第30話 周りの人間には敬意を持って接しましょう
この話を読む前後でadoさんの「うっせえわ」の歌詞を検索しちゃ駄目だぞ。
君と僕との約束だ。
「ショウタ! やっぱり来てくれたんだな!!」
アスティがすげえ嬉しそうな顔で俺を見てくれている。
普段の俺なら、顔が熱くなってアスティから目を逸らすトコロだ。
でも今はテンションだだ上がりだから平気だぜ、ふふん。
「当たり前だろ、お前は一番のお得意様なんだからよ」
俺はアスティが入れられている牢へ向かって足を進める。
傍のザルツプレッツェルの糞皇子が無視された事に腹を立てたのか、わめき始めた。
腰に下げてた剣を抜いて俺に斬りかかりながら。
「おのれ! こちらを無視して話を進めるなあああ!!」
だけど俺は糞皇子へ振り向くこともせずに攻撃を躱すと、片足を出して皇子の足を引っかけた。
思いっ切り引っかかって無様に倒れるザルツプレッツェル。
床に鼻をぶつけたのか、起き上がった時には涙目で鼻血を出していた。
その顔を見てちょっと可哀相な気持ちになったが、さっきのコイツが言ってたセリフを思い出して同情が失せる。
俺は肩をすくめてザルツプレッツェルを見下ろした。
「俺を地味だの目立たないだの言うんだったら、これぐらい避けろよな」
「う、うっせえ、下等な身分の分際で! 影が薄くて目立たないのを良いことに卑怯な真似をしおって!!」
「あーはいはい、何度言っても理解しないヤツだぜ。顔の地味さはともかく、気配の方はチートであえて消しているんだよって言ってんのに、聞く耳を持たないもんなお前」
「そうだぞ、私はいつもショウタの気配をつかめているのに」
ついにアスティが会話に乱入。
俺は彼女のその言葉に頭を掻きながら、アスティに顔を向けた。
「アスティには気配遮断チートが効かないよな、そういえば」
「ふふふ。いつも私のために極上プリンを作ってくれるショウタの存在を、このアスティが見失う訳が無いであろう」
「ううむ、それは喜ぶべきか悲しむべきか」
「私にとって大切な存在であるお前の気配を見失わずに済むのは嬉しい事だぞ、ショウタ」
*****
「相思相愛の恋人みたいだろ? 付き合ってないんだぜ、あれで」
空中に映し出されている二人の会話。
それをため息混じりに見ながらドノエルがこぼす。
「ただちょっと自分の気持ちに気付いてないだけで。ウソみたいだろ」
その隣ではカロンが地団駄を踏んでいた。
あともう一歩なのを全く気付いていないショウタとアスティにもやもやしながら。
「ああもう! そこで『ショウタ・ノカシは魔王アスティを愛しています。世界中の誰よりも』って言い切るべきでしょぉがああああ!!」
そんな魔族たちの嘆きは、残念ながら二人には届かない。
届かないったら届かない。
*****
「くそおおおお! てめえ等こっちをガン無視して惚気てんじゃねえええええええええ!!!!」
ザルツプレッツェルが俺たちに怒鳴り声を張り上げた。
一瞬キョトンとした俺とアスティ。
「あ、忘れてた」
「先代『魔王』を倒した俺が、そこの現魔王をも足もとに下して名実ともに次期皇帝候補最有力になるのは決定してるんだ! 依然変わりなくっ!!」
そのザルツプレッツェルの言葉に周囲は慌てて賛同のセリフを続ける。
あ、でもあの目は言ってる自分でも信じてねーな。
「そ、そうだぞ魔族め! ザルツプレッツェル皇子が前『魔王』を倒した勇者である事は変わりがないのだ!」
「帝国に流れる吟遊詩人の歌にもある通り、『魔王に反旗を翻した魔族の剣士は力及ばず敗れ去り、その想いと遺志を受け継いだ勇者ザルツプレッツェル皇子が魔王に突撃して、遂にはその首を刎ね飛ばして倒したり』だ!」
「う……うむ、そ……そうだ……!」
おい、開き直るんならもっと堂々としてろよ。
まるで嘘をついてるように見えるぞ。
別に俺は構わないけどな、今から追い詰めるし。
「ふうん、帝国にはそういう風に報告したのか、ザルツプレッツェル」
