第09話 ドラゴン討伐大作戦
地響きとともに地面に墜落したシュネーバレン。
自分の身に何が起こったのか理解できずに混乱しているようだ。
あの様子だと、地面に叩きつけられた時のダメージは殆ど無いっぽいな。
ヤツは怒りに満ちた声で咆哮をあげる。
その一声でこちらに近づいていた王国の兵士たちが恐慌をきたした。
くっそ、代紋先生がいてくれたらパニック状態を治すスキルが使えたはずなんだけど。
だけどこの場に居ない人の事を嘆いても仕方がない。
「お前ら弓だ! 石弓とか城攻めの時に使うデカい弓持ってこい!!」
俺は王国の兵士たちに向かってそう大声で叫んだ。
投擲チートではダメージが通らなかったが、威力のある弓だったならどうだ。
幸い、俺の叫びは兵士たちに通じたようで、城門から連中は車輪の付いたデカい弓を持ってきた。
たしかあれ、バリスタって言うんだっけ。
俺はドラゴンに続き地面に降り立つと、チートを使って地面からドラゴンの拘束を強化する材料を生成していた。
ワイバーンのカルーカンは、すぐにドノエルの元へ向かわせている。
王国の兵士はバリスタや石弓を構えて発射の用意をはじめた。
慌ててドラゴンの影に隠れる俺。
射かけられた弓がドラゴンの身体に当たる固い音が無数に聞こえる。
だけど、ダメージが通ったような音が一切聞こえない。
さすがは魔物の王様、弓を当てられても何ともないぜ!
……とかアホな事を考えている場合じゃない。
いまだ俺の麻痺スキルが効いているので身動き取れないが、いつ効果が切れてドラゴンが動き出すか分からない。
「おおい、羽根だ! 空に逃げられないように羽根を狙え!!」
さらに俺は追加で兵士たちに指示を出す。
ドラゴンの影から姿を見せられない俺の声が聞こえてくれると良いんだけど。
だけど遠くの方から「羽根だ羽根を狙え」との声が聞こえて胸を撫でおろす。
やがてバツンという音とともに「羽根を破いたぞ!」の快哉の声があがる。
それを裏付けるように、ドラゴンの怒りの吠え声が何度もあがっていた。
さて、とりあえずは空から襲われるという最悪の状況が回避されただけだ。
まだ【スキル・影縛り】が効いてはいるが、全力で抵抗するドラゴンの力にゴリゴリと俺のMPが減っていっている。
くそっ、まだか……。
そう焦りが出てきた俺の視界に、待ちに待っていた表示が現れた。
【スキル・ワイヤープリズンのチャージが完了しました】
それを目視したと同時に俺は叫んだ。
「【スキル・ワイヤープリズン】発動っ! 喰らえトカゲ野郎!!」
地面から何本もの太いワイヤーロープが立ち上る。
シュネーバレンの周囲を取り囲んだ、地面の中の材料からチートで生成したワイヤーは、たちまちドラゴンをぐるぐる巻きに縛り上げた。
俺のチートによる未知の攻撃の連続に成す術もなく絡めとられ、シュネーバレンは何度も怒りの咆哮をあげ続ける。
さっきの影縛りと違って、俺のMP残量と関係なく拘束し続けるスキルだ。
とりあずMP切れでこいつが自由になる事態は避けられた。
だけどこれはワイヤーで物理的に縛っているだけなので、さっきよりも少しだけドラゴンは行動の自由度が上がってしまう。
具体的には、じたばたと地面をのたうち回って転げまわること。
みんな近寄ることが出来ずに遠くから見守ることしかできなくなった。
そして俺は。
「あ、ヤベ……」
最後のワイヤープリズンでMPを使い果たした俺は、身体から力が抜けて立っていられなくなり倒れてしまう。
縛られたシュネーバレンがのたうち回っている、すぐそばの地面に。
──潰される!
