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異世界管理人ワタナベ  作者: 千歳 翁
2/10

プロローグ #2

「どーでしたっすかあああ、ワタナベさああああん」


背後から聞こえた声に頭を抱える。ワタナベの脳には、いつも声の大きい後輩の顔が浮かんだ。嫌でも特徴的な声のせいで、先ほどまでの緊張感がどこかへと消えてしまう。金髪のいかにも好青年、と言った見た目の彼こそ、ワタナベの相棒、ティモンである。白い歯をキラキラかがやかせ、大抵の対人交渉は彼がやっている。社交においては頼りになる男だ。ただ明るすぎる点が扱いずらい。プンバがいればサバンナじゃ最高の友になっていただろう。


「ティモン!そういう馴れ合いは後にしろ」

「えーーー、だってしょーがないっすよ。せっかく俺たちの初仕事が終わったってのに」

「あのなぁ、俺は今の今まで上司に報告してたんだ! お前みたいに呑気じゃいられないんだよ」

「あ、そーっすよね。はい、これコーヒーっす」


投げられたコーヒー缶を、落としてしまいそうになりながらも手でキャッチしたワタナベは、ちいさくため息をついた。真っ白な壁を行きかう他の職員を横目に、二人は歩き始める。


「『世界管理部門』って、こんな無機質な場所なんすね。なんか他の職員も顔が暗いっすし、あ、でもワタナベさんは頭が輝いてるから問題ないっすよね!」

「お前はいつになったら俺のハゲいじりをやめるんだ?」

「死ぬまでやめないっす」

「おい」

「髪が生えたらっすけど、育毛剤全部無駄だったんすよね?きっとそれ、遺伝っすよ、い・で・ん」

「俺の親父はフサフサだったんだよ。第一、お前にハゲの何が分かるって言うんだ」


缶コーヒーを口に流し込みながら、ワタナベはそういう。対するティモンはと言えば、空になった空き缶を指の上でくるくると得意げに回している。天井の照明が、ワタナベの頭を何度も反射するためか、壁には時々、白いまだら模様が浮かんでいた。


「それで、肝心の内容はどうだったんすか?」

「……相変わらず、池崎・ゴット・ジュニア課長は忙しそうだ。あの様子じゃ、俺みたいになるのも時間の問題だな」

「あっ、!ワタナベさんとティモンさん!お疲れ様です」


不意に、正面からかかった声に、二人は顔を向ける。丸眼鏡の長髪の女性が、こちらへ手を振りながら駆け寄ってくる。ただし、ティモンの視線は彼女の放漫な胸に対してである。


「ちょうどいいところだ!いっしょにご飯でもってああああああ!」


白衣の裾を踏みつけた彼女の体が宙を舞い、回転して床に落ちた。どうしたらこんな転び方をするのか分かったものではないが、そう転んでしまっているのだから致し方ない話である。胸元に抱えていた書類が吹雪のようにひらひらと舞いながら床へ落ちる。まーた転んでるよこの人、とティモンが口にしたのと同じことを、ワタナベも思っていた。


「大丈夫っすか? マミちゃん。けがしてないっすか?」

「だ…大丈夫だけど…ごめんね。あたしったらまた…」

「ティモン、視線がさっきから動いていないぞ。下心を丸出しにするのはその辺にしておけ」

「ゲッ!?ばれてた!?」


拾った書類の隅を整え、マミに渡したワタナベはその表紙を小さく口で読み上げた。


「…774系時空の異常に関する報告書」

「そうそう、ちょうどよかった。二人が担当だったよね。ごはんでも食べながら、詳しくは説明するわ」

「マミちゃんとご飯だ!イエエエイ」


仕事人は、しかし食事に興味はなかった。書類の数枚に印刷されていた、巨大な生命体の姿が頭について離れなかったのである。


資本主義の犬 = Capitalinu

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