にティナは、抱きかかえているティモンの首にしがみつき、恐怖から目をそらして抱き着いていた。


「な!!!何よ!!!これ!!」

「少しの辛抱っすよ!!」


 その日、『ロルフ』とつけられた村にいたおよそ1400人の兵士と、170人ほどの村人たち、そして名も知れず世界を訪れた彼らは、こうして姿を消してしまった。この事件が、やがてこの世界をめぐる恐ろしくも奇妙な冒険譚の始まりになるなど、その時は誰も予想していなかったのである。


ぬえへへへへへへ(東北きりたん)

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