「う……む……そ、そうだ。事実だからな」
「真の聖女もきっと同じ証言したんだろうな」
「し……真実を真実として言ったまでだからな」
口調こそ強気だが、顔は冷や汗ダラダラかいてる糞皇子。
そろそろ爆弾を落としていくか。
ふふふ、覚悟しろよザルツプレッツェル。
「まぁ、事実と比べてそれほど間違っちゃいないかな。『魔族の剣士』……つまりこのアスティと、お前ザルツプレッツェルの立場がそっくり入れ替わっている以外は」
「ち、違う! このザルツプレッツェルは本当に魔王を……」
「アスティと俺の制止も聞かずに飛び出していったは良いが、『魔王』を目の前にした途端にビビッて涙を流してへたり込んだのはしっかりと覚えてるぜ」
「違う! デタラメを言うな! 流したのは涙ではなく小便…………ハッ!?」
「せっかくちょっとだけ庇ってやったのに、お前バカだろ」
「う……うっせえ! うっせえ! うっせえわ!」
「貴方が思うよりショウタは有能です」
すかさずアスティが混ぜ返す。
サラッと言われたけど、結構持ち上げられてるな。
気恥ずかしさを封印する為にも俺はアスティに続けた。
「一切合切ボンクラな、貴方じゃ分からない。かもね」
「正しさとは愚かさとは、それが何か教えつけてやる」
「教えつけてやるって何だよ、アスティ」
「うーん、『見せつけてやる』だと、なんかイケナイ気がしてな」
アスティが腰に手を当て胸を張って、俺とやりとり。
その俺も腕組みをして、ザルツプレッツェルを睨みつけていた。
本当はお前のホラも黙ってたって良かったんだけれどもな。
魔族領に手を出さなけりゃ。
なによりもアスティに手を出さなけりゃ。
だけどコイツはそれをやっちまった。
もう許さねえ。
「ちっちゃな頃から劣等生。気付いたら大人になっていた」
おお、なんかザルツプレッツェルの周りの人間まで参加してきたぞ。
つか、こいつらにまでココまで言われるなんて、普段の舐めた生活態度が透けて見えるぜ、皇子様よ。
「サボるためだけの思考回路」
「それ以外、持ち合わせる訳もなく」
「でも頭足りない。何か足りない」
「困っちまう、これは皇子のせい」
「それもそっか」
酷え、本当のことをコイツ等ボロボロ告白してやがる。
俺は笑い出しそうな顔を必死にこらえてポーカーフェイス。
いやぁ結構我慢するのきついっす(笑)
周囲の人間のストレスも相当だったんだなあ。
「最新の国際情勢は当然の把握」
「経済の動向も日常的にチェック」
「純情な精神で皇帝のワーク」
「国を動かす者の当然のルールです」
「はぁ? うっせえ! うっせえ! うっせえわ!!」
ああ、どんどん周囲の反感が高まっていく。
ザルツプレッツェルはそれを無視してわめき立てている。
もう引っ込みがつかなくなったから……と言いたいが、これは本気で気付いて無いだろ。
周囲の人間が溜めていた不平不満の垂れ流し会場になりつつあるこの場。
それを締めるためにも俺が再び参戦した。
「臭え口閉じろや限界です。絶対『魔王』討伐の生き証人は私やろがい」
「丸々と嘘ばかりつくその性格にバツ」
間髪入れずに続けてくれるアスティが素敵よ。
ザルツプレッツェルはもう半泣きの涙目だ。
って、そろそろ鼻血ぐらい拭けよ。
さて、ザルツプレッツェルの立場も地に堕ちたことだし、この戦争もこれで終わりかな。
──と、俺が思った時だった。
上から小さな人影が下りてきて、だん! と床を踏みしめた。
結構デカい音を鳴らして足が痛いからか、しばらく蹲ったままジッとしているソイツ。
ようやく立ち上がると、俺とアスティを「キッ」と睨みつけた。
あ、コイツもちょっと涙目になってら。
「血筋の良さが凄いので問題はナシ!」
そんなセリフを吐きながらラクリッツが乱入してきた。
涙目で。
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