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第29話 見切り発車はトラブルの元

「うぉのれ、おのれえ! あの役立たずの雑用男の分際(ぶんざい)でええええ!!」


 激昂(げきこう)して周囲の目も気にせず叫ぶザルツプレッツェル。

 皇族の出自ゆえに、他人の世話をする人間・出来る人間を下僕や奴隷とみなす人生を送ってきた彼。

 攻撃力が低いがそれ以外の様々な事ができるショウタを、どうしても遥か下の身分としか見る事ができない。


 そして人間は自分よりも下と見なした者が大きな顔をする事に我慢がならない性質。

 マヌカ帝国皇子ザルツプレッツェルが、ショウタを見下し憎む理由は単にそれだけだった。



「仕方ない、()()を使うか」


 ボソリと呟き立ち上がるザルツプレッツェル。

 それを聞いた周囲が色めき立つ。


「お待ちを皇子、アレを使うのはまだ時期尚早かと! 魔族領占領時に使うべきです!」


「黙れ! まずはこの戦いに勝たねば、使うべき時もクソもないだろ!!」


 普通なら間違いなく大正解な正論を叫ぶザルツプレッツェル。

 だけど彼は忘れている。


 出陣前にさんざんフラグを立てまくった事を。

 父親のドランV世にまでその事をツッコまれていた事を。


 周囲もそれとなく立ったフラグの存在を感じているのか、食い下がって皇子を(いさ)めようとする。

 だがそこは盆暗(ボンクラ)皇子の陰口を叩かれてるザルツプレッツェル。

 周囲の声も無視して事を進めていく。


「ガタガタぬかさず、さっさとアレを持ってこい!」


 激昂しながらその場にいる人間に怒鳴るザルツプレッツェル。

 周りの側近や軍師はため息をついて指示に従った。



*****



「よし次はお前ら行くぞ。なぁに、配給でもやりに行く感覚でやったらいい」


 遠視チートで「戦果」を確認した俺は、続けてドノエルに部隊を編成してもらった。

 今回は直接帝国兵の口にプリンを放り込める人材がいないので、帝国兵に手渡す方式を取ることにする。

 最初の精鋭部隊の「攻撃」を見てるから、向こうから勝手に食べに来てくれるだろう。


 移動販売車とかキッチンカーみたいなのが有ればいいんだけど、さすがに異世界のここには存在しないからな。

 こんないい加減な世界感だと、どこかに存在してるかもしれないけど。

 まあともかく急ごしらえの屋台ではないけど、リヤカーみたいなのにプリン入りの鍋を入れて運んでもらう。

 だが送り出そうとしたら、編成したうちの一人が不安げに俺に漏らした。


「お、俺……プリンを食べないのを我慢できる自信が無いです」


「んじゃ食べりゃいい。その代わり特別美味(うま)そうに食えよ。そんな姿が一番の宣伝になるからな」


「は、はい……!」



 その時、上空が暗くなり映像が浮かんだ。

 帝国のクソ皇子、ザルツプレッツェルの顔が。

 これは帝国の魔法か?


「むぅ……! これは帝国の映写魔法!!」


「知っているのか雷電……じゃない、ドノエル!?」


「ライデン……? いやまあいい。帝国の魔法技術に、離れた場所に術者が見た映像を映し出すものがあると聞いたことがある。だがこれほど鮮明に大きく映し出せるとは」


「でかいホログラフィみたいなもんだって訳か」


「ショウタの世界にも似た技術があるのか」


「もっとショボくて制限も多いみたいだけどな」


 そんな俺たちの会話を断ち切るように、空に映ったクソ皇子は話し始めた。

 ってか、音声まで出るのかこの立体映像。


『邪悪な魔族どもよ、無駄な抵抗を止めよ。今ならまだ命だけは助けてやる』


 何を言ってるんだコイツ?

