第32話 帝国軍は撤退する事になりました
「よし皆の者、パティスリー王のくれた恩赦の機会を逃さぬためにも、ショウタくんを助けるのじゃあ!」
先頭のブルエグのオッサンがそう叫んだ。
後ろに従えているオッサンたち(注:裸のデブ)は目をキラリと光らせて頷いた。
しかし帝国兵は、そんな無防備どころか文字通り一糸まとわぬ裸のオッサンなど簡単に潰せると見たのか、ブルエグのオッサンたちへ突撃を開始した。
遠視チートで見ているこちらの目にも、帝国兵の馬鹿にしきった表情が確認できる。
そんな敵を見てもオッサンたちは眉ひとつ動かさずに立っている。
そして悠然と小脇に抱えた鍋に玉杓子を突っ込んだ。
ってアレ、俺が精鋭部隊に持たせたプリンの鍋じゃねえか!
ただし、オッサンたちは精鋭部隊のように帝国兵にそのプリンを投げつけたりはしなかった。
代わりに、玉杓子にすくったプリンを自分の口に持っていく中年デブの群れ。
「こ……これは! これはっ!! 美味ーいーぞおおおおおおっっっ!!」
背景に火山が現れて噴火ドーン。
そしてオッサンたちの目と口からビームが飛び出る。
ブルエグたち中年太りのオッサンズは、その目ビームと口ビームを帝国兵に向けて薙ぎ払った!
ええええええええええええ!?
オッサンたちのビームの一斉掃射によって、それこそ木っ端のように吹き飛んでいく帝国兵。
ブルエグのオッサンたちは余裕たっぷりに進み始めた。
美味いぞビームを周囲にぶちまけながら。
いや、なにげにあのオッサンたちがこの戦場で一番攻撃力が高くねえ!?
もちろんビームだけでなく、喚び出した小型の火山を次々と噴火させているので、帝国兵たちは進軍どころでは無くなっている。
吹き飛ばされた帝国兵に今のところは死者は出ていないようだ。
さすがは字で書いたようなご都合主義な(以下略)
しかしなんと言うか……ビームで薙ぎ倒すのはいいんだけど口から出るビームって……。
「なんだあのゲ◯みたいなビームは!!」
(お聞き苦しい言葉のため一部音声を修正しました)
あっこの野郎!
こっちが頭に浮かんだけど言わずに我慢していたことを口にしやがった!!
「ほう、ショウタのプリンを食べる事であのような攻撃ができるのか。こんど私もやってみようかな」
「淑女がそんなハシタナイことしちゃいけませんアスティ!」
「む、そうか。ショウタが言うのならやめておこう」
なんかこっそり隠れて試しそうで怖いよ。
俺はザルツプレッツェルに向き直った。
糞皇子は望遠鏡で戦場の様子を呆然と眺めている。
「なぁザルツプレッツェル。皇子さんよ。いい加減に諦めたらどうだ?」
「まだだ! まだ負けた訳ではない! これだけの規模の軍を動かしておいて、負けましたでは済まんのだ!!」
「済ますしかねーだろ。死者を出さずに圧倒するって相当な実力差がないと出来ねーんだぞ」
青い顔で覗き込んでいた望遠鏡を下ろしたザルツプレッツェル。
唇を噛んで、望遠鏡を握った手も小刻みに震えている。
だけど何かに気付いたように顔を上げてこっちを向いた。
「くはははは! こ、こうなったら、とっておきの切り札情報をこの映写魔法の前でバラしてくれるわ!! これを聞いても魔族の統制が取れるかな!?」
お前の切り札は何枚あるんだよ。
つか、どんどん切り札がショボくなってきてる気がするんだけど?
