第05話 勇者の正体
バッタリ倒れたアスティを見て、当然あわてる俺。
「なななななな何だ何だ? いったい何が起こったんだよ!?」
しかし代紋先生はさすがは医者だった。
冷静に、すぐにかがんでアスティを診始める。
さすがは代紋先生、俺にできない事を平然とやってのける!
そこにシビれる憧れるゥ!
「おお、首元に着脱ボタンがあるな。このままでは彼の状態把握ができんから押してみよう」
と、代紋先生が指差すと、ソコには親指の先ぐらいの大きさのボタン。
そしてそのそばには「←着脱ボタン。勝手に押したらやーよ」の現地文字。
後で気が付いたが、チートスキルの中に異世界語翻訳という項目があった。
アスティと普通に話せている時点で気付けよ俺。
代紋先生は躊躇なくボタンを押した。
「ポチっとな」
「突然どうしたんだ翔太くん」
「いえ、何となく……」
代紋先生がボタンを押すと、アスティの体からガシャッと音がする。
そして先生は鎧の襟首にあたる部分を持つと、アスティから引っ剥がした。
「おっと、思ったよりも随分軽いな」
そう言って鎧を俺に手渡す代紋先生。
受け取った俺もその軽さに驚いた。
何というか、強化プラスチックみたいなんだ。
手触りは金属そのものなのに。
そしてアスティをうつ伏せにしたまま、外せる鎧を取り去った時。
「ふむ、この傷が原因だな。傷を抱えたまま動き回るとは非常識な」
代紋先生が指差した先を見ると、アスティの脇腹に血がにじんでいた。
結構大きいシミになっている。
続けて鎧を外しながら、代紋先生はアスティを仰向けにする。
「むう、これは……」
と、少し困った声をあげた先生。
俺もひと目で理解した。
彼が……いや彼女が鎧の下に着ていた服の、胸の部分が大きくふくらんでいたからだ。
しかし躊躇したのも一瞬。
代紋先生はアスティの上着をはだけて、直接脇腹の傷を確認する。
俺も不謹慎だと思いつつもその豊かな胸の膨らみに、つい目が吸い寄せられてしまう。
だけど、その彼女の脇腹の深い傷を直接見てしまうと、そんな俺のヨコシマな気持ちも吹っ飛んでしまった。
患部を見た途端に渋い顔をする先生。
「予想以上に傷が深い。本当なら純水でデブリドマンした後に縫合するべきなのだが……」
「デブリドマン?」
「簡単に言うと傷口を綺麗に洗う事だな。いかんいかん、こういう場面になるとつい同業者相手に話してる気分になる」
「えっと話を戻すと、代紋先生は傷口を縫った経験が無いって事なんですか? なんか意外」
「馬鹿な、手術ぐらい何度もやってる。縫合なんて基本技術だからな。毎日練習はしてるが」
「じゃあ何が問題なんです?」
「肝心の針と糸が無い。この際、医療用でなくとも贅沢は言わんから。あとはいま言ったように綺麗な水。平たく言えば濾過して余計な不純物を取り除いて沸騰させたあと冷ましたヤツだ」
「あ、いけますよ、針と糸と水」
「なに!?」
「代紋先生と話してる最中に、俺の目に映ったッス。レンジャー技能のサバイバル能力って項目のひとつに、針と糸の生成と水の濾過能力が出てるッスね」
「ふむ、どうやら私よりも将太くんの方がチート能力は高そうだな。単純な戦力というよりも、居ないと普段の生存が危うくなる縁の下の力持ち的な感じだが」
「うへえ、なんかあんまり嬉しくないッスね」
そう代紋先生に言いおいて、俺は水を汲みにその場を離れた。
ちなみにこの行動の後で確認したら、めちゃくちゃ隠密レベルが上がっていた。
「うひぃ、水を運ぶのってこんな大変なんだ」
木を切り倒して作った桶に、レンジャー技能の濾過チートで綺麗にした水を入れて運ぶ。
そして代紋先生のそばに置いた。
先生はしばらく桶を眺めると「確かに品質に問題無いようだ」と呟いて桶を掴む。
どうやら先生の目に、水質の分析結果が出ていたらしい。いやマジで便利過ぎだろチート。
桶の水でアスティの傷口を洗った先生に、木の枝や草からチートで合成した針と糸を渡す。
すると急に俺の身体がズッシリと重くなり、立っていられず地面に倒れた。
「あれ? 身体に力が入らない……」
「どうやら我々のチート能力は無制限に使える訳ではないようだな。気をつけないと」
アスティの傷口を縫う手を止めずに、俺を見てそう言う代紋先生。
俺は「マジっすか」と言いながら、そういえばHPとMPの残量が表示されないのは不便だな、と考える。
すぐに視界に、横に飛び出る棒グラフが表示。
HPとMPの項目が付けられていて、MPの残量がほとんど残っていなかった。
やがて代紋先生が「よし終わった」呟くと、俺と同様にドサリと地面に身体を投げ出す。
そして、ふぅ、とため息をつくと俺に聞かせるように独り語ちた。
「専用の医療器具以外の道具で術式を行う時にも、チートスキルを使わなければならないとはな」
「マジっすか。意外と不便ですね」
ようやく少し体力が回復した気がしたので、俺は上着を脱いでアスティに被せる。
さすがに何も無しで地面に寝かせておくのは、可哀想な気がしたからだ。
寝転がった代紋先生が、顔だけこちらに向けて「優しいな」と呟く。
「相手が女だったら、格好つけたくなるのが馬鹿な男ってヤツでしょう」
「なかなか含蓄のある言葉を言うじゃないか」
「ラノベやSNSで仕入れた知識の、耳年増ってヤツですよ」
そう代紋先生に答えながら、俺はアスティの寝顔を見る。
男だと思っていた時には、リア充爆発しろとか思ってたのに。
女だと判ったら途端に可愛らしい寝顔に見えるのが、我ながら勝手なモンだと思う。
彼女の寝顔をボンヤリと見ながら、そんな事を考えていた俺。
だから突然アスティの目がパッチリと開いて身体を起こしたのに、全く反応出来なかったのも仕方がない。
反応出来なかったのだから、当然避ける事も叶わずお互いの顔がゴッチンコするのも当然だ。
当然だったら当然だ!
