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私は夕飯を食べ終え、お風呂に入ろうとして自分の部屋にパジャマを取りに戻った。
部屋に入ると同時に、隣りの家の春希の部屋に明かりがついた。
あ、春希帰ってきたんだ。
春希の部屋と私の部屋は隣接していて、窓を渡って来る事も可能な程近かった。
昔はよく窓から行き来していたものだ。
私はカーテンと窓を開け春希を呼んだ。
「春希ー」
私の声に気付いた春希が、カーテンを開ける。
現れたのは、いつものメガネ姿の春希だった。
なんだ、普通だ。やっぱり春希は春希だ。
ガラガラっと窓が開き、春希が顔を出す。
「何?」
「何? じゃないわよ、今日のあれはなんなのよ」
「あぁ、あれ?」
「だから、何なのって聞いてんの」
「バスケ」
「そんなの分かってるわよ! そーゆー事を聞いてるんじゃなくて!」
「あー、分かった分かった」
春希は怒鳴る私の言葉を遮り、笑いながら
「お前、気付くの遅すぎ」
そう言った。
訳がわからず、私は
「何が?」
聞き返してしまった。呆れた春希はおもむろにメガネを外して私を見た。
「まだわかんねーの? お前、俺の噂とか聞かないの?」
「はぁ?」
私は春希の言葉の意味が分からずに、眉間にシワを寄せて春希を見ていた。
「お前何にも知らないのな」
春希の言葉に私はショックを受けた。
「何言ってんのよ、知ってるわよあんたの事なんて」
「なら何で今さらそんな事聞いてんだよ」
「それは……」
言葉に詰まる。春希の事は何でも知っているはずの私が、今日この日まで春希がバスケをやっていた事を知らなかったのだ。
「お前は、自分にとって都合の良い俺だけを見てただけなんだ」
春希の言葉が胸に刺さる。
これが、私の幼馴染?
「今日紗智が見た俺が、本当の俺なんだよ」
「本当の春希?」
「そ、本当の俺。スポーツ万能、成績優秀、メガネはフェイクでモテる為の道具。ケンカも強くておまけにかっこいい」
春希は指を折りながら、自分の良さを次々と言い出した。
「ナニイッテンノ? 頭でもぶつけた?」
「ちがーう。それが俺なの」
「だって、私の知ってる春希はそんなんじゃ……」
動揺を隠し切れない私は、言葉に覇気がなくなってきた。
「お前が見てたのは、弱くてトロくて勉強だけの俺」
「なんで?」
「何で? 紗智の前でそうしてれば、厄介ごとは全部片付けてくれたから」
――――何それ?
「紗智って、面倒見いいよなぁ。俺助かっちゃった」
――――私、使われてた?
「紗智だって気分良かっただろ? 弱い幼馴染を守るスーパーヒロイン!」
――――今までの春希は全部うそ?
「俺を助ける時の紗智って、すっごく良い顔してたぜ」
私は春希の言葉にだんだん腹が立ってきて、今にも爆発寸前だった。
「今までのは、全部作ってたって事?」
怒りで春希が見れなかった。私は下を向いたまま冷静さを装いながら言った。
「作ってたって言うか、防衛本能? そうしてればいいんだって」
「でも、自分でも対処できたんでしょ?」
「だって、めんどくさいじゃん?」
「それで、私を騙してたの?」
「騙すなんて、紗智。お互いいい気分だったわけだし、いいんじゃない?」
「それじゃ、何で今さらそれをやめたの?」
「やめた訳じゃないけど、なんだかつまんなくなってきたし」
「つまんない?」
「そ、紗智もそろそろ知ってもいいんじゃないかなぁーって。かっこいい俺の事」
ムカっときて、私は勢い良く顔を上げた。春希はニコニコしている。怒り心頭!
「あんたサイテーね! こんなヤツが私の幼馴染だなんて許せない!」
近所迷惑もかえりみず、私は大声で叫んだ。
「そんなに怒るなよー」
「これが怒らずにいられる?! ばっかじゃないの?! 信じらんない!!」
「でも良かったんじゃない? もうこれでトロい幼馴染の面倒みなくて済んだんだし」
「そー言う問題じゃない!」
「あ、そう?」
悪びれもなしに、春希は涼しい顔をして
「やっとお前にもバレた事だし、これからは素の俺でいくから。あ、それと、お袋や千夏ちゃんには内緒な。急だと驚くし。今まで通り、良い子の俺で通すから」
ニコニコしながらそう言った。
開いた口が塞がらない。私は目を丸くして春希を見ていた。
「そういえば、あの時お前の顔赤かったけど、今日の俺そんなにかっこよかった?」
「――っ!!」
赤面再発! 急に心臓が痛いくらいギュッと締め付けられた。突然の切り替えしに私は思いっきり動揺してしまったのだ。
「なっ! あっ! ば、バカじゃないの?!」
言葉が見つからず、熱い顔のまま春希に怒鳴った。
「じゃな、また明日!」
それだけ言うと、春希は私に背を向けて部屋の奥へ行こうとした。
「ま、待ちなさいよ! まだ話は終わってない――」
「俺、着替えたいんだけど。それとも見たいの?」
「ちっ! 見たくない!!」
春希の意地悪な言い方に、私はパニックに陥ってしまった。慌ててカーテンを閉めそのまま黄色い布を握り締めた。
「春希のバカー!」
「おーこわ。じゃなー、さっさと風呂入って寝なー」
カーテン越しに春希の言葉が聞こえてきた。昨日までとは違う幼馴染の性格に、私は戸惑うばかりだ。
16年も一緒だった春希が、実は作ってました。なんてあんまりだ。
神様、どうかこれは夢だと言ってください。そして、いつもの春希を私に返して! あんな詐欺師、私の幼馴染なんかじゃない!
春希が食事か入浴か、はたまた下でテレビを見る為か、自室から出て行った後も私はカーテンを握り締めたまま動けずにいた。
ずっと私を騙していた春希に対するムカムカした気持ちと、ガラっと急変した春希の言葉と態度にドキドキした気持ちが入り混じって、頭の中はグチャグチャだった。
突然持っていかれた自分のペースを取り戻すのには、少々時間がかかりそうだった。
とりあえず、完結です。
昔に書いた小説を引っ張ってきました。
中途半端といえば中途半端で申し訳ないです(汗)
試しの投稿でした!
最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました!
※現在、他の作品作成中です。設定もガラッと変わります。もしご縁がありましたら、その際はよろしくお願い致しますm(_ _)m