第14話 策に溺れてるように見えるのも策のうち
深夜の屋敷は静まり返っていた。
寝ずの番をしている守衛はいるが、物音も気配もさせない相手じゃ反応しようが無いだろう。
といっても、そういった隠密系の魔法を探知する結界魔法は当然かかっている訳だが。
それでも全く問題なく俺が屋敷内を動き回れているのは、どうもチートは魔法とは違う物としてこの世界に認識されてるかららしい。
認識というかそういう設定というか。
設定だとゲームっぽい発想なんで、なんか違う感が満載なわけだが。
チートスキルがすでにゲームっぽい? うるせーよ。
そういえばドノエルをはじめ、魔族のみんなもチート能力のことは「変わった特技」程度の認識だった。
などとボンヤリ考えながら俺は遮音スキルと気配遮断スキルを使いつつ、目的地を探す。
アスティの魔王城と比べたら酷ではあるが、それでも結構な広さの屋敷。
今の店舗の二階で寝泊まりしている俺と比べたら雲泥の差だ。
最初はちょっと羨ましい気もしたが、一人で暮らすことを思うときっと持て余すだろうな、と気が付き羨望が薄れた。
途中で屋敷の中庭に出て、そこに屋外用のテーブルと椅子が置いてあるのを見た。
うーん、ここにアスティを座らせてプリンを食べてもらうのも良いかもな。
明るい日差しの中、美しき女魔王がプリンを口に運んで笑顔を作り、身体とオッパイを震わせて──。
──っと、何を関係ない事を考えてるんだ俺は。
「あった、居た居た、ここだな」
ようやく目的の部屋を見つけた俺は、無意識にそう呟いた。
よかった、相手は個室に一人きりだ。
そんな風に考えながら音を立てないように静かに鍵を開けると、俺はスルリと中へ忍び込んだ。
「んむ……。なんだ、誰かそこに居るのか……?」
奴が寝ぼけ眼でそう呟く。
おっと、なるべく音を立てないように準備していたが起きちゃったか。
仕方がないのでベッドのそばに行って、腕組みしながら黙って立つ。
ぐっすり寝ていた相手の意識がはっきりするまでじっと待つ。
やがて俺の存在に気が付いた奴は、目を見開いて大声をあげた。
「誰だキサマ!? 誰か! 誰か来い! 賊が入り込んでいるぞ!!」
でも残念、遮音スキルの範囲をこの部屋全体に広げているので外に音は漏れません。
自作の覆面をかぶった俺はこいつの目の前でゆっくりと指を振り、無駄な行動だとジェスチャーで示した。
それでもコイツがわめき続けるのは想定内だったので、構わずおれは作業の続きをする。
といってもヤツの目の前に小さなテーブルを持って来て、その上にフォークを置くだけ。
さすがに手づかみは可哀相だしお箸は使えないだろうしね。
さんざん叫び倒して、ようやく誰も来ない事に気が付いた奴は青ざめた顔でベッドの上で縮こまる。
そんな相手の態度も気にせず目の前のテーブルに置いた皿の上に、持ってきた箱の中から中身を取り出して載せる。
この世界にもタケノコの皮みたいなのがあって助かるよ。
まるで字で書いたような都合の良(以下略)
俺の行動を怯えながら見ていた奴。
皿の上に置いた物を不信感まる出しで睨んでいた。
だけど──。
「ぬ……? なんだこの香りは」
ふふふ、やっぱり反応したか、品評会の審査員を担当する貴族さんよ。
食い意地が張ってるアンタみたいな人間なら、絶対に効果があると思ってたよ。
しかし腹の突き出た中年太り体形はブルエグのオッサンを思い出させるな。
ブルエグのオッサンには腹立つから食わせてやらん。
この目の前のみたらし団子はな。
せっかく箱に保温・保存のチートスキルをかけて持ってきたんだ。
そのバツグンの効果は、部屋いっぱいに広がるみたらし餡の香りで明白。
醤油と砂糖の少し焦げた甘い香り。
見ると今やヨダレたらして団子を見ている審査員の貴族。
まだ食べないのは、たぶん毒が入っているかどうかを疑っているんだろうけど。
さすがに俺は声を出して命令した。
「食え」
慌ててフォークを突き刺しみたらし団子を頬張る貴族。
次の瞬間。
「こ……これは! これはっ!! 美味ーいーぞおおおおおおっっっ!!」
大声で叫ぶと勢いよく立ち上がる審査員の貴族のオッサン。
背景に謎の後光が入り貴族の目と口からビームが飛び出る。
それだけでなくビリビリと服が破けてすっ裸になってしまった。
背景がいつの間にかオーロラみたいなのに変わってるよ。
目も少女漫画のような潤んだものになっている。
それを見た俺は、なんだか心の中の大事な部分が傷ついた気がしながら、目の前の光景を眺めていた。
審査員の貴族のオッサンは床に倒れると、恍惚とした表情で頬を赤らめている。
あ、口に指まで咥えてるよ。ヤメテケレー。
見てはいけないものを見てしまって後悔に顔を歪める俺。
覆面で顔を隠していて良かった!!
俺はみたらし団子を食べた衝撃でまだ身体をピクピクさせているオッサンに言った。
なるべく平静を保つように努力しながら。
「これが菓子専門店ノカシの味だ。いま食べたその菓子の味と香りを忘れるな」
それだけ言い捨てると、俺はその場を後にした。
ふふふ。
これぞ必殺「実力行使で俺の菓子を食べさせれば良いじゃない」作戦。
嫌でも俺の作る菓子の味が分かっただろう。
部屋に残されるのは未だに夢見心地な表情の中年太りな裸のオッサン。
そのオッサンのケツが目に入った俺は、何故か涙目になりながら足早に去った。
さて他の審査員役の貴族連中全員の口にも、この団子を突っ込まないと。
去り際に「はふん幸せぇ(はぁと)」という野太い声が聞こえた気がしたが、全力で無視。
その夜、街の貴族の屋敷がある区画のあちこちで謎の怪光線が立ち昇ったと、後日噂に聞いた。
次の日、マシュウ王女が店に怒鳴り込んできた。
「ショウタ! 昨日の夜中に、審査員をやる貴族の屋敷に侵入して貴族の方を脅したんですって!? 審査員全員が怒って絶対許さないって息巻いてるわよ!?」
「あるぇぇえええ!!??」
*****
「……というのは半分冗談だ。こうなることも当然予想して次の作戦もちゃんと準備してるよ」
「本当に?」
疑わし気な目で俺を見るマシュウ王女。
そんな彼女に、腕組みをして不敵に笑って答える。
「食い意地の張った連中だ。食欲を刺激し続けてやったら近いうちに耐えられなくなるよ」
「やっぱり私があの場に残って、反対したほうが良かったわ」
「大丈夫、連中は俺の菓子を食った。もう逃げられないさ」
「本当に?」
「本当ですったら」
お願いマシュウ様、僕を信じて!
この話のサブタイトルを信じてええぇぇぇ(泣)
※面白かった、続きが読みたいと思っていただけたら、感想やポイントで応援いただけると励みになります。