お互いの鼻の辺りをぶつけ合った俺達は、鼻を手で押さえながら蹲った。
*****
「つまり『トラック』なる魔獣との戦いに打ち勝った勇敢なる者が、過去何度かこの世界に現れて世を救ってきたのだよ。それが伝説の『転生チート勇者』なのだ」
胸のあたりに力強く握った拳を軽く振るわせながら、アスティはそう力説する。
なんだか凄く曲解されているなあ。
ちなみに怪我で倒れた事などまるで無かったかのように、元気いっぱいに語る彼女。
代紋先生の治療ですっかり良くなった、と力説して平然としている。
代紋先生が「強がりを言うな」と怒ったが、アスティが脇腹を(オッパイが見えるのも構わず)見せると、確かに傷が塞がっていた。
いや、治癒力が異常だろ。
さすがの代紋先生もそれを見せられて、唸り声しかあげられなくなる。
そして渋々と言った様子で抜糸した。
目の前で起こっているのにあまりにも非現実的な光景に、俺はここが異世界なのだと改めて実感する。
「改めて礼を言う、ミチオ・ダイモン殿にショウタ・ノカシ殿。特にショウタ殿の『プリン』はこの世のものとは思えぬ美味であった」
そう言って鎧を装着し直していくアスティ。
どうやら魔王討伐行を再開するようだ。
そんな彼女の様子を見て、思わず俺は彼女に言っていた。
「魔王を倒すの、手伝うよ」
言ってから、代紋先生の意見も聞かなかった事に気が付き先生を振り返る。
そんな俺に向かって代紋先生は静かに頷いてくれた。
アスティは俺たち二人をしばらく黙って見つめると、静かに頭を下げる。
「有り難う二人とも。私はとても心強い援軍を得られたようだ」
にっこり笑って俺たちを歓迎してくれた。
うーんチクショウ、やっぱり良い笑顔だな!
そうして俺たち三人は、魔王城の中心部に向かって出発した。
……のだが。
代紋先生とアスティが前に並んで歩き、何事かを小声で熱心に話し合っている。
というか、時々アスティが俺の方をチラチラ見ながら、頬を赤く上気させて代紋先生に色々と話しかけてるよ。
あの様子だと彼女、先生に惚れたな。
まあ命の恩人だから無理もないか。
ちなみにこの後に帝国から来た「勇者」とも色々あったんだけど、アスティがめちゃくちゃ強かったので『魔王』は問題無く倒せた。
*****
ちなみにアスティsideの会話。
「えっと貴方は確か、彼にダイモンセンセイと呼ばれていたな」
「代紋が名前で先生は敬称ですよ」
「そ、そうか。……ダイモン先生、水を汲みに行ってくれたり上着を私にかけてくれたのは後ろの彼だろう?」
「倒れている時も意識はあったのか」
「まぁ辛うじてだが。それに、あの『プリン』なる素晴らしい食べ物を作ったのも彼らしいな」
「その通りですよ。ちなみに彼は料理の……特に和菓子作りの天才です」
「ショウタ・ノカシ……良い名前だ。このまま仲間でいてくれて、またあの『プリン』を食べてみたいものだな」
そうウットリと呟く彼女の表情を見て、代紋医師は確信した。
彼女、ショウタくんに惚れたな、と。
*****
「ねえ、過去の話なのに私たちの事が全然出なかったわね。もう勝手に自己紹介しちゃわない?」
「お前に任せる。我ら四天王の紅一点、情報収集に長けたマー・カロンよ」
「そうやってさり気なく乗ってくれるのが嬉しいわ。私たち四天王のリーダー格、ブッシュ・ドノエルさん」
「プリンプリンプリンプリン……」
「人間族の国から来た武人のバウ・ム・クヘン卿はもうヤバい領域に入ってるわね」
「しっかりしろ、バウ」
「ショウタ殿のプリンショウタ殿のプリンショウタ殿のプリン」
「ダメだこいつ早く何とかしないと」
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