プロローグ~ある老人の死
その日は抜けるような青空だった。地上から見上げると仮名の「へ」の字になった四機編隊が飛ぶ。「へ」の字の頂点は古めかしい複葉機がいる。複葉機から見て右後方には一機、デルタ翼の機体が続く。左後方には二機、優美なカーブのオージー翼をもった一際大きな機体とプロペラを持った単葉機。四機は地上で喪服をまとった人たち集まっている場まで直進し、彼らが見ている中で一機だけ──オージー翼の機体のみが垂直に上昇をはじめた。残りの三機は直進した。やがて四機とも視界から消え去り四筋の飛行機雲だけが残された。
ミッシングマンフォーメーションと呼ばれる死者に対する追悼のための編隊飛行であった。通常は同種の飛行機で行われるが、この日は特別に大きさも速度も全く異なる四機での実施であった。先頭を行く複葉機の速度が遅いため、オージー翼とデルタ翼の機体は着陸脚をだしたまま、失速直前の速度で飛行するような状態であったが、関係者の熱意により実現された。
その日は国の航空機技術を牽引していた一人の老人の葬儀があった。四機は彼の作品だった。享年四百九十八歳。「竹人」あるいは「エルフ」と呼ばれる人種にとっては平均的な寿命であった。
追悼飛行は老人を荼毘に付す前、斎場に参列者が集まっているときに行われた。四機が飛び去ってから老人は火葬炉に入れられた。この日は風もなく、老人の遺体を焼く煙と四筋の飛行機雲だけが何時までも青い空に残っていた。