第31話 突撃聖女様
「何よザルツプレッツェル! 聖属性魔法で身体機能をブーストさせて駆け付けたのに! なんかこっちの軍がボロボロじゃない!」
ラクリッツが腰に手を当ててふんぞり返る。
うーん、アスティがやってる仕草とあまり変わらないのに、コイツがやるとあんまり好感が持てないのは何故だ。
これも普段の人徳の「賜物」って訳かな。
「ラクリッツ!? いや違う、まだ負けてなどいない! この俺が、ザルツプレッツェルがこんな雑用男に負ける訳がない!!」
「え、おまえ俺と張り合ってる前提だったの?」
「……! い、いや違うお前のような地味男とこの皇族である俺がなぜ張り合わねばならん!(超早口)」
「ふーん、まあこっちにとってはどうでもいい話だけどな。とりあえずアスティは返してもらうぜ」
アスティが入っている牢屋の入り口に俺は向きを変える。
アスティ以外は全員敵国の人間ばかりのこの場で。
当然、何人かは俺に剣を振りかぶって斬りつけてきた。
だけどそいつらは剣を振り上げた状態で固まってしまう。
もちろん、背後から斬りつけるのが卑怯だからと躊躇った訳じゃない。
きっとそいつらの目は戸惑いにあふれているだろう。
「【スキル・影縛り】レベル2。MP消費はちょっと大きいけど、影にナイフを刺さずに発動できるぜ」
振り向きもせずに俺はそう言った。
まあコイツらにチートの事をこれ以上説明する気も無いけど。
剣を振り上げたまま固まった連中を、驚愕と恐怖で見つめて自ら固まる他の取り巻き連中。
その中を俺は悠々と牢屋の扉を開けることに専念していた。
だけれども、そんな空気を読まずに敵意を持って俺へ急速に上から近づく気配。
この気配は『聖女様』が飛び蹴り仕掛けてるな。
ひょいと横に移動してそいつをやり過ごすと、やっぱりラクリッツがそこにいた。
「はん! アタシの聖属性魔法はそんなチンケな手品なんか通用しないわよ!」
そう喚きつつ、再び俺の頭の高さぐらいにまでジャンプして回し蹴りを繰り出してくるラクリッツ。
身体能力を大幅に強化してるんだろうな、聖属性魔法で。
というか、この強化した身体能力でもってココまで駆けてきたって訳か。
パンツ見えてるぞ。
そんな事を考えながら、ラクリッツの攻撃を何度か躱していた俺。
手出しをしない俺に、何を思ったか攻撃しながら勝ち誇る。
「あははは! アタシの聖属性魔法が防御だけ、味方の補助だけだと思って油断したわね! そもそも攻撃力最弱のアンタに打つ手は無いでしょうけど!!」
「別に油断もしてないし、打つ手が無いなんてこともないけどな」
俺も身体能力向上チートを発動させると、するりとラクリッツの懐に入り込み彼女の顔に手を当てる。
チートで生成した鎮静作用と弛緩効果のあるガスを手の平から発生させ、彼女に吸わせた。
とたんに糸の切れた操り人形のようにばったり床に倒れるラクリッツ。
「あれ、身体に力が入らない……」
「リラックス効果を与えるガスをお前に吸わせた。しばらく寝てろ」
「なんで……? アタシの聖属性魔法は、あらゆる害意のある攻撃を跳ねのけるのに……」
「いまお前が自分で言った通りだよ、俺はお前を攻撃しようとは思っていない。ただいつも気を張ってるのを、『大変だなーほぐして楽にしてやろう(棒読み)』と思っただけさ。リラックス効果を与えるガスだって言ったろ?」
「くっ……ショウタごときに……アンタごときに……! ああでもいい気分、なんだか眠くなってきた……ぐぅ」
その言葉を最後に、鼻ちょうちんをだしてイビキをかいて寝てしまったラクリッツ。
それを見て悲鳴をあげるクソ皇子。
「ああ! 切り札の聖女がこんなあっさりと!?」
いや、お前の切り札は人質にしたアスティと違うかったんかい。
ため息をついて肩をすくめると、俺はアスティの牢屋へ向かう。
正面には、鉄格子を掴んで見守ってくれていたアスティの姿。
「助けに来てくれてありがとうショウタ! やはり彼等の言った通りだった!」
そう言いながらこちらに駆け寄ってくるアスティ。
まるでカーテンを開くように気軽な感じで、こう、クィっと鉄格子を両側に広げて。
うん、爪切りで爪を切ってる時点で薄々予想してた。
なんだか酷く疲れた気分になった俺。
だけど、そんな感情にひたる暇もなくアスティは俺を抱きしめてくれる。
鉄格子を気楽に曲げた馬鹿力で。
「ショウタ!(がしっ)」
「ぐええ! く、苦しいアスティ……!」
「お、おお。久しぶりだから、つい力がこもってしまった。すまんショウタ」
慌てて俺から身体を離すアスティ。
あっ、押し付けられたオッパイの感触だけは良かったのに。
などと口が裂けても言えるわけもなく。
「く、くそ、くそ、クッソおおおおお!!」
と、まるでゾンビのようにふらふらと立つザルツプレッツェル。
この諦めの悪さだけは評価に値するな。
と感心したのも一瞬で、コイツはとんでもない命令を出しやがった。
「もういい、残る全軍を魔族領に突撃させろ! 前線のプリン食ってる兵士ごと魔族をすり潰せ!!」
「な!? お前なに考えてんだ!!」
そんな俺の叫びもむなしく、帝国の伝令兵が大声で突撃命令を叫んで走って行く。
地響きとともに後方に控えていた残りの帝国兵が進軍を開始した。
「わははははは! やはり最後は圧倒的な物量こそが戦争の正義だ! 戦いは数だよ兄貴ぃ!!」
「ここにお前の兄貴はいねえだろザルツプレッツェル!!」
その時、ドーンという凄まじい重低音が鳴り響く。
さっきの帝国軍の突撃どころではない音だ。
軽く地震まで起こったぞ。
前線の様子を望遠鏡で見ていた兵士が悲鳴をあげて叫んだ。
「と、突然火山が噴火しました!? 何もない平原に突然火山が現れて噴火しました!!」
「なんだと!? 貴様ふざけてるのか!!」
ザルツプレッツェルはその兵士から望遠鏡をひったくると、自分で前線の様子を覗き込んだ。
俺も遠視チートを発動させて前線を確認。
アスティは裸眼で確認できるようだ。
そこに見えたのは──。
「美味いんじゃあ! このプリンが美味いんじゃあああ!!」
火山が背景に現れ噴火ドーン!
……ブルエグのオッサンが立っていた。
取り巻きのデブなオッサン達を何人も引き連れて。
全員すっ裸で。
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