 俺たちはいっせいに「?」を頭に浮かべて首を(かし)げた。

 空中のザルツプレッツェルはそんな俺たちの様子が分かろうはずもなく、ムカつくドヤ顔で演説を続ける。


『貴様らはまだ勝算があるつもりなのかもしれんが、こちらには切り札がある。……おい、()()をここへ運んでこい』


 視線を横に向けると、誰かにそう命令するザルツプレッツェル。

 それに対して、おそらく側近の声だろう「皇子の命令だ、アレをここへ」のセリフと共に布を(かぶ)せられた大きな箱(?)が運び込まれる。

 映像の視線が箱に切り替わった。


 人がひとり、まるごと入りそうな大きさの箱の前に立つザルツプレッツェル。

 ムカつくドヤ顔のままで胸をそらしている。


『邪悪な魔族ども、これを見るがいい!』


 命令に応じて箱に被せられた布が取り去られる。

 中から現れたのは、男物の囚人服を着せられた長髪で赤毛の魔族の──。


『うおっ、まぶしっ!』


 こらこら、淑女(レディ)がそんな言いかたするんじゃありません。

 目の辺りに手をかざして光を(さえぎ)ろうとしているアスティの姿がそこにあった。



*****



 アスティは、牢屋に入ってショウタを待つのに退屈し始めていた。

 被せられている布は消音効果のある魔法をかけられているらしく、外部の様子が簡単には分からないようになっていた。

 仕方がないので、少し前に適当に外へ出て入手していた爪切りで爪をパチパチ切っていた。


「ふむ、こんな感じか」


 今までは気にせず短めに切っていた爪。

 だがショウタの店に出入りするうちに、他の貴婦人の指先が目に入るようになった。

 長めに切った爪にマニキュアを塗り、色鮮やかに光っている指先。


 美しく着飾って想い人の気持ちを()くには、そこにも気を配った方が良いのだろうか?

 まぁ短くするのはいつでも出来る。

 あれこれ考えずに、まずは試しに長めに切ってみよう。


 パチンパチン。


 ガタンゴトン。


 ──ん? 何か牢屋が揺れた気がするな。しかしショウタが助けに来てくれた時のために身だしなみを整えておこう。


 パチンパチン。


 ──ここの部分がヤスリになっていたな、これで爪の先を削って整えよう。


 ゴリゴリ。


 バサッ。


 突然、被せられた布が取り去られてアスティを光が襲う。

 さすがに目が(くら)んで、手を目の前にかざした。


「邪悪な魔族ども、これを見るがいい!」


「うおっ、まぶしっ!」


「って貴様、なにを呑気(のんき)に爪を切っている!? ってかその爪切りはどこから持ち込んだんだ!!」


 光の向こうで誰かがそう(わめ)く。

 明るさに目が慣れると、そこには帝国の皇子にして『魔王』を共に倒した仲間であった男がいた。

 アスティはさっと周囲を見渡すと、およその状況を理解する。


「ここは戦場か。とするならば相手は我が魔族の同胞という訳だな」


 アスティはザルツプレッツェルの言葉に耳を貸さずにそう独り言ちる

 腰に手を当て胸を張り、周囲を見渡すのを続行すること数瞬。

 映写魔法のカメラにあたる水晶玉を発見するとそちらへ顔を向けた。


「すまん魔族の同胞よ。ちょっと事情があって帝国に捕まる事になった。きっとショウタが助けに来てくれるはずだから、それまで持ちこたえてくれないか」


「あっ貴様なにを勝手に話しているんだ、虜囚の分際で! そしてその爪切りを入手した理由を聞かせろ!」


 爪切りにこだわる事で小物感が増すザルツプレッツェル。

 そしてそれはアスティにもバッチリ伝わっている。


「なんだ、帝国の人間を(みちび)く立場の者のくせに細かいことに(こだわ)る男だな。大成できんぞ?」


「うっせえわ!」





 そんな二人のやりとりは、上空の映像にもしっかり反映されていた。

 もちろん音声も。

 しばらくそれを、あっけに取られて眺めていたドノエル。

 だがハッとなって、そばでプリンを作っていた男へ振り向く。


「ショウタ!!」


 そこに居たはずの元・四天王の男の姿は消えていた。





 ザルツプレッツェルはアスティに冷静さを失って叫ぶ。

 上空に映像が映し出されている事も忘れて。

 その時点で執政者としての素質にも疑問符が付いてしまったのも気が付かない。


「だいたい、あのくだらない雑用男をなぜそれほど気にかける!? 前『魔王』を倒した時もたいして役に立っていなかったではないか!!」


「本気で言っておるのか、ザルツプレッツェル皇子。前『魔王』を()()()()()()()()()()()勇者よ」


 少しムッとした様子のアスティ。

 当て(こす)るように皮肉を込めてそう返した。

 それを上から目線で、うすら笑いとともに肯定する帝国の皇子。


「当たり前だろう! 『魔王』と戦った時も俺たちの陰で、やつはチョロチョロ動き回っていただけではないか!!」


「ショウタの事をそのようにしか見れないから、お前はいまだに皇帝を継げないのだよ、ザルツプレッツェル皇子」


「うっせえうっせえ! ちょっと料理が出来るだけの目立たず影の薄い地味男を、皆がやたら評価するのが変なんだよ!」


 皇子の言葉に、アスティはやれやれと首を振ってため息をつく。

 そして聞き分けのない子供に(さと)すように言った。


「目立たず影の薄い地味男、か。プライドが邪魔してショウタをそんな風にしか考えられないから、今回お前は足を(すく)われたんだし、()()()()()()()()()


「なに!?」


 アスティの言葉に思わずそう聞き返したザルツプレッツェル。

 しかしアスティからの返答は無かった。

 皇子の後ろから、男の声がかけられたからだ。



「助けに来たぜアスティ!!」



 ザルツプレッツェル皇子が慌てて背後へ振り返る。

 そこには彼が目立たず影の薄い地味男と評したショウタが、不敵な笑みを浮かべて立っていた。

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