そう観念して目をぎゅっと閉じた瞬間、俺の身体は誰かに抱えられてどこかに運ばれていた。
*****
「プリン殿、大丈夫でプリンか!?」
そんなふざけたセリフが俺にかけられて目を開けた。
聞き覚えがある声だけど、こんな言い方をする奴に心当たりが全く無い。
そう思いながら目を声のしたほうに向ける。
「あれ、バウじゃねーか」
遥か東のほうからやって来た武芸者で、四天王の座についていたバウ・ム・クヘンが目の前にいた。
相変わらず東洋的な顔立ちで黒い長髪を垂らしている。
コイツ見てると異世界感がすごい薄れてくるんだよな……。
でもたしかコイツ、もっと侍チックな奴だったはずだけど。
こう、刀を持ちながら「またつまらぬモノを斬ってしまった」とか、しょっちゅう言ってたような。
「そうでプリン! ショウタ殿のプリン! 無事で良かったプリン!!」
「お前、キャラ変えたの?」
「何を言っているのでプリンか。拙者は昔と変わっていないでプリンよ?」
「いや、その語尾……」
「ショウタ殿のプリンの為なら、たとえ火の中水の中、ドラゴンのブレスの中!」
「さすがにドラゴンのブレスに焼かれたら死ぬだろ、普通」
「拙者のショウタ殿のプリンへの愛に比べたら、そんなのは些細なことでプリンよ?」
なんか頭が痛くなってきた。
だんだん、プリンとは何かという哲学的な問いかけを自分自身に投げかける俺。
そんな頭を抱えてる俺を、バウが現実に引き戻す。
「そんな事よりもショウタ殿のプリン、あのドラゴンはどうするのでプリンか?」
バウの俺の名前への認識が変わってる気がするけど、それは全力で無視だ。
しかしどうすると言っても、あのシュネーバレンののたうち回り方から見て、手の打ちようが……。
あ、そうだ!
「バウ、お前たしか気の刃を飛ばせたよな?」
「そうでプリン」
「じゃあそれで限界最大威力の攻撃をヤツの頭に叩き込んでくれ。相手は動いてるけど、お前ならできると信じてるぜ」
「お安い御用でプリン」
反応が軽いな、おい!
そんな心の声を表に出すことなく、俺はバウに「頼む」とだけ言った。
バウは目を閉じて腰を落とす。
しかし顔はしっかりと暴れるドラゴンへと向けたまま。
腰だめに構えた、どこからどう見ても日本刀な剣を握りしめる。
やがてその刀身が白く輝き始めた。
それを見つめる俺は、耳鳴りまで感じ始める。
そして目が開けていられないほど刀身の輝きが眩しくなった時。
「プリン!」
ザクッ!!
ギャオオン!!
ちょっと締まりの無い掛け声と一緒に、バウの気刃が放たれた。
それがドラゴンに向かって飛んでいき、ハッキリとヤツのウロコを断ち割った音が聞こえてくる。
吠え声も苦痛に満ちたものがあがったので、俺にも手応えが感じられた。
「やったか!?」
「駄目でプリン」
「は?」
見るとバウの気刃は、ドラゴンの片目を潰すだけにとどまっていただけだった。
その苦痛でシュネーバレンを完全に手負いの獣に変えてしまった。
巻き付けたワイヤーロープがギシギシと軋みはじめて、ちぎれそうになっている。
おいおいそれの太さ、10センチぐらいはあるのに。それを何本も巻き付けているのに。
それがちぎれそうになってるって、どんな馬鹿力だよ。
俺、ドラゴンを舐めてたかもしれない。
そんな時。
「荒ぶる冬の化身よ、我が敵の命の灯火までも凍てつかせよ!!」
血の気が引いていた俺の耳元に届く、低いがよく通る男の声。
一瞬でドラゴンが巨大な氷に閉じ込められた。
昔、教科書か何かで見たことがある、氷漬けのマンモスみたいになっていた。
ようやく来たか!!
「ドノエル遅えぞ! ったく美味しいところを持っていきやがって!!」
先ほどアルフ・オート山で別れた元同僚に向かって、俺は快哉と共にそう叫んだ。
青い肌に銀髪の、額から二本の角を生やしたイケメン、四天王のリーダー役ドノエルを。
※次回からは毎週火曜と金曜の22:00に更新します。
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