ザルツプレッツェルはカメラの役割をしている水晶玉に向かって、最高のドヤ顔で叫んだ。
「よく聞け魔族ども!! お前たちが従っているこの魔王はな、オ ン ナ なんだよ!! お前たちは女に頭を垂れていたんだ!! どうだショックだろう!!!?」
…………。
この帝国の本陣を含めた、戦場の全ての時と音が止まった。
この頭の悪い糞皇子以外の人間は、魔族も含めてお互いに顔を見合わせた。
すぐにタイミングを測ったように、みんなが一斉に肩をすくめる。
この戦場にいる全ての人間が声を揃えて絶叫した。
「そんな事みーんな知っとるわああああああああああああああ!!!!」
「なにいいいいいいいいいいい!!!!!?」
ああ、コイツはそういう思考の奴だった。
男がトップに立つのが当たり前で、女が権力を握るのは世界がひっくり返ってもあり得ないとかいう……。
てか、アスティを捕まえるまで本気で彼女の「正体」を知らなかったんかい。
「お、お前ら女だぞ? 女が女である事を隠してトップに就いていたんだぞ!? なんで皆そんな反応なんだ!!」
「私は男物の服を着るほうが好きだが、特に女である事を隠したつもりは無いな」
「なんだと! クソッずるいぞお前ら全員!! みんなみんな俺にだけ秘密にしてやがってええええ!!」
駄々っ子かよ。
と思ったら、本当に地団駄を踏んでガキみたいなことをほざき始めた。
「くそくそくそくっっそおおおお! お前らみんな死んじまえ!! お前のカーチャンでーべーそぉぉぉぉ!!!!」
「いや、なにをガキみたいな事を言ってるんだザルツプレッツェル」
「うるさいうるさいうるさああああああぁぁぁぁぁぁい!! お前のカーチャンでェェべェェそォォ!!」
鼻水を垂らして涙を流しながら「お前の母ちゃんデベソ」しか言わなくなったザルツプレッツェル。
両手も無茶苦茶に振り回して手がつけられない。
まったく、影縛りチートでも使って動きを止めてやるかな。
そう俺が思った時。
ゴン、と鈍い音がしたかと思ったら、糞皇子が白目を向いて地面に倒れた。
気絶をしたザルツプレッツェルの後ろには、側近の将軍らしい渋いイケオジなオッサン。
主君を殴って気絶させた右手を上げたままだ。
「我等が帝国軍を率いるザルツプレッツェル皇子は、戦場でご病気に伏せられ指揮を取れなくなった。よってこれより我が軍は撤退する事にする」
その将軍っぽいオッサンは俺とアスティを見てそう言った。
そしてその後に「それでよろしいですね?」と付け加えたので俺たちは頷くしかなかった。
「うーむ、せっかくだから私が暴れてザルツプレッツェル皇子を殴り飛ばし、大怪我をさせた事にしておきたまえ。せめてもの皇子の名誉のためだ」
アスティが将軍に向かって提案。
オッサンは深々とお辞儀をした。
「ご厚情に感謝します。では大変申し訳無いですが、魔王殿の提案に甘えさせていただきますな」
俺たちにそう礼を言うと、周囲に撤退命令を飛ばし始める将軍。
俺はすごい疲れを感じたため息をついた。
隣の女魔王に顔を向けると疲れた声のまま言った。
「帰ろっか、アスティ」
「そうだな」
その時、物かげから3人の男が俺たちの前に現れた。
おっと、コイツらは……。
「言った通りだったろ魔王殿。良かったな」
「帰ったら可愛い服を着ておめかししなよ」
「恐ろしく予想通りのシチュエーション。俺たちでなくとも応援しちゃうね」
「ありがとうお前たち! 牢屋の中でショウタを待っていて良かった!」
あれ?
俺はアスティがコイツらと知り合いっぽいのに驚いて彼女に訊ねた。
「アスティ、コイツらと知り合いだったのか!?」
「おや、ショウタも彼らを知っていたのか?」
「いや、知り合いじゃないけど、ここに辿り着くのに協力してくれたんだよ」
3人の男たちは親指を立ててサムズアップをすると不敵な笑顔を作る。
白い歯がキランと光った。
「じゃあ魔王殿、これで魔族領に就職よろしくな」
「ちゃんと役に立ってみせるぜ!」
「恐ろしくやり甲斐のありそうな新天地。俺でなけりゃ見逃しちゃうね」
「うむ、向こうに着いたら私の名前を出して、弟のトスティに取り次いでもらうといい。心良く採用してくれるはずだ」
そのアスティの言葉に片手をあげて応えて、去っていく男たち。
姿が見えなくなると、俺は周囲を見回した。
みんな撤退に向けて忙しく動いて、俺たちには目もくれない。
俺は右手で頬を軽くかくと、左手でアスティの手を掴んだ。
思わず顔が熱くなるのを感じる。
だけども俺は、なるべく何でもないように言った。
「じゃあ今度こそ本当に帰ろっか、アスティ」
「ああ!」
「帰ったら、腕によりをかけて作った極上プリンを食わせてやるよ」
「ありがとうショウタ! やはりお前は私の最も大事な人だ!!」
そのアスティの言葉に俺は苦笑い。
だから勘違いしそうになるからやめろって。
俺とアスティは手を繋いだまま、のんびりと戦場を歩いて帰っていった。
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