第17話 ショウタが頭を丸坊主にしてたら完璧
俺は会場を忙しく走り回りながら、菓子を載せた皿を配膳していく。
皿の上には、半透明な皮で餡子を包んだ関西風の葛餅。
「ほほう、これはまた何と涼し気な……いやいや、まずは先にこちらの菓子の採点だ」
「このドーナツはなかなか粉砂糖の見た目も良い感じだから、点数も高めで良いか。それでもこちらのプルプルした食感の菓子のほうが何倍も美味い……おっとっと」
俺の菓子を味わいながら、参加者の菓子の採点をする審査員。
連中がチラチラと顔色をうかがうのはブルエグのオッサンだ。
その当のブルエグは俺を憎々しげに睨みつけているけどな。
本来なら関係者ではないという名目で俺をつまみ出したいんだろうブルエグ。
だけど王様の「良いではないか」のひと言で不問にされてしまったのが、悔しくて仕方がないんだろうな。
これぞ必殺『真の実力者は誰なのか嫌でも分からせる作戦』。
俺はブルエグの目の前を、わざと皿の上の菓子を見せつけるように通り過ぎる。
その瞬間だけブルエグは菓子に目を奪われガン見していた。
よだれ垂らしながら。
「王様、どうぞ」
「おお、これは何という食感だ。ぷるんとして冷んやりした皮が、中の甘い餡と混ざって素晴らしい味になるのう」
ぐぎぎぎぎ!
ブルエグが歯を食いしばる音。
俺を参加させないプライドを取ったんだから、自業自得の地獄だぜ。
口笛を吹きながら、皿に葛餅を追加で10個ほど載せて観客席へ。
「はい、それじゃ10人まで試食可能でーす。希望者はジャンケンで決めてくださいね」
俺がそう言うと、品評会の観覧などそっちのけで観客はみんな隣とジャンケンし始めた。
なかには数人集まって一斉にやっている連中もいる。
勝ったものは期待に満ちた顔で立ち上がり、負けたものはガックリと項垂れる。
それをニコニコと見つめる、ムッキムキの肉体になった王様。
なんか「私が来た!」とか言い出しそうな雰囲気になっちゃってるよ。
あ、また腕を曲げて自分の肉体美に見惚れてる。
何度目かに俺がブルエグの前を通った時に、ヤツが小さく悪態をついてるのが聞こえた。
「くそ! くそっ! くっそおおっ!!」
「クカカカカカ! 菓子作りは勝負だ!! お前の理性がどこまで保つか賭けるか!?」
高らかに笑い声をあげると、ブルエグのオッサンに向かってそう俺は勝ち誇る。
それを横からマシュウ王女が窘める。
「ちょっとショウタ、すごく目つきが悪くなってるわよ? それに品評会を乱し過ぎるのは良くないわ」
「ククク、今の俺は鉄鍋のショウタ! 今の俺は勝つためなら、薬を盛ることだって審査員の飼い犬を食わせることだってホイホイやっちまう男なんだぜ!!」
「なんか色々とヤバい気がするからその先のセリフを止めておくわ」
ぺしん。
そう言ったマシュウ王女に頭をチョップされる俺。
すみません、悪ノリし過ぎました。
「ところでショウタ、最近なんかあの魔王様を見かけないんだけど……」
「ん、アスティのことか? なんかこの品評会で優勝することに専念してほしいからって、しばらく店に通うのを我慢するって言ってたな」
「え、本当!?」
俺の言葉を聞くと、目を大きく広げて驚くマシュウ王女。
くるりと背を向けると、手を力強く握りしめて「よし、チャンス到来!」と呟いていた。
なんのチャンスなんだろ?
まさか彼女が俺に惚れていて、アスティから奪うチャンスとか思ってくれているとか?
ははは、まさかそんなラノベみたいな展開がある訳ないか~。
*****
「姉上、次はこちらの本年度におけるサトウキビと砂糖大根の取れ高を示す書類を」
「うむ。その前に、この書類に決裁の判を押してからだ」
魔族領内の様々な報告書に素早く目を通し、時に判を押し、時にそれぞれ担当者に指示を出す。
人を纏める者の影の苦労。
地味な書類仕事を文句も言わずにこなしていく魔王アスティと宰相にして双子の弟のトスティ。
その仕事ぶりは堅実かつ高速。
他の国の人間や商売をやっている者が見たら、どちらか片方だけでも貸してくれ、いやむしろ指揮を取ってくれと土下座して頼み込むレベルだ。
これで見目麗しいのだからとんでもないチートスペックで、それはまるで作り話の中の登場人物のよう。
「それでは姉上、ひとまず休憩を入れましょうか」
双子の弟トスティにそう提案された途端に、魔王アスティは両手を伸ばして執務机に上体を突っ伏す。
おでこを机にくっつけたまま「あああ~~~づがれだああ」と低い声で呻いた。
トスティが姉の好きな紅茶を淹れて持ってきたが、その香りに魔王はちっとも反応しない。
少し訝しんだ弟は、しばらく姉のアスティを見つめる。
やがて魔王アスティは突っ伏したまま、バタバタと伸ばした両手をバタつかせた。
「ううううう。ショウタのお店に行きたいよ~~~!!」
ジタバタと両手を動かしながらこぼす女魔王。
それを見て弟トスティはため息混じりに姉に諭す。
「品評会が終わるまではショウタに集中してもらう為に、と会わない事を決めたのは姉上ではないですか」
「ううう。分かっている、分かっているのだ。でも行きたい気持ちもあるのだから、愚痴ぐらい言わせて欲しいのだ〜!」
バタバタバタバタ。
アスティの腕の動きが高速になった。
駄々っ子な態度の姉に、呆れ半分にため息をつく双子の弟。
「さあさあ姉上、せめて好物のショウタのプリンを食べて気を紛らわせましょう」
「プリンも今日はなんか食べる気がしないよ~」
彼の双子の姉は、そう言ってゴロンと横になって転がった。
体育座りのように膝を抱えた体勢で。
今まで仕事をしていた執務机の上に。
この部屋の外に出るときに装着している鎧を付けていたら机が傷だらけになっていたな、と弟のトスティは考える。
そして小声で小さく呟いた。
「やれやれ重症だな、ショウタ断ちの禁断症状がこんなにも早く出るとは」
まるで薬物依存のように扱われるショウタ。
彼は泣いていい。
膝を抱えて丸まった姿勢で机の上で横になっている姉は、ゆさゆさと身体をゆすり始める。
相変わらずう~う~と唸りながら。
トスティは、有能宰相にして双子の弟は、その姿を見てやがてニヤリと笑う。
「ふむ、だがしかしこれは事を起こす良い頃合いかもしれないな」
先ほどよりもさらに小さい呟き。
その双子の弟の声は姉に届くことは無かった。
トスティは、ダイモン医師がよくやっているように丸眼鏡を指で押し上げる。
眼鏡が彼の瞳を隠すようにキラリと光った。
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